悪魔との攻防 その6
世界の事象を塗り替える魔術陣が二つとも砕けて消える。ダメージを受けたことによる魔術キャンセルと言われる現象だ。これによりこの地が焦土になることはなくなり、何より戦況を覆した重力もが消失した。
「よっしゃぁあああ!」
これには私も歓喜の言葉が心から出る。あの状況では一か八かの賭けだった。ヤツに攻撃を当てること自体は難しくないがその後が問題だ。どんな攻撃も万象夢幻が無効化してくれる。しかし同時に白黒の効力が弱まれば与えるダメージが減るのは明確だ。そんな状態でヤツが展開した魔術をキャンセルさせるほどの攻撃が出せるかは私でも確信を持てなかった。
ただ結果だけ見れば成功だ。ヤツは震撃に対応できずダメージを負った。そして魔術は崩壊し、地に落ちていく。
「貴様ぁあああああ!!」
砂埃を巻き上げながら地面に叩きつけられた悪魔は怒りに満ちた顔で私を見上げる。
「さっきとは立場が逆だな?」
「ふざけるな! この私が貴様如きに後れを取るはずがないだろ!!」
悪魔が私に手を翳す。瞬く間に構築された魔術陣は黄色だ。ヤツの得意魔術なのだろう。こうも呑気に思考を巡らせていられるのはヤツの攻撃を避けられる自信があるからだ。追尾機能でもない限り、地上にいるヤツと上空にいる私では動ける次元が違う。まあ、いざとなれば万象夢幻があるので一撃なら問題は無い。
「ならやってみるがいい」
悪魔を挑発する。この後の報復は少々怖いが今はこれが最善手であることに変わりはない。如何に時間を稼ぐか。ヤツの注目を私に集めている間に聖たちには戦闘継続の準備をしてもらいたい。
軽く周囲を見渡せば聖がポーションをがぶ飲みしていた。どうやら私の考えは通じたようだ。...と思ったのが私の間違いだった!!
「あいつ許せねぇえ!! 俺に合わせろ! 獣化!!」
バカは制御できないのを忘れていた。ここで使うなと散々一刀のヤツに言われていたのにレオは自身のオリジナルスキルである獣化を発動させた。獣化はとにかく強力だ。勿論、使えば圧倒的ステータスを得られるのだからあの悪魔にも通ずるだろう。
だが効果に見合った制約が存在するのもまた事実。レオの場合、100秒後には自滅かつ非常に重いデバフが付与されてしまう。程度で言えば私の白黒で賄えるレベルでしかないがそれでも私たちの足並みが揃わないならば荷物になるのは間違いないだろう。
「あのバカは...」
そう言う訳でレオにはヤツの最終形態まで獣化の使用を制限して貰おうと思っていたのだ。しかし、起こってしまったことは仕方ない。レオの獣化が終わるまでの約1分40秒でヤツのHPを削り切る。
「まあこのままだとじり貧だったかもしれないし、意外と悪くない判断かもね」
「レオ殿はそこまで考えていないと思いますがな」
「ロードに同意だ。さて、私たちも本気で行こう。時間はないぞ」
悪魔の視線が外れたため聖たちの横に降り立つ。こうしている間にも刻一刻とタイムリミットは近づいているので一秒も無駄に出来ない。と言いながら口を動かしてても手を止めることが無いのが私たちだ。
「精霊魔術? 違うな。魂の階位が急激に上昇することはない。貴様の固有技能、いや唯一技能か」
「当たりだぜ! だけど分かったからなんてんだ!!」
「グッ! 先ほどまでとは違うな!! だがその程度よ!私には勝てんさ!!」
レオの大剣と悪魔の大剣が激しく鍔迫り合いを興じる。初動、レオが優勢を取った。悪魔の態勢が僅かに崩れ、レオの攻撃が一歩先を行く。しかし最後に勝ったのは悪魔だ。強引に剣を弾き、返す剣で反撃を刻む。
「この程度じゃねぇよ!!」
「な、に!?」
レオに迫る悪魔の一撃は届かない。獣化が始まってから10秒の経過。それがレオに味方をしたのだ。獣化は使用時にステータス上昇の恩恵があるが特定時間経過でもステータスは増加し続ける。
獣化のレベルが5を超えている今の状況ではその増加率も凄まじい。チラリとレオのステータス情報を見たが元ステータスの五割ほど上昇しているのだ。数値でいえば白黒の十字架12個分だ。普通にチートレベルではないだろうか。
「まずは一発!」
レオの切先がヤツを確かに捉えた。これまでにない確かな手ごたえはモチベーションに直結するのだろう。レオの笑みは深くなり、二連目が振るわれる。だが悪魔も正面勝負では負けていなかった。二撃目が当たる前に盾を生み出し、防いで見せたのだ。
「あいつ初めて盾を作り出したな。レオは切り札にとって置きたかった」
「しょうがねぇさ。なるようになる。何時もの俺ららしいじゃねぇかよ」
「吾輩は計画的に行きたいのですがな。脳筋パーティにいるとこれだから困りますぞ」
眼前ではレオと悪魔の一騎打ちが始まった。ここまで来るとあの戦いに私たちが入ることは難しい。同じ土俵に上がるには単純にレベルが足りないからだ。私の場合はバフとデバフ、あと白黒によってサポートくらいはできるが。
「他の面子を呼んで来る。このまま行けば第二形態の途中までレオはやりそうだ」
「そんじゃあ、俺はここでどっしり構えておくか!」
一刀はレオの代打を迎えに行き、不知火は私たちの前に出て守りに入った。聖とロードはヤツの隙を狙っているが入れる余地は無さそうだ。最後に私はMPを回復させながら白黒を最大に保つ。
この瞬間の主役はレオだ。




