そして異形へ
雷を受けて行動できない悪魔の上空でダウンバーストが起こり、ヤツを地面に叩き付ける。すると同時に地面が罅割れて悪魔の下半身を大地が呑み込んでしまった。しかし、これらの事象は悪魔の周囲数メートルでしか起こっておらず、だが逆にその効力が非常に強化されていた。
そして悪魔が呑まれた大地は氷の花が咲き乱れ、ヤツの胴より下を氷漬けにしてしまう。だが上半身は炎に包まれてヤツは藻掻き出した。圧倒的熱量を持つ炎がヤツの身体を焦がし、焦げた臭いが醸し出される。
そこで青い閃光が悪魔を貫いた。閃光は極小の柱のようであったが身に受けた悪魔は身体の一部を崩壊させる。そして最後に止めの一撃がヤツの上半身を揺るがした。見えない不可視の衝撃は定められた空間を崩壊させる強力な一撃だ。
その一撃が春ハルさんによってさらに強化されているのだから威力も想像を絶するものとなった。
悪魔の身体が消し飛んで再生を開始しても燃え盛る炎が阻害する。下半身は地面に呑まれて氷漬けされているため動けず、ヤツのHPは徐々に削れ始めた。
「もったいねぇけど、〈奥義・炎一閃〉!」
ダメ押しとばかりに天命が炎の渦を悪魔に叩きつけた。それはデミワイバーン・ドクトゥス戦で見た時に比べて威力は少し低いように感じたが見事ヤツのHPを削り切った。
「よしゃぁああ!」
「これで第二形態は終わりですね」
「次が本番だ。気を引き締めていこう」
終わってみれば第二形態悪魔との戦いも危なげないものだった。最初のレオと悪魔の戦いのように激しいものにはならなかったが天命たちとの連携はヤツに手を出されることなく完封といっても差し支えない程に圧勝だ。
このまま行けば第三形態も難なく突破できるだろう。そう考えていたが現実は甘くはないようだ。
「あいつ逃げたぞ!」
このままでは倒されると悟ったのか悪魔が自ら全身を崩して靄になると魔物たちが群がる後方へと撤退を開始した。ここに来て逃がすわけにいかないと私たちは悪魔を追う。
そこでは悪魔が魔物に憑りつきながら逃げる様が見てとれた。どういう訳か悪魔が憑りついた魔物は干からびてしまっている。
「HPドレインかもしれません。春ハルさん、攻撃を」
「分かった」
春ハルさんが待機させていた適当な魔術を乱射する。それらは悪魔が憑りついた魔物の命を奪いはしたが肝心の悪魔にダメージを与えることは出来なかった。
「逃がすわけが無かろう」
距離を詰めた龍角が悪魔に攻撃を当てる。しかし、これもまた悪魔に危害を加えることが出来ていない。
靄の状態では全ての攻撃が無効化されてしまうのかもしれないと考えながらホーリープリズンを放って魔物ごと悪魔を捕まえようとするがヤツは魔物から離れて靄のまま次の魔物に憑りついてしまった。
悪魔と私たちの鼬ごっこは時間にすれば5分もないが悪魔にとっては長く、私たちにとっては短かった。
「この世界でこの姿を見せるとは思いもしなかった! 貴様らの死をもってその対価としよう」
靄から実体を伴って現れた悪魔は今までとは姿が大きく変わっている。一言で言うと異形だ。
「あれが第三形態...」
「バケモンじゃねぇかよ」
「人の形はギリギリ保ってますね」
「異形に対して格闘術は通じんぞ?」
大きく裂けた口からは止めどなく涎が垂れており、先ほどまでは2本だった腕は6本へと数を増やし、それぞれ掌に口が付いている。翼も2対4本と増え、尻尾も2本に変わっている。
「馴染まんな」
悪魔がそう言うと2本の尻尾が鞭のように撓り、魔物を捕縛する。そして尻尾の先についた口で魔物を貪りだした。
「またですね。脅威度が僅かに上がりました。魔物を喰らうと強くなるようです」
アーサーの考察は正しいのだろう。だが、それだけじゃない。ヤツが纏う靄に触れるだけでも魔物は力尽きている。あの靄にも力を奪う効果があると言うことだ。
「攻撃を続けるしかない」
春ハルさんが待機させていた魔術を打ち出した。宙を駆ける魔術は魔物を喰らう悪魔に辿り着き着弾する。
「殆ど無傷であるか。なら我の攻撃はどうだ?」
魔術の着弾を見届けると同時に龍角が接近し、悪魔に殴りかかる。しかし龍角の右フックを悪魔は6本あるうちの2本を使ってしっかりと受け止めた。
白黒とアーサーの神器、オリジナルスキルを受けて大幅に強化されている龍角の攻撃を受けても悪魔は微動だにせず、まるで不動のように思える。それはヤツの足が裂けて4本になっているのが原因だろう。
「ッツ、危ない」
死角から奇襲をかけようと踏み出した途端、悪魔の腕が私の方に向けられ牙を剥いた。言葉通りヤツの腕が蛇のように伸びて掌にある口で私を噛もうとしたのだ。
「皆さん、全力で行きましょう。春ハルさんとゼロさんは周囲の魔物を排除してください」
魔物から力を奪うのならその魔物を倒してしまえばいい。奇襲を看破された私はアーサーの指示に従い近くの魔物に対して樹王を振るった。




