魔石集め その3
ただいま絶賛後悔中のゼロです。今の状況を一言で表すなら四面楚歌が適切だろう。少し調子に乗りすぎた。最初に5体だけを集めて討伐した時は思いのほか簡単に討伐できてしまい、そこから少しずつ数を増やしていった。それで30体同時討伐をやったのだがそれでも無傷で倒せてしまったのだ。
そこで私は思ったのだ。100体でも行けるんじゃね? と。それがこのざまでございます。本当に困ったことになってしまった。
だが問題は死にそうだからではない。1体1体は強くないのでしっかりと処理できているのだが如何せん数が全く減らないのだ。
今私を囲んでいる100体以上の魔物は私に対して敵対状態になっているのだがそいつらは私を中心にして大体半径50メートル以内にいる。ゲームの仕様としてその範囲外から出れば敵対状態が解除されるがその範囲内でリポップした魔物は敵対状態の魔物が近くにいると私に敵対した状態で出現するのだ。
つまり、何が言いたいのかというと敵対している魔物が多すぎてリポップした魔物も敵対状態で出現するということだ。
最初はマッドゴーレムのみをトレインしていたはずなのにリポップする魔物がランダムなせいで今では全種類のゴーレムたちが私に敵対している。これがマッドゴーレムだったらまだ楽だったのだがアイアンゴーレムが出現した時点で死に戻りを覚悟した。
それでも諦めるわけにはいかない。何せかれこれ3時間はこの状態が続いているのだから。ここで死んでしまえばこの3時間が無駄になってしまう。
それにこの戦闘が終わったときに貰える経験値も魅力的だ。一気にレベルが上がることだろう。ついでにブロンズゴーレムもかなりの数を倒しているので今朝、ギルドでブロンズゴーレムの討伐依頼受けといて正解だった。
「アブソープ......困ったもんだ。リポップする間隔はそんなに短くはないがアイアンゴーレムが相手だと手間取ってしまう」
アイアンゴーレムの攻撃を避けながら思考に耽る。こいつの攻撃パターンはすべて覚えた。一刀たちがいる時にも散々狩ったし、今日は既に30体目くらいだ。
空気を裂く音を出しながら殴りかかってくるがその勢いを利用してその場に一回転させてやる。人型な分技を掛け易いのが救いだ。
地面に倒れ込んだアイアンゴーレムを足で押さえつけながらMPを回収する。リアさんから貰ったポーションは全部使ってしまったのでアブソーブで代用している。
アブソーブがなければとっくに負けていただろう。アブソーブは対象に触れてればいいので足で押さえつけるだけでも効果が発揮する。これだけの数がいると低コストで放てるデバフもかなりMPを消費してしまうので適度に回復しないといけないのだ。
この状況を脱する方法は思いついている。というか1つしかないと思う。それはここにいる魔物をリポップする前に倒しきることだ。だがこれがなかなか難しい。特にアイアンゴーレムはHPが高くて倒すのが面倒なのに結構速いときた。おかげで動かれるとこいつらに致命傷を与えられる震撃が当てづらい。
いや、それはいい訳に過ぎないな。全ての原因は私が未熟だからだ。父も祖父もいついかなる時でも使えていた。上を見なければ成長はできないのだ。
「そう思うだろ? なんて言ったって分かりはしないか」
そう言って踏んでいたアイアンゴーレムに止めを刺す。光となって消えていくアイアンゴーレムを横に周囲を見渡せば仲間がやられてか、さらにその敵意を増大させたゴーレムたちが迫ってくる。
「【天なる光が我を照らし獄門の扉が開かれる〈連続詠唱 速奪撃〉】」
最低限のバフを唱えて奴らと相まみえる。避けるだけではダメだ。魔物が新たに生まれる前にその数を減らさなければいけないのだから。今は攻めて攻めて攻め続けなければ負けは確定している。
まさに背水の陣。一撃でも食らえば死ぬのだと思うと恐怖よりも先に活力がみなぎってくる。
「さあ、始めようか!!」
双之術理 瓦解
ブロンズゴーレムが飛び掛かり大ぶりに振るわれた拳を掴み、捻る。私だけではなくブロンズゴーレム自身の力も加わり体長2メートルを超える巨体が宙を舞う。大ぶりなほど捌きやすいものはない。己の巨体を悔やむがいい。
攻之術理 天駆・震撃
宙に舞い、重力に従い落ちてきたところに天を貫くように蹴り上げた一撃がブロンズゴーレムを襲い、衝撃の破裂で核を砕く。死んで消えていくブロンズゴーレムの光の粒子に包まれた私を睨む無数の視線が突き刺さる。ああ、なんて心地いいのだろうか。
襲い掛かるゴーレムを捌き確実に一打、奴らの胸元に打ち込む。数回、何十回と拳を交えることさらに数刻、数多の試行を繰り返し洗練された一撃が次々とゴーレムたちを無に帰す。
「もっと怨め! 同胞を殺す私が憎いか? ならば私に一撃でも入れてみろ!!」
魔物と言えど感情はあるのか、声にならない雄たけびを上げその巨体で圧死させようと次々と迫ってくる。先ほどまでは逃げていたであろうこの光景にも何の恐れも沸かず、ただただ嬉しく口角を上げる。
今思えばこんなチャンスを見す見す見逃していたとは愚かにもほどがある。極限の戦闘こそ己を磨く唯一の場所であり、死戦を潜り抜けた先に見える頂はまさに美味佳肴の数々。
ただ愚直に屍を築き、己を鍛え上げる。かつて感じたことのない感覚が私を襲う。人はこれほどまでに成長できるものなのか。
祖父が立っていた場所はまだ遙か向こうだが一歩進めた気がする。研ぎ澄まされた一撃はわずかに触れるだけで全てを消し去る。マッドゴーレムもロックゴーレムもブロンズゴーレムも、そしてアイアンゴーレムでさえ等しく冥府に送り出す。
そして、遠方から事の成り行きを見守っていた者たちは固唾を呑み、次々に光が弾け粒子となって天に昇る。そんな幻想的な光景を目に焼き付けるのであった。




