前哨戦
「奇襲だ!!」
「ゼロだ! 先遣隊は壊滅か!?」
「なに!? ゼロだと!」
「久遠、前!」
「タゲが固定されたか!」
久遠がオーガの変異種と殺り合っている途中で攻撃を仕掛ければ変異種のタゲが久遠に向き、有象無象のPKを倒す時間を稼げると思っていたが予想は的中した。幸運なことに闇子も変異種の処理から離れられないようでこちらを窺う視線はあるが参戦してくる様子はない。
「魔術をぶち込め! ゼロに近寄られるとやられるぞ!!」
先に死に戻りしたPKから私の話を聞いているのか想像以上に対応が早い。だが混乱に乗じた奇襲は最初に魔術士を殺したことで僅かに天秤は私向きに傾いている。それにこの場所が森と言うこともあって単体攻撃では私を捉えることが出来ていない。
攻之術理 震撃
先ほどまでは変異種と戦闘を行っていたため後衛と前衛では位置が離れているので私に接近された後衛職の神官や魔術士、弓使いは反撃をする暇もなく死に戻っていく。
中にはオリジナルスキルを使って来るプレイヤーもいたが固定砲台としてのダメージ源を担う魔術士は制約が大きい強力な攻撃か制約の小さい攻撃かの二択に殆どが収束するため対処が非常に簡単だ。
弓使いも遠距離攻撃を主体としたオリジナルスキル持ちが大多数を占めていたのか近づいてしまってからは碌な反撃もなく死んでいった。元から近寄られることを想定しない後衛職ならではのオリジナルスキルは奇襲を仕掛けられると脆弱だというのが良く分かる。
「間に合わなかったか!」
「俺たちで止めるぞ。久遠さんたちの下には向かわせるな!!」
「剛剣!!」
瞬く間に後衛職を倒しきり、次いで前衛職のPKと戦闘に入る。人数は先の戦いよりも多く10人を超えているが今の私では相手にならないだろう。何故なら後衛職との戦いは白黒を成長させるのに十分の時間を稼いでくれたからだ。
PKの一人がオリジナルスキルを使ったのか片手剣をレオが持つ大剣サイズに変化させた。だが重量が変わった様子は無く、片手でアーツを使用した。
これだけ人数が残っていればオリジナルスキルも予想がつかないがオーガの変異種に勝てていない状態を考えるとLV50を超えているのは良くて数人ではないだろうか。魔の森と言う狩場があるとはいえダンジョンのようにレベル上げをするには難がある。
特に気をつけるべきはやはり久遠と闇子だ。久遠は変異種と殆ど一対一で攻防を続けていることからカンストかそれに近いレベルであるのは想像に容易く、闇子も変異種をマークしながら味方にバフを掛け、私にデバフを飛ばす余裕があるので高レベルなのは確実だ。
「当たんねぞ。範囲攻撃ブチ当てろ!」
「それが出来るやつは死に戻ってんだよ!! 俺たちでどうにかするしかねぇ!!」
白黒の効果は余りにも強力過ぎる。奇襲を掛けてから数分が経過しているが既に最大まで成長した白黒は一つのバフにつき180の補正を掛ける。
そのおかげで圧倒的なパラメータは例えPKがオリジナルスキルを使用しても攻撃を簡単に避けることができ、パラメータを強化してこようが到底私には届かないため一合も交えることなく一方的にPKが死に戻っていく羽目になっている。
「向こうの増援に行って。ここは私と久遠が引き受ける」
「ああ、それがいい。これで俺も本気が出せる」
前衛だけになったPKの集団を挟んで向こう側には変異種と戦っている久遠たちがいるが今の状況を見て援軍を寄こすことにしたようだ。
ただ、今更援軍が来たところで私の勝ちは揺るがないのだが久遠が本気を出すと聞こえたのであの二人が変異種と戦っている間にPKから情報を聞くのは難しいかもしれない。まあ、私としては久遠が教えてくれると楽観視しているので全員死に戻りさせても何も問題は無い。
「なんで当たんねぇんだ!!」
「何かオリジナルスキルを使ってるはずだ。とにかく攻撃をかければいつかは終わるはずだから耐えろ!」
こいつらは余り質が良くないのだろう。魔剣使いと共にいたPKたちは中々の手練れだったがそれに比べてこのPKたちは口数が多いだけで手が動いていない。
それもパラメータの差による影響なのだがシステム的な面を除いても多少のPSがあれば少しは対応できても不思議ではない。しかし、それすらもないとすればPK行為自体を大して行っていないのかもしれない。
プレイヤータグを有効にすれば判断できるがそれはおいておくとしよう。今は増援に来た6人のPKも含めて拠点送りにしてやることを優先するべきだ。
双之術理 連鎖
槍による突きを躱し、回避による反動を利用して導魔を振るう。魔刃を形成している導魔は攻撃を仕掛けてきたPKを一人切り裂き、拠点送りにするが今残っている者たちは魔力視のスキルを持っているプレイヤーが大多数なのでこの戦法も効きづらくなってしまっている。
PKたちの動きが変わる。
だが、これと言って問題は無い。戦術を捨て、数による波状攻撃で私を仕留めようとしたのかもしれないが厄介な後衛職やタンクがいなければ対人において後れを取ることはないと言える。
今も闘士による攻撃が繰り出されたが腕に手を添えることで相手の力を利用してその場で空転させ手刀を落として殺すことが出来た。
近接戦を警戒して距離を取ろうとしても私が双極属性魔術を発動させようとすれば止めるしか道を残されていないPKたちは距離を詰めるしか選択肢は無い。
そして、近づいた者は殴り、斬り殺し、距離を取った者にはデバフを与えて状態異常に陥らせてから止めを刺しているとオーガの変異種の最後の雄叫びが轟くのと同時に全員が光となって消えていった。




