変異種マーキュリーゴーレム戦 その2
これであいつのHPも半分か。長いような短いような感覚だ。このまま何事もなく終わればいいがこの状況だと無理そうだ。
起き上がったマーキュリー・ホプを見れば表面が激しく波打っている。素直にキモイ。ついにこいつも人型から外れるのか。体は人型を保っているが腕は鞭のように伸び始めた。あれに当たったら痛いじゃすまなそうだ。
「お遊びは終わりってか。ハイエンチャント・グリーンアップ......ナイトビジョン......エンチャント・レッドアップ」
自身にかけているバフを更新して戦闘中に効果がきれないようにする。〈白黒〉の効果が最大まで発動しており、私の周りに白と黒の十字架が合計40個浮遊している。そうなのだ、〈白黒〉がLV5になった時の修正のおかげか召喚できる十字架がそれぞれ10個ずつ増えて全部で40個まで召喚できるようになった。これが頭がおかしいレベルで強いんだよな。ちなみに今のステータスがこれだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
HP:305/[305]
MP:239/[430]
STR:50〈+60〉(+284)
VIT:20〈+60〉(+274)
INT:150〈+75〉(+345)
MND:65〈+60〉(+284)
AGI:50〈+65〉(+281)
DEX:20〈+60〉(+274)
[]内の数値は現在適用されている基礎パラメーター
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うん、バグかな? 素のパラメータをバフの上昇値が軽く超えるという摩訶不思議な現象が起こっている。内訳としてはエンチャント・アップでINT/10、ハイエンチャント・アップでMND/10上昇している。そしてそれぞれのバフに〈白黒〉の効果でパラメータを+6上げる十字架が20個だから+120されているわけだ。これがオリジナルスキルというわけだ。やべー。オリジナルスキルやべーよ。
これにデバフもかかっているのだしそりゃあ、アイアンゴーレムとて瞬殺だわな。
残念ながらマーキュリー・ホプはボスモンスターだからデバフをレジストしているのだろう。デバフも入っていたらアイアンゴーレムたち同様瞬殺だっただろうに。そのおかげで楽しめてるからいいのだけど。
ちなみにHPとMPが半減しているのは新しいオリジナルスキルの制約だ。
マーキュリー・ホプが腕を振るとビュンっと音を立てて地面に亀裂が入る。本当にさっきまではお遊びだったようだ。あれに当たったら死ねる。1回目は〈白黒〉でVITが上がっているから耐えられるだろうが2回目からは〈白黒〉が解除されてくそザコステータスになるから瞬殺されるな。
額から一筋の汗が流れる。こういう緊張感が欲しかったんだよ。今まではぬるすぎた。
「やるか」
身をかがめマーキュリー・ホプに近づく。最初は特に気を付けなければいけない。鞭は先端に行くほどその速度が上がるからな。それに急に不規則な軌道を描いて飛んでくる。
この攻撃を往なそうにも先端が細すぎて逆にダメージを負うことになりそうなので確実に避けることだけを意識して接近する。
だが、あいつの近くまで行ければ危険は少ない。それにそこまでいかなければ攻撃もロクに当てられないしな。
守之術理 舞風
確かに高速で迫ってくる鞭は恐ろしいが回避に専念すれば問題ない。振るわれた攻撃を風の如く緩やかに避ける。亜音速にも到達しうる攻撃は私を目掛け無数に迫りくるがまるで風を攻撃しているかのように当たることはない。後は隙を見計らってこの攻撃の内側に潜りこむだけだ。
あいつの腕は2本しかないから攻撃してくる鞭も2本だけだ。この鞭がさらに増えると避けるのが大変になる。増えるタイミングはまたHPが減ったときかな。
守之術理 風乗
避け続けていたら攻撃のタイミングを掴めたので攻撃に移る。風に乗るようにしなやかな動きで鞭と鞭の間を潜り抜けそのままマーキュリー・ホプ目掛け加速する。
攻之術理 連・震撃
攻撃が受け流されるなら受け流されない距離で打てばいい。できるだけヤツに近づき遅れて内部で衝撃が起こる震撃を放つ。2回連続で放った攻撃は1撃目で体勢をわずかに崩し、2撃目でたたらを踏ませる。そこに蹴りを入れれば体勢を完全に崩し仰向けに倒れる。
知性がないのか鞭になっている腕を直せばすぐ立てるのに手をバタバタと動かすだけで一向に立つ気配が見当たらない。なんかかわいいな。
まあ、容赦なく攻撃を入れるんだけど。
その後も何度も攻撃をし、マーキュリー・ホプのHPが3割になったが今度は鞭だった腕が剣になり結局腕が増えることはなかった。腕が増えれば絶対強敵になれたのに残念だ。
「今度は近接タイプだな。鞭よりも弱くなってるけど大丈夫か?」
腕が剣になるのだったら逆に弱体化ではないだろうか。私としてはこのモードの方がやり易いぞ。マーキュリー・ホプに遠慮なく近づき連撃を加える。振り下ろされる攻撃は避け、往なし私には決して当たることはない。
私の拳とヤツの刀腕の応戦は徐々に激しさを増す。
「お前も肉弾戦が好みか? お前が剣で戦うんだったら私も刀で戦いたかったものだ」
ヤツの攻撃を私は避けるか往なすしか対応する手段がない。私も何か得物が必要だな。〈白黒〉の制約で武器スキルのアーツ 武技が使えない今、素手での戦闘では限界が見えてきた。
まあ、今はそれを考えても仕方がないから目の前のことに集中しよう。
「ッ!?」
攻撃を捌き反撃することに集中しすぎた。それにHPが3割になっても腕が増えることがなかったから油断していた。マーキュリー・ホプの胴体が波打ちそこから剣が飛び出し......それが私の胸に直撃する。
直後、ヤツの顔には嘲笑うような笑みが浮かんでいた気がした。




