城壁での戦い その2
「【私は目に見えない裁きを下すことをこの場に宣言する。対象となる者は私が前もって宣告した者とし、私の魔力に侵された体は容易く崩壊の一歩を辿るだろう〈不可視の裁き〉】」
イダンの詠唱が終わると同時に上空に展開されていた魔術陣から魔力が落ちた。その魔力を辿れば先ほどまでイダンの攻撃を受けていた魔物が居る。そして、魔力が魔物に触れるとどの魔物も例外なく落雷を受けたかのように痙攣し、HPバーが砕け散った。
横目でイダンを見れば息を切らした様子もなく次の相手を見定めたようで魔術陣を展開してはボイドランスやソード、カッターと言った攻撃を続けている。ジャッジメントは明らかにオリジナルスキルだと思うが強化されていたことを抜きにしても恐ろしい性能をしていることは明らかだ。
多分だがイダンが攻撃を与えた相手を対象とした攻撃だろう。ロックオン型の魔術とはまた面倒臭いものを持っている。それに消耗も少なさそうときたものだから堪ったものではない。
「大分こっちにヘイトが向いて来たな。それに奥のやつらは動かないようだが何体かは変異種が交ざっている。耐えられても下の者たちが片付けるとは思うが空中にいる魔物は出来るだけ倒しておきたい」
「任せて。変異種は出来るだけ倒しておく」
「それじゃあ私は群れてる魔物を潰しますね!」
「なら耐久力がありそうな魔物の処理は私が引き受けよう」
「それでいこう。私には攻撃手段がないからな。まあ、お前たちの安全くらいは守って見せよう」
城壁で魔物を倒し続けること既に二、三時間は経過した。王都からかなり離れたところにいる魔物の軍勢は大きく動く様子は見られないが本陣から離れた王都手前にいる魔物たちの攻勢が激しくなっている。
最初の時のように無数のゴブリンやホーンラビットと言った雑魚魔物は億劫になるほどいるがそれ以上にそれらの上位種かつ変異種すらも戦場に出てきている。そして私たちはそう言った前線基地の一つである魔物の大群に大量の魔術をお見舞いしている最中だ。
「【六色の武器は宙を舞う。切り刻め】」
春ハルさんの詠唱が終わると共に彼女の周囲に展開されていた六色の無数の魔術陣から剣や槍と言った武器を模る魔術が一斉に飛び出していく。勿論狙いはこちらに向かって来ている魔物たちであり、完全な強化を受けていることも相まってある者は両断され、またある者は貫かれて絶命していった。中には運良く即死しなかった魔物もいたが空を飛んでいる魔物は地上に落ち、地を走っていた魔物は動きを止められ、後続の魔物に引き潰されて死んでいく。
結果は上々であるがハーピークイーン・ドクトゥスと戦った時のように魔術の数を増やすことはしていないようだ。まあ、単一攻撃を主とするソードやランス系の魔術よりも全体攻撃を可能とする魔術の方が都合が良いからだろう。
あんな風に。未だ拡大を続ける魔術陣を見る。
「【効果範囲の拡大を指定。効果の増大を指定。威力の上昇を指定。風よ吹け、地よ揺れろ〈ダウンバースト、アースクエイク〉】」
春ハルさんのオリジナルスキルによって強化された魔術が行使された。空に広がっていた魔術陣からまるで暴風のような風が吹き下ろされて空を飛ぶ魔物たちは碌な抵抗を示すことも出来ずに地面に落とされて行く。
しかし、地上とて安全ではない。二つ目の魔術、アースクエイクによって大地は揺れ、魔物の足を取り、それから直ぐに地面は沈降と隆起を繰り返す。そんな場所に落ちて来た魔物、その場に居た魔物は何もできずに地面の奥深くへと飲み込まれて行った。
「思ったより倒せてない。次の魔術用意する」
ただし、魔物もバカではない。春ハルさんのオリジナルスキルの都合上魔術陣を展開したままに時間を喰らうため魔術陣の範囲外へと魔物が避けて移動しているからだ。それでもあまりにも魔物の数は多いためそれなりの数は効果範囲に入っている。ざっと100体ほどだろう。
「春ちゃんの風借りちゃいますね! 【風よ、私の声を聴き、その身を委ねなさい。その身は盾となり、優しき風は慈愛を見せる。しかし、時に風は矛になる。触れる者を切り裂き、でも触ることのできない強き風となる〈妖精の乱舞〉】」
こちらもまたオリジナルスキルだろう。春ハルさんが行使したダウンバーストによって生み出された風を意のままに操る魔術が行使された。オリジナルスキルではあるが仕組みは魔術に近いのかもしれない。雲雀の展開した魔術陣に風が吹き込み、暫くして魔術陣から人型の魔力が現れた。
次第にそれは薄緑色の人型に変わった。輪郭は雲雀と同じだ。まあ、それは良いとして仮称シルフは迫りくる大群を前にして悠然と浮いている。傍から見れば無防備に浮いているようにしか見えないが内包されている魔力の量が見える者なら迂闊に手を出すべきでないと分かる。
ただし、そんなことはシルフにとって関係なかったようだ。シルフの輪郭がぼやけ、姿が見えなくなったと思った瞬間、魔物の群れから絶叫が轟いた。




