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実力を隠すパターンはカッコイイ

 次の日、朝食をすませてからボロン家の親子三人は外に出た。


「それじゃあいっくよー」


 主役のミゲルは両親が見守る中、両手を空にかざしながら呪文を唱える。


「《草花を揺らすもの、遠くへと誘うもの、ここに集いて我が翼となれ。ともに舞い踊らん》【舞翼/ウイング】」


 彼が選んだのは風属性の六位階魔法だ。

 風の力で空に浮かび、移動できるようになる。


「なんだ、その詠唱スピードは!?」


「速すぎる!?」


 両親はまずミゲルの呪文の速さに目をみはった。


「それに【舞翼/ウイング】までだと!?」


 父は悲鳴に近い叫びをあげる。


「風属性の六位階もだなんて、信じられない」


 母にいたっては目を見開きながら、声と両手を震わせていた。

 不意打ち同然で見せられた両親の驚きはひと際大きい。


 ゆっくりと着地したミゲルはふたりのところへ駆け寄って、笑顔で話しかける。


「どう、できたでしょう?」


 彼はまだ自分の異常性に気づいていない。 

 単にサプライズが成功し、思ったより効果があったなと思っているだけだ。


「ああ、すごいが……これはちょっとすごすぎるだろう」


「昨日から練習して六位階魔法を複数だなんて、騒ぎになるんじゃない?」


 驚きが落ち着いた両親の表情には不安がある。


「いや、そこは正直に言わなくてもいいだろう。一年程度ならありえなくはないんだから、ごまかしようはあるはずだ」


 不穏な単語が両親から出はじめたことで、ミゲルはようやく気づく。


「ねえ、もしかして何か問題でもあるの?」


 不安になってたずねると、彼らはハッとなる。


「……とりあえず家の中に入ろうか」


「そうね、それがいいわ」


 近所は民家だらけで知り合いばかりだが、それでも両親はこれ以上外にいるのはよくないと判断した。


 中に入ったところで父は彼の両肩に手を置いて、目を見つめながらゆっくり話しかける。


「いいか、ミゲル。お前の習得速度はすばらしいけど、それは隠したほうがいいものなんだ」


「? 何で?」


 とミゲルは聞き返す。

 隠すことがいやなわけではないが、さすがに理由が気になる。


「あなたは何も悪くないのだけど、魔法適性がすごく高い子は『アルンド』と呼ばれていてね、悪い人がさらいに来るのよ」


「えええ……」


 それは困るとミゲルは顔をしかめた。

 彼の目的はあらゆる魔法を覚えることである。


 人さらいなんてかかわっている時間などない。


(人さらいしか知らないような魔法……いや、ダメだな。いまの俺が捕まったらどんな目に遭うかわかったもんじゃない)


 ミゲルは一瞬だけ心が動いたものの、すぐに理性が勝つ。


 人さらいだけが使える魔法があるとすれば魅力的だが、わずか六歳で六位階魔法を複数使える程度では凶悪な相手には無力だろう。


 さすがにそこまでリスクを冒す気にはなれない。


「だから魔法の勉強をやめろとは言わないが、本当の力は秘密にしてほしいんだ。誰にもばれないように」


 と父が言い聞かせる。


「守れるかしら?」


 母が不安そうに念を押す。


「うん、わかった」


 ミゲルがうなずくと両親は拍子抜けする。

 もうすこし納得させるには時間がかかると彼らは思っていたのだ。


(魔法の練習をするなと言われたら従えなかったけど、他人に秘密にしろってくらいなら平気だろ)


 と彼はすばやく考える。


(何より本当の実力を隠すって、ラノベ主人公みたいでカッコいいじゃん!?)


 そして聞き分けがよかった本当の理由がこっちだった。


 まさか実際に自分が体験することになるなんて、という喜びと興奮を抑えるのに彼は必死になる。


 この流れで喜んだり興奮していれば、両親はさすがに不審に思うだろう。

 

「ひとりで練習するね……家の中だと無理じゃない?」


 そこで彼は聞き分けのいい子みたいなことを言いかけ、困難に思い当たる。


 この家は三人親子としては普通の広さかもしれないが、それだけに魔法を放っても大丈夫な場所がない。


 ミゲルの問いに父はにやりと笑った。

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