やっぱり呪文はカッコイイ
「父さん、おれもっと魔法の勉強がしたい!」
とミゲルは朝食の時に頼み込む。
彼にとって都合がいいのは両親ともに魔法使いだという点だ。
「いいぞ。父さんの跡を継ぎたいってことだな!?」
つまり他の職業の親よりも理解があるし、環境も悪くない。
「え、うん、まあ」
ミゲルはきょとんとしたが、否定して機嫌を損ねたら面倒だとすばやく計算して、とりあえずは肯定しておく。
魔法が絡んだときは頭の回転が速くなるようだった。
「どうせなら自分を超えて行けと言えないのかしら」
ミゲルの母がぼそっと言うが、男たちには聞こえなかった。
「いろいろ魔法の本を読みたいんだけど」
とミゲルは本命の頼みを父にする。
「おおう? 呪文を学びたいのは感心だが、大事なのは実際に練習することだぞ?」
父親は反対こそしなかったが、ふしぎそうに首をひねった。
「覚えてからでも練習は遅くないかなって」
とミゲルは答える。
彼にとって魔法の呪文を覚えることは大切だが、すべてではない。
どうせなら使いこなすところまでやりたかった。
だから父の言う練習も欠かすつもりはない。
「そりゃまあ……」
「まずはやりたいことをやらせてあげたら? あれもダメ、これもダメだとよくないんじゃない?」
言いよどむ父に母が口を出す。
「そうだな。まずはやりたいことをやらせてみるか」
父はうなずいて認める。
「母さんのほうが強いね」
ミゲルはぼそっとつぶやき、耳ざとく拾った母はにこりと微笑む。
「父さんが持っているものを読んで、足りなかったら母さんのところに来なさい。
父さんが持ってない本も持っているから」
彼女の言葉はいまのミゲルにとって最高に気が利いている。
「わぁい! ありがとう母さん! 大好き!」
青い目を輝かせて礼を言う息子を、両親は愛情のこもった笑顔を向けた。
食事をすませたミゲルはまず父の書斎に行く。
そして絶望する。
「高いところにあるものはとれないな」
六歳児にすぎない彼には手が届かい範囲が広すぎた。
「まあいい。手の届くものから順番に読んでいこう」
とつぶやき、手近なものをまず手に取る。
魔法の本はいまの彼でも理解できる優しい言葉で書いてあった。
「おおー、やっぱり呪文はカッコイイなあ!」
書斎の床に座り込んで読みながらミゲルは感嘆する。
彼にとってすべての呪文はカッコよく感じられるものだったし、本人も自覚はしていた。
「がんばっておぼえよう。空をたゆたい遊ぶ妖精。自由を求める鳥」
ぶつぶつと口の中で言ってみる。
一度は声に出してみるのが彼の記憶方法だった。
「ふむふむ」
いくつかやったところで彼の父が部屋にやってくる。
「おー、やっているな。区切りがついたら属性チェックをやろう」
「属性チェック?」
ミゲルは前世の知識を引っ張り出し、あれこれ想像していると父が笑う。
「おう。どうせなら得意属性を磨いたほうがいいからな。それだけでいいってわけじゃないが、まあ基本だ」
「ふうん」
得意な属性を磨くのは基本という理屈は、ミゲルにもわかりやすい。
「じゃあさっそく試してみたいな」
自分の属性を知ることは大事だと彼は判断して立ち上がる。
(どうせならまずは得意な属性から覚えたほうがいいもんな!!)
という気持ちが彼を動かしていた。
「え、本を読んだあとからでもかまわんぞ。どうせすぐには覚えられないだろうし」
「え、先に知りたいよ! ダメなの?」
ミゲルは童心にかえって困惑する父におねだりする。
「ダメじゃないが……まあいいか。どうせ通る道なんだから」
父は気を取り直して許可をくれた。
「どうやって属性をチェックするの?」
「ああ、専用のアイテムを使うんだ。ちょっと待っていろ」
父は答えると書斎の机から白い紙を取り出す。