イベント最終日
時間の経過とは存外早いものでイベントも最終日を迎えた。
「これは絶景ですな」
ちょうどインしてきたのだろう。城壁の上に立つ私たちの下へロードが歩みを進める。
「やべーよな、あれ。昨日あんだけ倒したの無限に出てきやがるぜ」
「教授も言っていたが深夜からずっと魔物の増加は続いているようだ」
ロードの独り言に答えたのはレオと一刀だ。
昨日の夜、レオと共に魔物の間引きを行ったがその結果は果たして意味があったのだろうか。そんな考えが一瞬だけ脳裏をよぎる。
「私たちはとりあえず待機だ。変異種が出るようなら叩きに行くぞ」
現在の時刻は13時。午前は無限湧きとも言える魔物を処理するだけで終わった。どういうわけ王都周辺に集まった魔物たちは高位の魔物、例えば魔の森深部にいるようなオーガなどは全くと言って良い程攻めにきて来ないのだ。
その代わりと言ってはなんだが始まりの街に出てくるような魔物たちとは数えるのが億劫になるほど戦闘になったわけだが...。
そして昼頃に一度ログアウトし、つい数分前に再ログインを果たした。一時間程度では状況が変わることは無かったようだが私の感がそろそろだと告げている。今日でイベントと言う名の氾濫は最終日を迎える。
メニュー画面に映る残り時間も約6時間ほどだ。今の状況がこのままずっと続くわけがない。タイムリミットがゼロになり、魔物が消えるとも思えないのだからそろそろ状況が変化してもおかしくはないはずだ。
「報告します!! 北西より魔物の進行を確認しました!!」
走って来たのだろう。一度息を整えると捲し立てるように一人の兵士が上官に伝えた。彼が言っていることは正しい。つい先ほど掲示板に同じ内容が書きこまれたのだから。
「遂に始まりましたな」
「僕たちが担当するここも時期に動くだろうね。平日にこれだけ人が集まったのは幸いだよ。暫くは出番が無さそう」
「おいおい、つまんねぇこと言うなよ。俺は戦いたくてしかたねーぞ」
今回の氾濫は魔の森で起きたと推定されている。これは魔物が来る方向からも確定だ。そして魔の森に最も近い城壁が北門だった。
「俺たちも北西を担当したかったがな。PK警戒ならしかたないか」
一刀の言う通り私たちは主戦場となり得る北西側ではなく北東側に配置されている。理由は単純に兵力の分散、そしてPKへの警戒だ。特に北門側は魔物の進行ルートから最も近いため兵力が厚いがその他東、南、西門にもプレイヤーが警戒についている。PKだけでなく魔物が回り込んでくることも想定できるので妥当な判断だろう。
「魔物どもが動き出したぞぉお!!」
プレイヤーだろう者が大声をあげる。視線の先を見れば魔物たちが列をなして進行を始めたのが見えた。
「遠距離隊は攻撃準備。近接隊は撃ち漏らしの処理をしてください」
拡声器で命令を下すのは教授だ。情報収集クランとして動く一方で戦闘時には指揮を行うことが出来る教授は北門北東区域の司令官として戦場に出ている。ちなみに北西区域の司令官はアーサーだ。
「ゼロ殿、バフを頼みますぞ」
「ああ、任せろ」
私が行使する白黒はパーティを組んでいなければ効果を発揮しない。そのため今のパーティメンバーはロード、春ハルさんを含む魔術士職のみだ。
変異種などの強敵が出るようであればパーティを組み直すが大抵の場合は他のプレイヤーが戦闘を行う手はずとなっているので私が直接戦闘に関与できるのはしばらく先になる。
バフとデバフが飛び交い、白と黒の十字架が増える。それが意味するのはバフの効果上昇だ。
「は? なんすか、これ? チートじゃん」
「うぉぉおおおお。力が漲る!! これ一度は言ってみたかったんだよな」
「これなら防衛も楽にできますね!」
北東区域に配置されたプレイヤーの中でも高レベルの魔術士三人は白黒の効果を受けて大いに驚いているようだ。ロードと春ハルさんは既に慣れたようでステータスを確認すると魔術の準備に入る。それを見て三人も詠唱を始めた。
「俺はテキトーに魔物狩りでもしてくるわ」
「あいつは人の話を聞いて無かったのか。レオを見張りに行く。呼び出しがあれば連絡してくれ」
「了解だよー。僕はここから援護するね」
まだ戦闘が始まって数分も経っていないが暇を持て余したレオが城壁から飛び降り、戦場に向かった。一刀が追いかけていったようなので問題は無いだろうが今行ったところでレオのお眼鏡に叶う相手はまだいないだろうに。
「遠距離隊、攻撃準備。目標、侵攻軍最前列。3、2、1...放て!」
教授の合図とともに魔術士、弓使いによる弾幕が張られた。魔術よりも射程が長い矢は進行する魔物たちの頭上を飛び越えて後続に突き刺さり、魔術士が放ったストーム系の魔術が進行する魔物たちを瞬く間に吞み込んでいく。
「次弾用意!!」
教授の指示の下、次々に魔術、矢が放たれる。しかし幾度となく放たれた攻撃は下位の魔物を楽に殺すが次第により強い魔物が混じるようになり、魔術による弾幕を耐える魔物が増えてきた。
「近接部隊、抜刀!!」
近接戦を生業とするプレイヤーが己の得物に手を掛ける。そして教授の合図とともに魔物に向かい駆けだした。




