城壁での戦い その1
「これは壮観だな」
「そうですね。こんだけ魔物が居ると多少間引いた程度では焼け石に水な気がしますが早速やりますか」
「イダンさん、なんだかんだやる気高いじゃないですか」
「せやな。うちもはよ暴れたいわ~」
「私も。ゼロさん、お願いできる?」
「その前にデバフを掛ける魔物が一体欲しいですね。それがないとバフの継続が難しいので」
「それなら俺が適当に見繕ってこよう」
早速、城壁に辿り着いたのだがそこから見れる光景は平時では決して見ることが出来ない数千にもわたる魔物の姿だった。こう言っては不謹慎だと怒られてしまうだろうが絶景だった。
これ程の魔物の姿はそうそう見ることは叶わないだろうし、何より未だかつて遭遇したこともない魔物がいるのだ。ゴブリンやオークなどは勿論、ウルフ系の新種だろうか? 明らかに強力そうな魔物までもが王都を囲んでいる。
それなのにやつらは一斉に攻め入るのではなく低位の魔物を疎らに突撃させることで威力偵察とこちら側の消耗を窺っているように見える。これほど統制の取れた行動をただの魔物が取れるとは思えないし、さらに言えば種族の違う魔物を纏め上げるのは相当厳しいはずだ。
そう考えれば裏に悪魔がいると言うのはあながち間違っていないのではないだろうか。まあ、今はそんな話を置いておくとしよう。イベント的に考えれば悪魔がいたとしても来るのは明日だろうからな。
「春ハルさんは別としてもイダンたちの射程は大丈夫か?」
「問題ありませんよ。こう言った時のために長距離用の魔術も開発済みです」
「私もです! 硬い魔物じゃなければ任せてくださいよ。スナイパーみたいにどんどん打ち抜いちゃいます」
「あ、うちはあんま期待せんといてな。適当に近づいて来た敵を処理しときますわ」
蓮以外は魔術の射程が十分にあるようなので基本城壁に沿って固定砲台の役割をこなせばいいだろう。イダンはそよ風のサブマスでかなりの腕前だし、雲雀に関しても風属性の魔術に関してはプレイヤーの中でもトップクラス。
蓮は天命会の中では交渉人のようなスタイルだから他の面子に比べれば劣るが天明のサポートとして地上で戦って貰えばいいか。それにしても交渉人がエセ関西弁を使うのはどうかと思うが...。
「おいゼロ、こいつでいいか?」
そんなことを考えている間に天命が片手で両足を失くしたゴブリンを連れて戻って来た。脚が無いのは逃走しないようにと言うことだろう。ゴブリンに血が流れているかは微妙なところだが切断面がしっかりと焼かれているので処理も完璧だ。
「問題は...なさそうだな。ではバフを撒くぞ。【刻々と刻まれる時 朱き陽は沈みて蒼き陰が姿を見せる 漆黒が世界を飲み込もうと星の輝きが世界を照らす 不浄を嘆き純白に笑う 強きを砕き弱きに祝福し対極は終ぞ絡み合う〈連続詠唱 八種白黒〉】」
一度、死に体のゴブリンにデバフを掛けてから自身にバフを掛けると問題なく白黒が発動したので続けざまに連続詠唱でバフとデバフを使用する。城壁から動かない面子にはINTを中心にし、外で戦う天命と蓮にはDEXを除いたその他のバフを掛ける。
ついでに天命の攻撃を受けてHPバーが心許なかったゴブリンにはヒールやリジェネーション系の魔術で回復させておく。もしかしたらこのゴブリンに関しては戦意が喪失した瞬間に戦闘終了扱いされるかもしれないのでちょくちょく城壁の外に出ていい感じの魔物を見繕わないとだろう。
「やっぱりゼロさんのオリジナルスキルは強力」
「この上昇量ってマジかよ。お前、うちに来ないか?」
「バカを言うな。他のクランに行くつもりはない。それより不備はなさそうか?」
「私はありませんね。どちらかと言えばあまりの強化幅に威力調整が大変になった程度でしょう」
「問題なーし。いつでも行けますよ!」
「うちも問題あらへんで。そんじゃ、リーダー行きやしょか」
「それでは各自始めるとしよう。天命と蓮については50秒を目安に私の近くに寄ってくれ。バフの更新を行う」
「よし、蓮、暴れるぞ!」
天命と蓮が降りていくのを見ながら私も一応の魔術を用意する。射程がそこまで無いせいでこの場面では使い勝手がいいとは言えないが毎度の如くホーリープリズンとヘルオーラのコンボだ。外に出ている冒険者や衛兵を範囲に入れないようにしないといけないので使える頻度は少ないだろうが白黒による超強化のおかげで範囲内に入った魔物のHPは瞬く間に溶けて光の粒子となった。
「うぁお...私の魔術凄い強化されちゃった。これならもっと強そうな魔物狙っちゃおうかな!」
隣では雲雀が風の矢を作ってゴブリンを射殺したところだった。基本属性魔術に矢の形をしたアーツは無いのでオリジナルスキル関連だろう。それはまあ、置いておくとして白黒の凄さを雲雀も体感したようだ。普通に考えて300以上もINTが上がればそこらにいるゴブリン程度は瞬殺だからな。




