城壁での戦い その3
雲雀が使ったオリジナルスキル、シルフダンスはオリジナルスキルであってオリジナルスキルではないと言うことを本人から教えられた。つまりどういうことかと言うとシルフダンスは魔術を作成できるオリジナルスキルによって生み出された魔術であるようだ。
そのおかげか魔術スキルから習得できるアーツに比べれば効果が強力だ。しかし、その分制約も多いと言う。今回の場合で言えばシルフを生み出す程強い風が吹いていることが条件だ。加えて自身が起こした風ではシルフダンスは使えない。この程度の条件があれば普段使いは難しいだろう。
まあ、雲雀以外が起こした風や自然現象の類は活用できるようなので少し扱いが面倒臭い程度で済むかもしれない。そして、その風の強さに比例してシルフダンスも強化される。正しくこの場において春ハルさんとの相性が良い。
それを証明するように城壁に向かっている魔物の軍勢は次々に切り刻まれていく。先ほどまでは姿が見れたシルフの姿などは既になく、あるのは百を超える不可視の攻撃だけだ。
「ふぅ、私は少し休憩します!」
「了解だ。雲雀のおかげでここら一体の魔物は大分減ったから暫くは大丈夫だろう。手負いの魔物ならば下にいる連中が狩り尽くすだろうしな」
「なら、あのリーダー格を倒したら一旦休憩にしますか? 時間もいい頃合いですからね」
「賛成。相手はまだまだいるから休息は大事」
イダンたちの言う通りそろそろ休憩を取るのも悪くはない。私はバフ、デバフを撒いていただけで碌に戦っていないから物足りないが他の面子は休みなく戦っているから疲れも相応に溜まって来たのだろう。
「リーダーには伝えたよ。その内戻ってくると思う!」
「そうですか。天命さんらが戻ってきたら攻撃を開始しましょう」
「分かった。準備しとく」
天命たちが戻ってきたら仕上げか。最後の標的となる魔物は前線基地のリーダー格だろうプテラノドン似の鳥だ。
ヤツとの距離は相当あるが初動の一撃は魔術士組が何とかしてくれるとのこと。あれだけの射程を持つ魔術とかシャレにならないと思うが今は味方だから深くは考えないようにしておく。
これではまた弓使いの不遇度が上がるな、と考えつつもしものために私も戦闘の用意をする。相手は強敵の部類に当てはまるのは確実だとして高確率で変異種の可能性がある。この戦いの最中にも変異種の魔物はおり、一部には魔術に対して高い耐性を持つ魔物もいた。
まあ、そう言った魔物は地上の冒険者にボコされていたが今回の相手は空を飛んでいるので魔術が効かないと面倒なことになるのは確実だ。...なんとなくフラグが立った気もしなくはないがそれならそれで無問題と言うやつだ。最後くらい暴れたい...。
「戻ったぞ」
数分後、天命と蓮が戻って来た。これで面子は揃ったわけだがチラリと横目でイダンと春ハルさんを見ると二人とも頷いた。準備も完了のようだ。
「それでは始めよう。先制攻撃は頼んだ。天命は私と一緒に襲撃に備えるぞ」
「任しとけ」
私が樹王を構えると天命は直剣に炎を纏わせた。これが天命のオリジナルスキル、剣術と魔術の複合を可能とする所謂属性剣と言うやつだ。
「【射程の延長を指定。効果の上昇を指定。威力の上昇を指定。砕け〈インパクト〉】」
春ハルさんのオリジナルスキル、練魔によって性能が向上したアーツが放たれた。虚魔術カンスト時に習得できるこのインパクトと言うアーツは対象に不可視の一撃を与える強力な技だ。それを春ハルさんが使うのだから相当なダメージが期待できる。そう考えていた。
「ピュテェエ?」
確かにインパクトはプテラノドン似の魔物にダメージを与えることが出来たのだろう。何せヤツのヘイトがこっちに向いているのだから。だが、致命傷には至っていない。それどころか碌なダメージも入っていないのではないだろうか。
「防がれた? でも、直撃した感触はあった」
「距離が遠すぎて鑑定できんな。蓮、なんかないか?」
「なんかってなんやねん? そんな都合のいいもんあらへんで」
想定外の事態に天命たちは頭を捻らせる。ここで慌てないのは戦闘経験が多いからだろう。春ハルさんも口ではああ言ったものの既に次の魔術を用意している。
「来るぞ!」
「プテェエ!!」
「あー、なるほど。そう言ことですか。ですが一応。【私は無数の礫を飛来させることをこの場に宣言する。礫は絶え間なく射出される。そして礫を喰らったものは私の魔力に侵されるだろう〈幾重の礫〉】」
イダンが魔術を行使する。この魔術も既存の虚魔術には無いのでオリジナルスキル関連だろう。展開された魔術陣からはボイドバレットのように弾丸程の大きさの無色の塊が幾つも放たれる。
しかし、打ち出された塊は道中にいる魔物を打ち倒すことは出来ても標的の魔物に近づいた瞬間、急にスピードが減衰し、空中で霧散してしまう。
まさかのフラグ回収だ。魔術をほぼ無効化してしまう魔物が本当に出てくるとは。運営はテンプレを良く理解している。




