悪魔と乱舞
「危機的状況であるのには変わりないようですね」
アーサーが眉を顰めながら苦笑した。事前に聞いた情報によるとアーサーが持つ神剣は戦況に応じて仲間を強化する力がある。それも不利になるほど強化幅が大きい。あいつ自身も限度を知らないようだが今の効果内容はまさかの全パラメータ2倍だ。普段が1.1倍とかだと言っていたので強化率が可笑しいことになっている。
「【十の鎖は土拘束。囲う武具は二十の土槍】」
春ハルさんの詠唱が終了すると同時に土の鎖が悪魔に絡みつき、槍がヤツを穿つ。しかし全ての攻撃は悪魔に当たりはしたものの大したダメージを与えることが出来なかった。悪魔も脅威にならないと読んで避けなかったのかもしれない。
「硬い。下級じゃダメ。インパクトは...効くみたい」
だが次にインパクトを使った時、悪魔は大きく横に回避した。悪魔が避けたところは地面が一部消失している。
「時間は掛けられん。天命、合わせろ」
第一形態の時もそうだがこの悪魔に対して碌に力を持たないプレイヤーが幾ら束になっても勝てないことは証明されている。だから少数精鋭で挑むわけだが時間が経てば集中力も欠けてしまうため呼吸が合ううちに攻め尽くすことにした。
「よく言う。俺に合わせろや」
天命と同時に駆けだす。既に不知火と龍角も悪魔と戦闘を始めているので近接戦を挑むのは4人だ。私よりアーサーが出る方が編成的には正しいのだろうがどちらかと言えばアーサーは指揮官だ。私よりも的確な指示を春ハルさんに出すだろう。
「スイッチ!」
不知火たちと前線を交代する。私の白黒、そしてアーサーの神器の効果を受けて対等とまではいかないまでも良い勝負が出来るようになっていた。
「火之舞!」
真っ先に跳び出した天命は剣を振るう。天命のオリジナルスキルは剣術と魔術スキルの複合アーツを作り出すものだ。そのアーツ全てがオリジナルであり、一つ一つ自身で考えたアーツらしい。
「その程度か? まだあの古代種モドキの方が強かった」
そう言って悪魔は天命の攻撃を弾き返した。そればかりか瞬時に刀身を伸ばして切り裂こうとする。天命はどうにか躱すことが出来たようだが次のアーツを撃つには隙が足りなさそうだ。
「ッシ!」
背後に回り樹王を悪魔に叩き付ける。天命に集中していた悪魔は私の攻撃を防ぐことが出来なかったが大したダメージは与えることが出来ていない。効率よくダメージを与えるには武器のランクを上げるか私自身が武術系アーツを習得しなければいけなさそうだ。
書術なら使えるのだがあれはもう忘れ去られた存在だ。元より書術に攻撃系のアーツは無いので意味はない話だがな。
「また貴様か!」
悪魔の眼がギロリと私を睨む。脚が竦んでしまいそうになるほど威圧感があるがこの程度で本当に足が止まるはずもなく、二連撃目を悪魔に浴びせる。しかし、その攻撃をヤツは剣で防ぎ、もう片方の剣を突き出した。
「風牙!」
私が半身をズラして攻撃を回避すると今度は背後から天命が攻撃を仕掛ける。悪魔は奇襲を仕掛けられたにも関わらず振り向いて防御してしまうが突きによるその攻撃は接触と同時に衝撃波を生み出して悪魔を攻撃した。
「小賢しい!」
悪魔のHPを僅かに削ることに成功したがヤツは手に持った剣を巨大化させると一気に振り抜いた。おかげで退避するしかなくなり、悪魔と距離が開く。
開いた距離を詰めようと天命が動くが突如、悪魔が炎上し風に切り刻まれ始めた。春ハルさんの攻撃だ。私たちの攻撃に集中しすぎた悪魔は魔術を避けることが出来なかったようだな。そして魔術による攻撃はヤツのHPを確かに削り取った。このまま100回以上当てればヤツを倒すことが出来るだろうな。
「硬いだけなら問題ねぇな」
「攻撃もヤバいけどな」
龍角と不知火も合流し、悪魔と相まみえる。二人とも特にダメージは負っていない。対してヤツのHPは残り5割程度。案外希望は見えている。
「このまま行くぞ!」
「まとめて消してやろう!」
天命と龍角が走り出し、その後ろから不知火も駆ける。
まずは天命の攻撃が繰り出された。雷を纏った剣を振ると雷撃が悪魔に向かって飛び出す。それに対し悪魔は雷撃を切り裂いてお返しとばかりに黒い靄を飛ばした。その靄を不知火が防ぐ。
「我も続こう。龍王!」
龍角がもう一つのオリジナルスキルを切り、悪魔との距離を詰めた。悪魔は剣を振るって反撃するがそれを華麗に避けた龍角が右フックをかます。ゴツンと盛大に音を立てて悪魔の腹を打ち据える。悪魔は衝撃に身を縮めるがすかさず反撃の一撃を繰り出した。
これまた龍角の腹に衝撃を奏でて悪魔の一撃が突き刺さる。今ので龍角のHPが2割強吹き飛んだ。相手側の火力も中々だ。
「なら次は私だな」
焦ることなく待機させておいたハイヒールを飛ばし、悪魔の背後から震撃を叩き込む。悪魔に関しては気配を消してからの奇襲が効きやすい。僅かに遅れた衝撃がヤツの身体を鳴らした。




