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魔法を学べるなら何でもいい

 数年の月日が流れたある日の朝、ミゲルは父にお願いをする。


「ねえ、父さん。俺、そろそろ外に行ってみたいよ。魔法を学ぶ学園だってあるんでしょう?」


「そういうことは覚えてるんだな……」


 ゲイルは深々とため息をついた。


「いいんじゃない?」


 と母が何と賛成に回る。


「ミル?」


 怪訝そうな夫に向かって彼女は言った。


「いつまでもこの子を手元に置いておけないでしょう? それに家にいるよりは、魔法アカデミーのほうがまだ安全じゃないかしら?」


「それはそうかもしれないな。多くの人がいるし、猛者も多い」


 ゲイルはぶつぶつと言って、自分を納得させる。


「わかった。じゃあ俺の恩師に頼んでみるよ。王都の魔法アカデミーは推薦者がいないと、受験できないからな。あの人なら顔が利くから大丈夫だろう」


 と言った。


「やったー! 学校だー!」


 ミゲルは大いにはしゃぎ、父に注意される。


「まだ決まってないからな? 恩師がダメだと言ったら他の学校になるんだぞ?」


 彼は念を押すように言われた。


「うん、大丈夫」


 彼は心外だなという顔をしながらうなずき、そしてようやく疑問を抱く。


「他の学校?」


「ああ。王都の魔法アカデミーが国内最高峰なんだが、当然入学も卒業も一番難しい場所だ。他にもいくつか魔法を学べる学園があるんだよ」


 ゲイルはこいつらしいと苦笑しながら答えてくれる。


「そっか! 新しい魔法を学べるなら何でもいいや」


 とミゲルはにっこりした。

 どうせなら一番難しい場所に──とならないのが彼らしいところだった。


 両親からすれば不思議なのだが、魔法アカデミーに行きたいと言って譲らなくなっても困る。


 触れずにおこうとふたりは目くばせし合った。


 

 父ゲイルが恩師に手紙を出して十日後、五十代の灰褐色の髪の男性が訪ねてくる。


 彼こそがゲイルの恩師だった。


「お久しぶりです、ラーン先生」


「久しぶりだな。ようやく手紙をよこしたかと思えば、いきなり息子の口利きとはな」


 じろりとラーンがにらむと、ゲイルは恐れ入って不義理を詫びる。


「実のところ息子のミゲルが相当な逸材のようでして、そちらに振り回されておりました」


「言い訳だといま決めつけるのはよそう。魔法アカデミーへの推薦をワシに依頼してきたのだからな。もっとも期待外れだった場合は、説教を覚悟しておけよ」


 ラーンは重くて大きな岩のような口調で言った。


「うへえ」


 学生時代を思い出し、ゲイルは情けない顔になる。


「それで、お前の子は?」


 とラーンが聞いた時、ミゲルは母に連れられて彼の前に姿を見せた。


「初めまして、ゲイルの子ミゲルです」


 相手は自分の紹介状を書いてくれる人ということで、ミゲルはていねいにあいさつをする。


「ほう……十二歳にしては礼がさまになっているな。魔法しか教えなかったわけでもないのか」


 言葉づかいは大したことではないが、礼にぎこちなさがないのは大したものだとラーンは評価した。


「それは妻の役目でして」


 ゲイルは恩師にウソをついても見抜かれると、正直に打ち明ける。


「まあいい。ミゲルと言ったね。君がかなり大きな魔力を持っていることはすでにわかるが、それだけで魔法アカデミーに推薦するのは難しい。わかるね?」

 

「はい。がんばります」


 ミゲルは張り切って答えた。

 

(そりゃ国内最高峰なんだから、難しいに決まってるよ! つまり難しい魔法を使っても問題ないってことだよな!!)


 彼はラーンなら自分の魔法を認めてくれて、もっと難しい魔法を教えてくれると期待したのである。


「うん? いずれにせよ、やる気があることはいいことだ」


 ラーンはかすかに引っかかりを覚えた。


 だが、さすがに初対面でミゲルの思考回路には気づけるはずもなく、優しく彼をはげます。

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