PK戦 その1
ユーリウスさんたちと別れてから30分は経過した。その間に起こった戦闘は2回で全てオーガの群れだ。やつらは得物を持たず、肉弾戦を得手とする魔物であるため導魔の刀身を伸ばすことで簡単に処理することが出来た。と、そんなことはどうでも良い。
今重要なのはPKと出会わないことだ。かれこれ数キロは進んでおり、深部にも到達しているはずなのに未だ襲撃が来ない。
「もしかして警戒されている? いや、一人だから無視されているのか?」
しかし、幾ら考えようと答えは出ない。そのため襲撃が来ると信じて森を進んで行く。いかんな、戦いを本能が求め始めてしまった。焦らしプレイはやめて欲しい。
少し進むと感知系スキルの範囲内に魔物が引っかかった。経験則から言ってオーガで間違いないので戦闘にならないように道を逸れる。そう言えばPKばかり気にしていて魔物のことは特に気にしていなかったが深部に入ったと言うのに手強くなった気がしない。
まあ、オーガが少ないだけでスタンピードになるような数はいないため問題は無いはずだ。
「ッ!!」
風切り音が聞こえると同時に危機感知が警鐘を鳴らす。
直感に従い首を傾ければ、後方の樹に矢が突き刺さった。
聖書を片手にリリースを行使し、直ぐさま眼前にシールドを展開させ、横に移動しながら魔術陣を構築する。
一拍置いて真横を矢が通り過ぎ、ストンと音を鳴らして二本目の矢が突き刺さった。矢が飛来した方向を見ればそこにあったのは樹だ。
「オリジナルスキルか」
私がそう呟くと、展開した魔術陣から半透明の盾が召喚される。これでシールドとリフレクトは揃った。飛び道具なら数回は弾くことが出来る。
だが、ぬかった。烏合の衆であるPKなど楽に対処できると高を括っていたがそうもいきそうにない。下手をすれば幹部陣と戦闘になる前にこちらが殺されることになりそうだ。
矢が飛んできたであろう方向に向かって駆けだす。常にパラメータ上昇系のバフは掛けていたのでバフを行使することは無い。
いったい奴らは何処から攻撃を仕掛けて来たのか。その規模も分からないが今は距離を詰めることを優先する。
下手に距離を空けたままだと魔術による攻撃を受ける可能性があるからだ。近づくことでも魔術を放たれる可能性はあるが発動する魔術は単体系である可能性が高くなる。
相手に私の弱点が知られていないうちに範囲攻撃、継続型攻撃を使える魔術士は殺しておかなければ時間とともに不利になってしまう。
「見つけた。バーサーク」
遠くに人を見つけた。まだ距離は遠く住民か、プレイヤーかは確認できないが見える範囲では10人の集団だ。前方には剣や槍を持った者たちが武器を構え、後方では魔術士が魔術を行使しようとしている。
一歩進むごとに自身に付与できる闇属性魔術とまだ掛けていなかったバフを行使していく。矢が射られた時からシステムは戦闘を開始したと判断しているのだろう。白黒の条件が満たされ、次々と十字架が召喚される。
「来たぞ!! 敵は一人だ!!」
「前衛は足止めをしろ。絶対に逃がすな」
「突っ込んで来るようなバカなら問題ないっしょ」
「魔術はまだか!!」
「クソが! オリジナルスキルを使ってやがるな。何があるか分からんから無理に近づくな!!」
歩之術理 縮地
術理を使い、強化されたステータスを以って加速する。
白黒により召喚された白の十字架は5つ。これの補正値が45であり、パラメータ上昇バフは二重で掛けているので90上昇している。
これだけあればパラメータでは私が有利であるのは間違いなく、武器を構えている前衛たちを瞬く間に抜き去り、後衛に近づく。
最優先で潰すのは後衛の魔術士と弓使いだ。特に戦術に多様性がある魔術士の優先度は高い。
「なに!?」
「抜かれたぞ!! 」
「俺に任せろ。月光斬!!」
前衛の一人、剣士が剣を振るったのが空気を切り裂く音で分かった。虚空を切るその攻撃はジェシカさんがよく使う斬撃を飛ばす攻撃をオリジナルスキルにしたものだろう。魔術師まで残り数メートルと言ったところで斬撃が白く発光しながら迫って来る。
迫る光はコンマ秒間隔で光度を増す。それでも私は魔術師のみを見据える。
攻之術理 横断
導魔を振り抜く。
魔刃により、伸びた刀身は正確に魔術士二人の首を刎ね跳ばした。同時にガラスが砕ける音が鳴り、魔の森を照らした光が消える。
「ッヒ!!」
「アイツ、シールドで俺の月光斬を防ぎやがった!!」
「拘束割だ! バフを重ねる気だぞ」
「何やってんだ。出し惜しみするな! 包囲攻撃だ」
「てめぇ、よくも!! トリプルショット」
「ハイアローレイン」
その場に留まることなく、直ぐに動く。次は弓使いだ。打ち出された3本の矢は導魔で払いのけ、降り注ぐ無数の矢は弓使いに近づくことで躱す。
攻之術理 二連三日月
導魔を切り上げて弓使いの一人を斬る。胴を両断するつもりで振るったが私が近づいたことで相手が僅かに蹈鞴を踏み、それは叶わなかった。しかし、その代償は右腕だ。
矢を持った腕が空中に放りだされ、絶叫が響く。それを無視しながら導魔を切り下げる。
二人目の弓使いとは距離が離れているため魔刃で刀身を伸ばそうと届かない。だが、振り下ろされた導魔から魔力の刃が飛んだ。




