二人の戦い
あの赫刀を防いではいけない。魔の森での経験上防御など意味を為さないからだ。ではどうするか。単純だ。避ければいい。
「魔人となったことの恩恵は俺が想っていた以上に大きい。だが、それらを加味してもまだお前の方が上のようだな」
それは白黒が発動しているからだろう。今はパーティを組んでいる状態であり、パーティメンバーであるレオが悪魔と戦っている。システム的にはそこに久遠が乱入したから戦闘継続状態と判断されたのだ。
まあ、それを差し引いても今の一撃を避けるのはそう難しいことではない。以前の戦闘からして四尺刀は久遠の得意武器ではないはずだ。だからか赫刀の扱いが雑だ。攻撃の軌道が読め、避けるのが容易い。だが油断する訳にはいかない。
魔の森での戦闘を思い返せば久遠の身体能力つまりステータスが上昇していた。時間を掛ければ私の方が不利になることは間違いない。
攻撃を避け、久遠との距離を詰めながら樹王を振るう。しかし樹王がヤツに届くことはない。
「こいつに掛かれば貴様の武器など恐れる必要はないか」
「等級が違うだろうからな」
赫刀による攻撃を避け、放った一撃も容易く防がれてしまった。というよりも赫刀の切れ味が凄すぎるのが悪い。樹王も魔力を込めれば硬化するはずだがそれすらも久遠の刀は切り裂いて見せる。不条理だと叫びたくなる。
しかし考え方を変えれば刀身が切られても直ぐに再生させることで不意の一撃を当てることができるかもしれない。そういう意味では切れ味が良すぎるのも考え物だ。
「手出しをするならお前から先に殺すぞ?」
「うへ、今の捌けるのかよ」
飛んできた矢を切り飛ばした久遠は聖を見る。そして、その切先を突きつける。下手な動きを見せれば聖が斬り捨てられるかもしれない。
「俺の目的はゼロだ。他のやつらに用はない」
そう言ってのけると地面から一本の刀が生み出された。あれがヤツの二つあるオリジナルスキルの一つであるはずだ。もう一つは不可視の追撃攻撃。だが前回と何かが違う。よく見れば召喚された刀には模様が付いている。それが何を意味するか分からないが警戒しておくに越したことはないだろう。
「三対一で勝ち目があると思いですかな?」
魔術陣を展開していたロードが久遠に向けて技を行使した。火と土と水の弾丸が無数に放たれ久遠を穿とうと迫る。
「邪魔をするなら殺すだけだ」
ロードが放った攻撃が久遠を捉える前、ヤツは足元の刀を掴んだ。そして陽炎のように姿がブレ、全ての弾丸は地面に吸いこまれた。そこに残ったのは砂埃だけだ。どこに行ったのか。転移系の能力があの刀にあるとすれば奇襲による一撃の脅威は格段に上昇する。
「ロード! 前に跳べぇええ!!」
「ッチ! 浅いか。」
まさしく間一髪。あと少しでも避けるのが遅れていれば今頃ロードは死に戻っていただろう。
「次は殺す」
影から現れた久遠に対し、聖の攻撃が行われるが刀を操り叩き落とした。完全に警戒されているな。それに例の追撃が発動している。久遠によって斬られ、生じたダメージの後に同じ量だけロードのHPが削れているのだ。
「ロードたちは第二形態に備えてくれ。久遠は私が相手する」
「まじ? あいつめっちゃヤバそうなの持ってるけど...」
「だからだ。ついでに不知火のことも頼む」
「ならりょーかい。久遠の目的はゼロだけみたいだし僕たちの邪魔しないでよね」
二人が私たちから離れていく。不知火とロードのHPは回復させておきたかったがヤツ相手に隙を見せる訳に行かないので諦めるとする。
「これで邪魔者はいなくなったな」
「全員で囲めれば楽だったが」
「バカを言うな。どうせ足手纏いになるだけだぞ? あそこの獣人と悪魔の戦いみたくな」
久遠が指さす方を見る。10秒間隔で行われる身体強化の影響は分かり知れない可能性を秘めているようだ。あれが100秒の命という制約の上に成り立っていることを踏まえてもあの悪魔を一人で圧倒できる力が手に入るのはゲームバランスを崩壊させている。
今のレオのステータスは私が全力で白黒を発動させた時の数倍のパラメータになっている。だからこそ悪魔相手に優勢に戦えているし、だからこそ私たちが手を出し、レオのリズムを崩すことが出来ない。
それは私と久遠の戦いにもいえることだ。私だから避けられる攻撃は聖やロードにとって必殺の一撃となり得る。特に悪魔から与えられた武器と影を移動できる特殊技の相性は最恐だ。
「来ないのか? なら俺から行こう!!」
どう手を出そうか思考を巡らせている間に久遠が動く。身体で上手く赫刀を隠しながら距離を詰めてくる。あの刀身だ。余裕を持って回避しなければ距離感を間違えて斬り殺されかねない。
「違う!」
攻之術理 雷切
樹王の刀身を滑らせ自身の影に最速の一撃を浴びせる。何故か? 近づいてくる久遠の輪郭がブレたからだ。この挙動は先程見た。そして違和感のような物が沸き上がると同時に私の影から異物が跳び出した。
「お前には初見でこの技を当てるべきだったな!」
身体に刻まれたはずの傷を修復させながら久遠が距離を取った。初手は私が貰うことに成功したか。このまま流れに乗りたいところだ。




