王都への帰還
日も暮れ、月がハッキリ見えるような時間帯になってようやく私たちは王都に戻って来ることが出来た。と言っても王都周辺は最初に来た時に比べ魔物の数も目に見えて増えているのでギルドから送られてきた救助隊も一緒だ。
「この方は医務室に運ばせてもらいます。ゼロさんはマスターのところへお願いします」
城門を抜ければ待機していたギルドの職員が私に用件を告げ、モニカさんを連れてその場を後にした。今日だけでも色々ありすぎた。かなり疲労が溜まっているのでウォルターさんにラトリム村での出来事を報告したら落ちよう。
そんなことを考えつつも馬車に乗ればあっという間にギルド前に着いていた。馬車を降りてギルドに入る。ギルド内の喧騒は何時もと変わらないが今だけは心なしか煩く感じてしまう。
「ゼロだ。ギルド長に呼ばれているため来た。取り次いでもらえるか?」
「ゼロ様ですね。お話は伺っております。こちらへ」
受付嬢への口調も悪くなってしまった。ああ、そればかりか少し殺気が漏れていたようだ。あれだけ煩かった室内も今では静寂に包まれてしまっている。すまないことをしたと思いながらも受付嬢を追い、直ぐに部屋の前に来た。
「マスター、ゼロ様がお着きになりました」
「入ってくれ」
応答に合わせて部屋に入れば険しい表情をしたままソファーに腰を掛けたウォルターさんがいた。魔の森の調査依頼を完遂したものの帰還者が僅か2名しかいない。この現状を分かっているからあの表情なのだ。
私がモニカさんと共にラトリム村を出た後、直ぐにギルドへ連絡し迅速な救助要請を出した。そのおかげもあり私とモニカさんは無事に王都へ戻ってこれた。詳しい話は今からだが彼には大まかな予想がついているのだろう。
「まずは依頼をこなしてくれたくれたことに感謝する。魔の森での一連の流れは既に職員から聞いているが...そうだな、情報整理のためにも最初から報告してくれ」
「分かりました。私とモニカさんを除く銀翼のメンバーは今朝魔の森の調査を開始しました。砦を越え、森周辺では魔物に異常が見られなかったため中層に踏み込むことになりーー」
それから私は今日の出来事を出来るだけ詳細に語った。
魔の森中層での戦闘、深層付近で謎の集団を感知、これを調査するために私が先に進み銀翼がラトリム村へ戻ったこと。
深層でPKと遭遇し、戦闘。これに勝利した後PKの幹部と交戦し、今回のスタンピードの裏に悪魔がいることを知らされたこと。
幹部の一人を取り逃しもう一人と相打ちになって王都ではなくラトリム村で復活したこと。この時既に村には魔物が攻め入っており、村の防衛依頼を受け、防衛戦に参戦したこと。しかし、防衛戦の途中でまたもPKが出現し、攻撃を受けて再度村の教会で復活したが戦場に戻った時には既に劣勢でデヴィッドさんにジェシカさんは死んだと言われたこと。
その後村を脱するためにモニカさんの下に行けばクメロさんにモニカさんを頼まれ、村を出ることには成功するがPK三人と鉢合わせ戦闘になったこと。
その戦闘でPKのオリジナルスキルによって逃げることが叶わず一人倒すことは出来たがギリギリの戦いを余儀なくされ、危うい所でユーリウスさんの残り刃らしきものが発動して勝利できたこと。しかし、ユーリウスさんを探す間もなく増援に来たPKが迫って来ていたのでその場を脱することを優先し、その後はギルドの救助隊と合流したこと。
「そうか...お前が思うにユーリウスたちはどうなったと思う?」
「状況から察するにユーリウスさん以外は全滅した可能性が高いと思います」
「やはりそうか。俺も魔道具で通信を試みたが返答は無かった。だがユーリウスは生きているかもしれないと」
「飽くまでも可能性があるだけですがね。あの時村周辺に起きた斬撃痕から予想するにユーリウスさんで間違いないと思いますから」
それ以上は銀翼について話すことは無かった。デヴィッドさんが手を組んで沈黙すること僅か思考を纏めたのだろう。次の話題を持ち出した。
「冒険者やってりゃぁ不測の事態はいつか起こる。銀翼のことは忘れろと言わんがこのスタンピードが終わるまでは頭の隅に置く程度にしてくれ。それ以上に現状この国は危険な状況にある」
「つまりそれだけ今回のスタンピードは異常と言うことですか」
「ああ、それもある」
「それも?」
「教授殿にも伝えたことだからその内お前にも連絡が届くだろうが今王国が出せる兵力が少ない。だからこそお前たち訪問者の力を借りなければこの国の行末は暗いと言っても過言ではないだろうな」
「もちろん協力しますが何故王国の戦力が少ないのですか?」
元からスタンピードと言うワールドクエストであることからプレイヤーは自主的に参加するだろうがこれからも魔物の数が増えていくと言うのならプレイヤーだけでなく住民の兵もそれなりに居なければ王都防衛は難しい。それなのに兵数が少ないとなれば相応の理由があるのだろう。
「魔道艇を知っているか?」
「ええ、勿論。他国に行くのに欠かせない移動手段で今は運行していないんですよね?」
「その通りだ。そして、それが原因だ。魔道艇が運行していないのはファゲルドル山脈周辺に竜系統の魔物が複数出現し、それらを討伐するために王国騎士団と王国魔術師の大多数が派遣されたからだ。その指揮をそれぞれの団長が担っている。そのため防衛に出せる兵の数と質は期待できない」
間が悪いと言えばいいのだろうか。それともこれも悪魔とやらの策略か。魔道艇はアップデートで自動的に運行されるものだと思い込んでいたがAWOは全てが現実のように動くことを忘れていた。




