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魔法をたくさん使うために努力するのは当たり前

「ミゲルくん、ミゲルくん」


 クロエが小声で懸命に呼びかけ、肩をゆすってようやくミゲルは意識を現実世界に帰還させる。


「うん? クロエ……?」


 彼女の可愛らしい顔を見ながら、彼は不思議そうな声を出す。


「トリップしてたんだね」


 マッドのたぐいかあと思いながらクロエは言った。


「そろそろ出ないとまずいよ。学生証をもらったら、本を借りられるようになるから。ね?」


「そうなんだ。じゃあいいか」

 

 ミゲルはとりあえず引き下がる。

 図書館を出入り禁止にされたくないという想いはまだ残っていた。


「そう言えば学生証、まだもらってない」


 そして彼はあることに気づく。


「明日じゃない? 教科書や制服もまだなんでしょう?」


 クロエの指摘に彼はうなずいた。


「急な転入だったと聞いてるもんね。そんなすぐには用意できなかったんじゃないかな」


「そりゃそうだろうね」


 とミゲルは言う。


(魔法だからってそこまで万能じゃないんだろうな)


 彼はそう感じただけで、気にしていない。


「今度こそ寮だね」


 とクロエは言う。


「うん? ああ、そうか。寮監の人に会わなきゃいけないんだったっけ」


 ミゲルはようやくやることを思い出す。


「君がどこの部屋になるか決めるのは寮だから、フィアナ先生も知らなかっただろうしね」


 とクロエが言う。


「学校側は関係ないんだね。もしかして自治権なんてあったりする?」


「それはないよ」


 ミゲルがオタク知識から期待を口にすると、クロエは笑って否定する。


「寮内でのルールや部屋割りについて、学校は口を出さないってだけだよ」


「そっか~」


 つまらないなとミゲルは思う。


 図書館から寮までふたりが戻ってくると、そこにはすこしイライラした様子の男子生徒が立っていた。

 

 炎が燃えているような髪の少年は、黄色の瞳をミゲルに向ける。


「転入生のミゲル・ボロンか!?」


「ええ、そうですけど」


 ミゲルが答えると、男子生徒は言った。


「校内見学をするなら一言入れてほしかったな」


「あ、ごめんなさい。待っていてもらっているとは思いませんでした」


 彼はようやく相手が自分を待っていたのだと理解し、頭を下げる。


「まあ、転入初日で勝手がわからないんだろうな……」


 ミゲルが素直に謝ったので男子生徒の表情がやわらかくなった。

 そして視線をクロエと向ける。


「おっと、わたしはここで。じゃあね」


 彼女はやばいという顔をすると、早口であいさつを言って、そそくさと女子寮へと駆け込んだ。


「まったく、あいつは……」


「知り合いなんですか?」


 口ぶりから何かを察してミゲルが問うと、


「知り合いかと言われればそうなる。入学して初日に魔法で男子寮の壁に穴をあけた女子と言えば、あいつくらいだろう。すくなくとも俺は知らない」


 とたっぷりとあきれた声で言われる。


「ははあ」


 いきなり空から降ってきたクロエらしいなとミゲルは思う。

 どうやら過去にもやらかしをしていたようだ。


「もしかしてお前も何か巻き込まれたのか?」


 男子生徒はミゲルの微妙な表情の動きを見て、察したらしい。


「ええ、まあ。先生に説明されているところにクロエが降ってきましたから」


「……あいつは懲りるということを知らないのか」


 広めの額に右手を当てて、男子生徒は嘆く。


「練習熱心なんですけどね」


 ミゲルは擁護したくなった。


 使いたい魔法を習得するために、練習を頑張っているのだから彼はとても共感できるし、応援もしたい。


「周囲に人や建物がない場所でやってくれという話なんだが」


 と男子生徒に指摘され、


「あっ」


 ミゲルは間抜けな声をあげる。


「まさかと思うが、お前もクロエ・キャンベルと同類なんじゃ……」

 

 知り合ったばかりの相手にいきなり疑惑を持たれてしまった。

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