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手の内を隠すのはカッコイイ(今さら)

 ミゲルは高速で食事を終えて、ふたりの女性の度肝を抜く。


「ちょっと、速すぎじゃない!? 一瞬でサンドイッチが消えたんだけど?」


 クロエはその速さに仰天し、


「そんなペースで食べたら体に悪いわよ」


 フィアナは先に彼の体を心配した。


「え、だって食べる速度あげないと、魔法に使える時間が減るでしょう?」


 ミゲルはきょとんとする。


 魔法のために生きている自負がある彼にしてみれば、これくらいの芸当はできるようになって当然なのだ。


「……やばい」


 クロエはちょっと引いたし、フィアナは頭を抱えてしまう。


「もしかしてとんでもない子が来たのでは?」


 女性教師は弱音を吐いたが、必死に自分に鞭を入れて心を整える。


「と、とにかく、食事が終わったなら、まずは荷物を渡すわ」


 とフィアナは言って教科書が入った黒い袋と、制服が入った青い袋を渡された。

 ミゲルが受け取るとどちらも軽くて、ちょっと目をみはる。


「マジックアイテムだからね。捨てずに長く大切に使ってちょうだい」


「わかりました」


 言われなかったら捨てていたなとミゲルは思いながらうなずいた。


「これから教室に案内するけど、クロエさんは先に行ってくれる?」


「はい、失礼します」


 クロエはミゲルにとって意外だったことに、きちんと礼儀正しくあいさつをして立ち去った。


 ぽかんとして少女の後ろ姿を見送ると、


「あの子は魔法の暴走以外はちゃんとしているから。あなたにとっていい子と知り合えたと言えるわね。……知り合い方がちょっと特殊だったけど」


 とフィアナが言う。

 最後の一言を口にする際には表情が苦くなったが、


「いえ、魔法アカデミーらしい新鮮な出会いだったと思います」


 ミゲルはニコニコとして答える。

 魔法を使っている子とぶつかるなんて、彼の故郷ではまずありえなかった。


 新しい体験をさせてもらえたという意味で、彼は感謝してすらいる。


「そ、そう」


 彼は本気だと女性の勘で察したフィアナは、「またキワモノが」と思わずにはいられなかった。


 一年Eクラスの教室は玄関と同じ校舎の一階にある。

 まずフィアナが入っていき、朝礼をはじめた。


(ヒマだな……今日はどんな魔法を覚えられるだろ?)


 ミゲルはぼんやりと考える。

 早く魔法書を見たい、教科書を見てみたいという欲求をがんばって抑え込む。


「ミゲルくん、入ってきて!」


 左手に持っていた黒い袋を床に置いて引き戸を開ける。

 中には二十人ほどの男女がいて、女子のほうが数人多いようだった。


 入ってきたミゲルに興味津々なのは数人程度で、残りは明らかに興味がなさそうである。


(俺としては安心だ)


 いちいち話しかけられて対応に時間をさきたくないなと思うくらいには、彼はコミュ障だ。


 クロエはにこやかに右手を軽く振ったので、礼儀的に目礼を返す。


「じゃああいさつを」


「ミゲル・ボロンです。テーハー地方から来ました」


 フィアナにうながされてミゲルはそう言ったが、続きは何も浮かばない。


「何を言えばいいですか?」


 と彼は担任に聞く。


「そうね。じゃあ得意属性を話してくれる?」


「え、自分の得意をばらしちゃうんですか」


 フィアナの提案は彼にとっては意外だった。

 同級生にも手の内を隠しあっているほうが、カッコイイのではないだろうか。


(いや、クロエには言っちゃったか)


 だったら同じかなと思いなおす。


「得意なのは闇属性と風属性です」


 ミゲルは光属性を隠したが、特に理由はない。

 そもそもクロエに話してしまった時点で、首尾一貫しているわけではないのだ。


(どれが本当なのかわかりにくい、謎の少年でいってみよう。これはこれでアリだろう)


 と彼は新しく方針を考え出す。

 もちろん苦しまぎれだったのだが、案外悪くない考えだと内心自画自賛する。

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