15 アホはその時が来たと勘違いする。
今日もミリアはミリア・ローナフ、上にも下にもミリアです!
逆に言えば左も右もミリアなのではないでしょうか、オールオブミリア、ミリアはどこからでも見ています。いやそれは流石に怖い。
さて、数日が経過して状況が少し動いた。
何でも私の話を直接聞きたいらしい。私とシェードちゃん、それからローゼ先生に引率……というか、おそらくはローゼ先生の監視にカンナ先生がつきます。
え? 私もです? いやいやそんなバカな。
本部に行く上に、話を聞くというのはそれはもう一大事らしく、ローゼ先生はいつもどおりだけどカンナ先生は緊張していて、シェードちゃんもちょっといつもより堅い。
私としては、本部に行けるということは、あることを意味するのでちょっと楽しみ。
ただ話を聞いたカンナ先生の様子からして、そこまで悪いことではないと思うけれど、場合によってはなんかこう、魔女裁判とかそんな感じになるかしれない。私魔女じゃありませーん!
そういうわけで四人で本部――正式名称人類最終生存圏統括本部『セントラルアテナ』にやってきました。人類の生存圏のその中心。でっかいでかい塔。この塔を中心に、北海道くらいの土地が人類の生存圏なんだとか。
試されているなぁ、と感じつつカンナ先生の先導で塔を進む。
あちこちを歩いているのは、軍服っぽい洋服の女の人と男の人が大体半数。その中に、女性は一部軍服に金の刺繍が入っている。この刺繍が入っているのが戦姫の証。ちょっと豪華なんだとか。
「わ、わぁ見てミリアちゃん、アレ、クロア隊の人たちだよ……遠征から帰ってきたんだ」
「落ち着いてくださいシェードちゃん、なんかすごいお上りさんみたいです」
「お上りさんなんだよぉ。ミリアちゃんは落ち着きすぎじゃない?」
「来るのが初めてじゃないですからね」
さすがローナフ家、とシェードちゃんが感嘆する。ローゼ先生もそうだけど、姓持ちと呼ばれるすごい戦姫の家系は、オドをもって生まれてくることが決まってるし、才能も保証されているので最初から未来のエース戦姫として扱われる。
その関係で、本部にはたまに出入りするのだ。ミリアちゃんは都会っ子というわけである。
他にも理由はあるけれど。
「それでカンナー? この後はどうするのかしらー?」
「十一時から、評議会。一応余裕を見て二時間くらい早く来たから、少し休憩ね」
「えー、本部嫌いなんだけど、だったら首都で本とか見たかったなぁ」
「アンタの希望は聞いてない。シェードさんとミリアさんが本部に行きたいって言ったから、それ優先だ」
「ぶぅ」
――カンナ先生とローゼ先生は元同じ部隊。しかも生まれたときからグランテ家で育ってきた幼馴染だという。同じ部隊の人間というのは私とシェードちゃんも同じだけど、付き合いの長さで言ったらこの二人には敵わない。
本当に息ピッタリで、この二人はこの二人でいる間だけ、自然体になれている様子だった。
「そ、そういえば!」
そこでシェードちゃんが周囲のすごい戦姫さんたちに緊張したのか、二人に話を振る。
「カンナ先生とローゼ先生って、同じ部隊の出身なんですよね」
「そうね……ライア隊っていう部隊で、一緒に戦ってたのよ」
「……なるほど」
ローゼ先生が肯定すると、シェードちゃんは黙ってしまった。多分これはいつものやつで、きっとカンナ隊なんだろうなと思ったら違って、地雷を踏んでしまったと思ったのだと思う。
とはいえ、これまでのシェードちゃんとは一味違うのだけど。
「ライア……さん。すいません、初めて聞いたんですけれど、どんな方だったんですか?」
「……そうか、もうライアがいなくなって何年も経つから、知らない世代も出てくるのか」
「ライアはすごい赤かったよ、赤い髪に軍服も赤が多くて、それはもう何から何まで赤かった」
「ローゼ? アンタもう少しなんか感想ないの?」
「アハハハハ」
シェードちゃんはそこから更に踏み込んだ。
帰ってきた返答は昔を懐かしむもの。そりゃそうだ、ライア隊というのは私も聞いたことがない過去の話だから。そして、二人はそれを割り切れない子供ではないのだ。
「……素敵な隊だったんですね」
「まー、そうねぇ。ライアもそうだし、カンナもそうなんだけど、すごい真面目な隊だった。私が場違いなくらいね」
「アンタは私と一緒にいないと何するかわからないでしょうが。私が学園に来て最初に対応したのがアンタの生徒に対するセクハラだったときの私の気持ちを考えて」
「ハッハッハ、知らないわねぇ」
「アハハ……」
苦笑するシェードちゃん。
さて、私は話題に加わっていないが、何をしているかと言うとちょっと違和感を感じていた。
なんかこう、変なものを感じるのだ。むむむ、と視線をあちこちに彷徨わせている。
「……ミリアちゃん? どうしたの?」
「おっと、ごめんなさいシェードちゃん、ちょっと気になることが有るので単独行動しますね!」
「え、ええ!?」
「時間には待合室に行きますので! シェードちゃんは先生と本部見学をしててください!」
「わ、わかったけどー!」
シェードちゃんは解ってくれますが、さて問題は先生の方。
「私が付いてく?」
「いえ、お構いなく!」
「……じゃあ、いいか」
こちらもあまり気にはしていない様子だった。私は本部に来たのが初めてではないから、問題は起きないだろうという判断だろう。
ありがたいことだ。
「いいんですか? 先生」
「ミリアさんが初めて本部に来たわけじゃない、ということは本部はミリアさんが既に暴れた後ということだから、問題はない」
あれー?
カンナ先生なんでそんなこと言うんですかー!?
「なるほど……」
「シェードちゃんもなんで納得するんですか!?」
「いや、周りの視線がミリアちゃんに対して、すごい緊張感を持ってるのは見てればわかるし……」
そんな!? 私は歓迎されているのではなかった!?
こほん、とにかく話はわかりました。そういうことならば、キチンとおとなしくしていようじゃないですか!
「大丈夫ですよ! 目的以外のことはする予定ないですし!」
「余計心配だよぉ!」
なんて言われながらも、とにかく私は大丈夫なんです! ということで、レッツゴー本部!
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――感じていたのは、視線。
どういうわけか、先程から視線を感じたのです。シェードちゃんいわく、緊張感を持ちながら周囲から視線を集めていたというのではなく、もっと遠くからこちらを観察するかのように。
さて、そこで私は考えた。
乙女ゲーなのに女子校ってどういうことやねん問題。
これに対する本編は学園ではないのでは? という仮説だ。
だってこの世界は詰んでる末期世界。ここからどうやって逆転するのかって、学生の身分じゃそれは難しい気がします。そこで、主人公のシェードちゃんは本部勤務になったところで、物語は始まるのではないか、と。
つまりこの作品は、スーパーコミュ力少女シェードちゃんが、事務方のイケメンとイチャイチャしながら世界を救うラブストーリーなのではないか!
うん、変化球だけどなんかありそう! 私の立ち位置も同じ部隊の意地悪な隊長とか、なんかそれっぽい!
しかし、この世界の私は私です。シェードちゃんの一番の親友ミリア・ローナフとなった以上、シェードちゃんの恋路は私が守ります。
少なくとも、私に勝てないようではシェードちゃんとの交際は認められません!
で、そんな本部で視線を感じたともなれば――
「シェードちゃん守護天使キーーーーック!」
私は襲撃を仕掛けざるを得ない!
「ぬおおおおおお!?」
物陰に隠れていた上に、変な魔法で姿まで見えないようにしていた、どう考えても不審者な男を発見! 蹴りかかるとギリギリで避けられた。
「どうして避けるんです……!?」
「避けるに決まっているだろうが!?」
ちょっと甲高い声の、なんか丸みを帯びた体型の男性だった。もうちょっと鍛えたほうがいいんじゃないですか?
軍服を着て、赤い髪。
いかにもと言った様子のイケメンである。
「キシャア! イケメンめ! シェードちゃんをたぶらかそうなどと、百年早いのですよ!」
「何を言っている……? イケメン……? オレはともかく、この体は……」
「訳のわからないことを言っているのはそっちです!」
「第一、なぜ見えている……? チッ、そういう特異か、厄介だな」
ぶつぶつと、こっちには普通なら聞こえない声で何か言っています。これはそもそも不審者なのでは? ここで撃退しなければならないのでは?
改めて、拳を構えてジリジリと距離を詰める。
「……そもそも、オレが見ていたのはお前たちガキどもじゃない!」
「…………カンナ先生たちの関係者ですか?」
「知るか! 少し気になっただけだ」
カンナ先生とローゼ先生の関係者。赤い髪……はて? なんか覚えがあるような?
ううん思い出せません、多分話を聞き流してしまっていたのでしょう。何か別に気になることでもあったのかな。
「だったら直接声をかければいいではないですか。貴方、ここの職員なんでしょう?」
「できるものか。オレとあいつらは違う存在だ」
「――存在が違うからと言って、何が問題だというのです?」
「……知った口を聞くな」
はぁ、と小首をかしげる。
別に男性職員が戦姫に声をかけるのに抵抗がある、というのはおかしくはないと思うけれど、もしかして昔カンナ先生にフラれたりとかしたんだろうか。
だとしたらご愁傷さまです。
「……んー、つまり狙いはシェードちゃんではない?」
「当たり前だ。お前でもない」
「そんな! こんなにもビューティーなミリアちゃんなのに!」
「話をややこしくするな!!!」
「はい」
色々と引っかかるものはあるけれど、シェードちゃんが狙いではないなら、別にいいのかな。それに、なんというかここで深堀りするのは、ちょっと良くない気がする。
もう少し後でそうするべきという直感。
こういう直感は、虫の知らせみたいなものなので、従ったほうがいいというのが私の人生観。
「ならばよろしい。シェードちゃんに声をかけたら今度こそ潰します」
「何をだよ!」
「言わせないでください!」
べー、と舌を出しながら距離を取る。イケメン無罪とは言うが、シェードちゃんに声をかけたら問答無用で死罪確定、処刑執行である。
とにかく、目的は終わった。最後に釘だけ刺してシェードちゃんと合流しよう。
「ですが、覚えておいてください」
「なんだ」
「もしも、私の大切なものを奪おうとしたら――何があっても許しませんよ」
少しだけ、本気で言った。
――別にこの人が悪い人だとは思わないけれど、もしも悪い人なら、
私は、この人を倒さなきゃいけないのだから。
「…………」
向こうは何も答えなかった。
もう既に、こちらが距離をとっているというのもあるだろうけれど。
少ししてから、
<……なんだったんだ。アレは>
私がその場からいなくなった後小声で、そんなことを言っていた。
さて……コレは一体何なのだろう。ヘタに刺激するより、向こうから何か仕掛けてくるのを待ったほうが良さそうだ。
そんなことを考えながら、私は評議会へ臨むのだった。