ラトリム村
道中、ユーリウスさんとデヴィッドさんが喧嘩する些細な問題は起こったが気づけば二人はいつの間にか和解していた。
私はジェシカさんとアーツについての話で盛り上がってしまい、そのことに気づくのが遅れ、天使やら悪魔について聞きそびれてしまった。そしてデヴィッドさんに詳しい話を聞こうとした時、ユーリウスさんからラトリム村に到着したと声が掛かった。
「おい、止まれ!! こんな時間に何の用だ!!」
馬車が村に近づくと篝火が立てられた村の入り口で夜警をしていた門番が声を張り上げて警戒を示した。
「僕たちは冒険者ギルドの依頼でやって来た銀翼と言う名のクランだ! これが依頼書になる。村長に確認してもらいたい」
「確かに預かった。少々待て」
こう言った場面にも慣れているのだろう。ユーリウスさんは淀みなく見張り番と言葉を交わし、話を進めていく。
それから村長が来るまでの間、外が騒がしいと村人たちがこちらの様子を窺いに来た。
暗くて村の全貌を見ることは出来ないが予想としてはこの村の人口は200人ほどではないだろうか。パッと見ただけでも、それだけの住民が入りそうなほど村の周りに作られた柵や堀の外周が広い。
モニカさんから聞いた話ではこの村にも教会があり、教会には必ず通信用の魔道具が設置されている。なので、てっきり殆どの住民が王都に向かっているのだと思っていた。しかし、想像を超える規模の村人がこちらを見ていることからまだこの村に残っているのだろう。
「待たせてしまって申し訳ないの。儂が村長のジーテスじゃ」
「こちらこそ夜分遅くに申し訳ない。依頼書の通り、今夜はこの村で世話になりたいが大丈夫だろうか?」
「ええ、勿論でございます。ささ、我らが村にお入りください。儂の家で詳しい話を聞きますぞ」
少しして村長がやって来た。
隣に居る中年の男は彼の息子だろう。村人たちからは奇異の視線を受けるがこの二人からは歓迎の意を感じる。私が思っていた以上にギルドの依頼書の効力は高いようだ。
村長と一悶着起こるテンプレを想像していただけに少し残念さを感じるが嫌悪になるよりかはマシだな。
5分ほど進むと村長宅に辿り着いた。
見た目は他の家と変わらず木材で仕上げられたウッドハウスだが他家に比べて2回りほど大きい。室内はこれと言って特徴は無く、口数も少ないまま応接室に通された。
「この村は旅人が寄ることもないので宿はありませんから我が家の客室で一夜をお過ごしください。モニカさんはどうしますかな? 教会に戻りますか? それなら神父様に連絡をしておきますぞ」
「ありがとうございます、ジーテスさん。クメロ様にはご挨拶をしなければいけないので私は教会に向かいます。そうだ、ゼロさんも行きますか?」
「そう言うことなら私も教会に行きましょう。ジーテスさん、お願いできますか?」
「構いませんぞ。おい、ロック、神父様に連絡を頼む」
村長であるジーテスさんは後ろに立っていた息子であろうロックさんにそう言った。するとロックさんはそれに応え、応接室から出ていく。
「依頼書は拝見させてもらいましたぞ。明日には魔の森に向かうと言うことですので手短に済ませましょうかの」
「そうですね。ですが僕たちから要求することはありません。寝床を貸していただけるだけでこちらとしては十分ですから」
それからユーリウスさんがジーテスさんの質問に答え、それを数回ほど繰り返したところでロックさんが戻って来た。
ちょうど質問が終わったこともあり、ユーリウスさんとはここで別れ、ロックさんの後をモニカさんと一緒に付いて行く。寝床については教会が確保してくれているようなのでユーリウスさんたちに会うのは明日の5時になる。
村長宅から教会はそこまで離れておらず、10分も掛からずに着いてしまった。
他の街でもこれくらいの利便さが欲しいがこの村には教会はあっても冒険者ギルドや生産職ギルドは無いのでどちらが便利かと問われれば断然後者ではある。
教会は何処も同じ石造りでしっかりとしている。中は長椅子が並べられ、祭壇には8柱の神々の像が置かれている。
夜も遅いのでシスターこそいないが神父は私たちのことを待ってくれていたようで扉を潜ると一人の男性がこちらに歩み寄って来た。
「クメロ様、お久しぶりです」
「モニカですか。三年ぶりですかね。見ない間に大きくなりましたね」
「はい、今は銀翼の皆さんに良くしてもらっています」
「それは良かった。ところで、そちらの方が?」
「はい、ゼロさんです」
「初めまして、クメロ殿。モニカさんから素晴らしい人格者だと聞いております」
「こちらこそ、ゼロ殿のお噂はかねがね伺っております。アルテイオ様が弟子を取ったと、こちらの界隈では大盛り上がりですよ。それに比べ私などまだまだです。モニカは私を過剰評価している節がありますからね。それより、ゼロ殿は明日が早いのでは? 既に支度は出来ていますのでこちらへどうぞ」
道中モニカさんから話は聞いていたがクメロさんは出来た人だ。
まだ、話していたい気持ちはあるが彼の言葉は尤もなので好意に甘えることにする。
明日の調査で死ななければ、この村に戻って来れるのだし、今日は英気を養うとしよう。




