名ばかりの神官
「魔人となったことでコイツの制約も緩くなったがお前程になると易々見破られる」
刀身に模様がある刀を掲げて久遠が言い、刀を送還させながら赫刀を抜いて距離を縮めてくる。対応を迫られた私は距離を空けるのではなく距離を詰めることを選んだ。私が久遠に勝つには速攻でケリをつけるか魔封じの腕輪を使うしかないからだ。
ヤツの間合いに入った瞬間、刀が振られる。間合いが広いことは単純に強力だ。そして長物において先端の速度は常軌を逸す。
守之術理 霞
ヤツの間合いに僅かに入り、刀が私の身体を切り裂くより早く半歩だけ後退する。神経を削るような間合いの読みを要求されるがおかげで赫刀は霞を斬る。
四尺刀、つまるところ大太刀は一撃の威力が非常に高い。だが当てることが出来なければ逆に大きな隙を晒すことになる。後の太刀は想定しないのだ。
「まだ扱いきれてないようだな」
今はまだ久遠も例外ではない。振り抜いた刀の遠心力によって腕が伸びている。ここから次に繋げるとすれば...。問題なしとみて樹王を腰に構える。確実に殺すなら首を狙うのが良いだろう。
「この手は想定してなかっただろ?」
「ほぉ思い切ったことをする。だが私の本職は神官だ」
樹王を振り抜くよりも先に久遠が意外な行動をした。それは赫刀を手放すことだ。そんなことをすれば得物が無くなってしまう訳だがヤツはオリジナルスキルで武器を生み出せる。
返す刀は紋様が描かれた刀となって私の右腕を切り裂こうと迫る。しかし、もしものための対策は済んでいる。
「シールド、リフレクト」
アーツの宣言と当時に服で隠していた魔術陣から盾が召喚された。物理攻撃を防ぐ盾と魔術攻撃を防ぐ二つが展開されて久遠からの攻撃を防いで見せる。
攻之術理 閃撃
居合の構えから樹王を切り上げる。虚刀による魔刃で多少は刀身を伸ばしているがアレは未熟な技術だ。だから確実に仕留められる間合いを確保するためヤツの懐に深く潜る必要があった。
「速い! だが浅い!」
樹王は僅かに久遠に届いた。しかし久遠のヤツは後ろに下がり致命傷を避けて見せた。
攻之術理 雷切
一歩踏み込んで上段からの切り下げ。久遠が後ろに引いた距離以上を詰めての攻撃だがヤツは戻した刀で防いできた。それでも身体能力は現状私に天秤が傾く。威力の減衰はなく久遠を吹き飛ばす。
攻歩之術理 縮地死突
地面を削るようにして久遠との距離を詰める。狙うは脳天。魔人とやらになっても急所を突かれてしまえばどうしようもないだろう。
「カウンタースラッシュ!」
青の軌跡が描かれる。システムのアシストによって久遠の腕は不可解な挙動を示す。それは私の攻撃を達人技のように弾き、返す刀で首を斬ろうと迫る。
ここに来てアーツの使用。使った後の硬直はあるが態勢を崩した状態から対応できるのだから恐ろしい。迫る刀を見ながらそう考える。
守之術理 流水
樹王を手放し、久遠の攻撃を籠手に当てて受け流す。そして前方へと流れる重心を利用して久遠の手を掴み空転させる。
「がぁっ!」
背面から地面に叩きつけられ肺から空気を漏らす久遠。そこに追撃の一手をかける。
「ハイローリング!!」
私の拳が久遠を撃つより早く又もや青いオーラが久遠を救う。身体を回転させることで攻撃を避けるアーツは横になった状態でも条件を満たせば使用可能であるらしい。
拳が地面を打ち付け、一拍置いて地面に罅が入る。私が次の攻撃に移ったのはそれと同時だった。メタモルフォーゼを使用して武装を変換する。手に持ったのは黒茨の槍だ。これを選んだのは既に久遠が起き上がっているからだ。
「それで神官は詐欺だな!!」
黒茨の槍を投擲する。この程度の攻撃なら久遠に対して有効打とはならない。それでも一瞬だけ意識を逸らすことが出来れば十分だ。
投擲と同時に走り出し、樹王を腰に差しながら狙いを定める。ワンテンポ早く、目線から狙いを悟られないように。
槍を避けた久遠は空間を掴んだ。あの動作は...。
「次はどう来る?」
楽しそうに笑みを浮かべながら赫刀を抜き出す。本当ならアレを抜かす暇さえ与えたくないのだが。
「ブラックアウト」
黒の魔術陣から出た闇が久遠を包み込もうとする。決まれば五感を損失させるアーツは残念ながら失敗。状態異常への対策は取られていると思った方が良いだろう。同時に同レベル帯になるとデバフが殆ど意味を為さないのが辛い所だ。
赫刀を構えるヤツに油断は見られない。先ほどのように霞で欺くことは出来ないだろう。だからこそ今回は力業で攻める。
「そうか! 来い、ゼロ!!」
そのことを久遠も察したらしい。
赫刀と樹王では間合いで勝てない。先手は久遠が取ることになる。それをどうにかすることが出来れば次は私の番だ。後の先で制す。
放たれた大振りの一撃。もうすでにヤツの間合いだ。技術で躱すことは叶わない。樹王で防ぐことも叶わない。だからこそ心の静寂を保つ。




