デミワイバーン・ドクトゥス その2
「どう攻める?」
「あー、俺の方が空中での機動力があるから陽動は任せろ。ゼロはアイツより上空からの奇襲がベターか」
「それならバフが消されても何とかなるかもしれない。それで行こう」
大まかな作戦が決まったので早速動くことにする。陽動役の天命は先に向かった。走りながらも軽めの魔術を飛ばしてヘイトを稼いでいるから私は気配を出来るだけ消して動き出す。おっと、その前に春ハルさんに少し協力してもらおう。
この作戦が上手く行けば多少なりとも動きやすくなるはずだ。まあ、練魔の仕様もあるから早くとも3分後になるだろう。それまでは自力で時間稼ぎをするしかない。
「それにしても魔物の数が尋常じゃないな。一々戦っていたらきりがない」
いくら気配を消しているとは言え姿を消すのは不可能なので地上を走る私に魔物の矛先が向かう。白黒の強化があるので振り切ろうと思えばそれも難しくは無いが強引に進めば注目を集めてしまう。
平地で戦うには隠密行動は無理がある。PK暗殺の件も実現できる可能性が低いかもしれないな。
「シールド...リフレクト」
地上が行けないなら空中を走ればいいと言うことで作り出した二つの盾を足場に魔物の頭上を通ってデミワイバーン・ドクトゥスの下に向かう。
地上から5メートル程の高さで動いているので下の魔物から攻撃を受けることは無く、デミワイバーン・ドクトゥスにおいてもヤツがいる場所はさらに高所なので上空から見れば私も地上を駆ける冒険者の一人として映っているだろうな。
「次はどうやってアイツよりも上に向かうか。天命と合わせなければ流石にバレそうだな」
デミワイバーン・ドクトゥスに大分近づいて来たところで次の問題が立ちはだかる。単に高度を上げるだけならシールドとリフレクトを使って向かえばいいがヤツも自分の下に不審なものが近づいて来れば対処する頭は持っている。
「それが無難か。タイミングはそっちに合わせるっと」
ヤツの真下を通りすぎてデミワイバーン・ドクトゥスから50メートルは離れたところまで移動すると天命からフレンドメールで隙を作ると連絡が来た。なので私は何時でも問題ないと返信して時が来るのを待つ。
「行くぞ、クソ鳥! これでも喰らっときな。〈奥義・水一閃〉!!」
突風を生み出してヤツの近くでヘイト買っていた天命が声を上げる。それと同時に私は動き出した。天命がチャンスを作りに行っていると感じたからだ。
まず最初に天命が手に持っていた剣を振るった。ただそれだけの動作だが剣の軌跡に合わせて大量の水が生成され、扇状にそれらが津波のように押し出される。大量の水は打ち出された瞬間、上空にいたデミワイバーン・ドクトゥスをも飲み込んでさらに高度を上げる。
ヤツに消されていないと言うことはあの水は魔術ではなく本物の水であると言うことだろう。デミワイバーン・ドクトゥスを飲み込んだ津波はやがて勢いを失ったようで落下を始める。
この量の水が地上に落ちたらシャレにならない被害が起きそうだがそれ以上に天命が次に起こした行動を見て私は頬を引きつらせながらも盾を蹴って上昇するスピードを速めた。
「そんでもういっちょ。〈奥義・火一閃〉!!」
再度剣が振るわれる。その軌跡に沿って生じたのは轟々と燃え盛る火だ。扇状に広がりながら放射され続けるそれが自由落下を始めた多量の水に触れればどうなるか、そんなもの水蒸気爆発しかない。
火が水に触れ、触れた箇所から熱せられ、蒸気を発生させる。これならただ水蒸気を生み出すだけかと安堵の息を零したその時、天明が叫ぶ。
「ついでに燃え尽きな。〈奥義・炎一閃〉!!」
返すように振るわれた剣から扇状に蒼い炎が放たれる。蒼炎、それは赤色の火よりも遙かに温度が高い炎だ。蒼き炎は赤き火を浸食し、最先端まで伸びる。そこには何十トンもしかすると百トンを超える水の集魂があり、刹那、轟音が鳴り響き衝撃が空を駆ける。
「加減を知らんのか。まあおかげで私に気づいた様子はないから結果オーライか」
水蒸気爆発のせいで万象夢幻の白護が一度発動してしまったがヤツの上空を取ることが出来た。水蒸気、いや霧によって視界不良を起こしているがスキルによってヤツの居場所が特定できたので奇襲をかけよう。
残念なことにデミワイバーン・ドクトゥスは先の水蒸気爆発を受けても致命傷には至っていないようで翼をはためかして霧を飛ばしている。
天命の策は半ば成功したが水の量に対して火力が足りなかったようで全てを蒸気に変えることが出来ていなかった。ヤツは水に飲まれた時点で上部から脱出を謀っていたため直接的な被害に遭わなかったと考えるのが自然か。
足場にしていたシールドから降りて自由落下に身を任せる。スキルによってデミワイバーン・ドクトゥスの位置は常に補足できているのでズレは無い。一秒ごとに速度は増し、身に受ける空気抵抗も激しくなる。
その中で精神を落ち着かせ一撃に集中する。理想はすれ違うのと同時にヤツを仕留めることだがそれが出来なくても片方の翼くらいは切り落としたいところだ。




