悪魔との攻防 その3
悪魔は身に纏う靄を変幻自在に操ることで武器に変えたり鎧にしたりできるようだ。しかも靄によって作られた鎧や武器は生半可な攻撃では壊すことが出来ない。
「こいつ硬いくせに速ぇ!」
前線を務めるレオは苛立ちを隠そうともせず大振りに大剣を振るった。通常なら避けられてしまう隙の多い一撃だがそこはチームワーク。聖が放った矢が悪魔の退路を塞ぎレオの攻撃がヤツに直撃した。
「効かんなぁ!! その程度で私を殺れるとでも思っているのか?」
しかし悪魔は手に持っていた剣を盾に変化させてレオの攻撃を防いで見せた。ただ盾で防いだだけだが蹈鞴を踏むことも無いのだからやはり悪魔は別格だ。だがレオも負けていない。先の攻撃はアーツを使っていない。つまり隙が出来ない訳だ。
「ならこれはどうだぁ?」
一発、二発、三発と大剣による連撃が繰り広げられる。その全てを両手に作り出した二つの盾で防いで見せる悪魔。だがそこに聖の攻撃が届く。ヤツの隙を突くように撃ったこともあるが何よりレオが悪魔の行動を制限していたことが大きい。
ヤツは防御も碌にできないまま胴に聖の攻撃を受けた。聖が放った矢は閃光を放ち、空間を歪める矢だ。
「これは効くな。やはり貴様は先にやっておくべきか」
聖の攻撃は悪魔が纏う鎧を壊すことに成功した。だがそれだけだ。一瞬の内に靄が集まり壊された鎧が元通りになる。それでもヤツの危機感を煽ったことに変わりはない。ヤツのヘイトが聖に大きく傾いた。
悪魔が動く。その動きは白黒で強化していても追いつけない程だが直感で不知火がヤツの攻撃を防いで見せた。悪魔の攻撃によって盾からは火花が散り、流れるような攻撃は不知火を切り裂いた。
そして悪魔が後方に吹き飛ばされた。不知火の身体から出る青のオーラが示す通りアーツだ。
「吾輩がいることもお忘れなきように!」
体勢が崩れた悪魔に二つの魔術が炸裂する。悪魔は炎上し、空間が割れるかのような衝撃がヤツを襲った。燃え盛る炎は鎧に包まれていても着実にヤツの体力を削り、不可視の一撃は鎧ごとヤツの身体を削り飛ばす。
「パワースラッシュ!!」
膝を突いたヤツの首を取ろうとレオがアーツを使う。分かってはいたがその攻撃がヤツに届くことは無かった。すぐさま立ち上がった悪魔が迎撃に出たからだ。それでも体勢の問題で僅かにレオの方が勝る。
そこに一刀が攻撃を仕掛け、聖たちが攻撃の準備を整える。不知火はヤツが再び跳び出しても良いように警戒をし、私は不知火に回復を掛け、バフやデバフをばら撒いて白黒の更新を行う。
「ぬわぁ!」
一刀の連撃が何度か叩き込まれ、聖の攻撃もヤツに届くと思われたその瞬間ヤツから衝撃波のようなものが生じてレオたちが吹き飛ばされる。そして聖の攻撃もヤツは避けた。それだけ聖の攻撃は危険視していると言うことだろうか。
歩之術理 縮地
ヤツとの距離を詰め、樹王を一閃。聖の攻撃を避けることは想定済みだったのでヤツが避けたと同時に攻撃を繰り出す。樹王は見事にヤツの首元に直撃した。だが、ガギィンと音を立てて傷を付けることも出来ずに防がれてしまう。
「硬すぎる」
「なぁ、言っただろ?」
じんとした衝撃を手に感じているとレオが声を掛けてきた。レオが硬い硬い言うのだから相当硬いのは想像していたが本当に硬かった。
「インパクト!」
攻撃が効かず私が距離を取ると同時にロードがアーツを行使する。しかし悪魔は横に飛びのいて直撃を躱し、即座に反撃に出る。やはり狙いは後衛であるロードだ。
「いや、行かせねぇぜ?」
不知火がロードの前に出る。ヤツは不知火を無視することでロードを狙おうとしたがヘイトを上昇させるアーツを連発していたおかげで無視しようにも無視できない状態となってしまう。
だったら不知火を倒してしまおうと悪魔は攻撃を仕掛けるがタンクである不知火がそう簡単に沈むわけもなく時間を掛けるごとにレオと一刀の攻撃が見舞われ、ロードと聖の強烈な攻撃も悪魔を襲う。
私も是非参加したいところだが悪魔の攻撃を受け続けている不知火のHPを回復させる事だけで手いっぱいとなってしまう。不知火はとにかくヘイトが外れないように動いているため無茶な行動ばかりでHPの減りが早いのだ。
「これで9割だ」
「マジかよ!?」
さて悪魔との戦いが始まってから10分ほど経過した今、一刀から残念なお知らせが届いた。ヤツに攻撃の隙を与えず、逆に私たちが果敢に攻めているにも関わらずまだ1割しかヤツのHPを削れていないと言うのだ。
レイドボスであることは百も承知だが単純計算でヤツを殺すには100分以上の時間が掛かることになる。集中力はまあ保つ。だがそれよりも早く私のMPが切れる可能性の方が高いだろう。この状況が続くようであれば勝ち目は薄い。
「何か機転が欲しいな」
「そうだね。問題はアイツの鎧でしょ。どうにかできればダメージ効率は倍増するんだけどなー」
今までの戦いの中で最も厄介なのがヤツの鎧だった。ヤツの鎧はとにかく硬い。強力な攻撃を与えたつもりでも鎧に拒まれて余りダメージを与えられていないと言ったことが殆どだ。今のところ効果を見せているのは聖の属性解放攻撃、ロードの魔術、私の震撃。やはりヤツの鎧をどうにかすべきか。




