銀翼
5人の男女がこちらに近づくなり、ユーリウスさんはその内の一人の肩を叩いて言った。
「彼らが僕のクランメンバーさ。とりあえず、自己紹介をしようか。最初はデヴィッドからよろしく」
「私からか。それではよろしくお願いします、ゼロさん。私はデヴィッド=ネルソン。クラン、銀翼のサブマスターで職業は魔弓使いです。今回の任務では斥候として動くことが多いと思いますが楽しくやりましょう」
最初に自己紹介を始めたのはエルフの男性だ。深い緑色の髪に翡翠色の瞳を持ち、背丈は私よりも高い。大凡180程度ではないだろうか。彼は紹介通り、聖と同じように背中に長弓を装備している。
それにしても魔弓使いか。聞いたことのない職業だ。名称的には魔剣使いと似ているので魔術と弓を同時に扱う職業とみて間違いないだろう。
「そんじゃ、次はアタシだな。アタシはジェシカ=ローレン。ジェシカって呼んでくれ。アタシもデヴィと同じくサブマスさ。だが細かいことは苦手なんで形だけだけどな。見ての通り剣士だから戦闘の方は任してくれ」
次に名乗り出たのは170センチを超える程の背丈を持つ女性だ。肩にはレオが持つような大剣が背負われており、見るからに剣士と言うのが分かる。
それに真っ赤に燃える赤の髪に緋色の瞳は彼女の気質を素直に表しているようだ。また額に生える二本の角も彼女がオグルヒューマンであることを示している。
叡智の探求者で買った情報によるとオグルヒューマンは魔大陸に多くいるそうでセリアンス・ドッグに負けず劣らずの戦闘能力を有する種族であるらしい。
「俺か。俺はジョンだ。斥候を務めている」
言葉数が少ないジョンと言う男は正直に言ってパッとしない見た目をしている。
褪せた茶色の髪に何処にでも良そうな顔、背丈も低くもなければ、高くもない。何を取っても普通と言える。だからこそ斥候要因として今回の任務に選ばれたのだろう。見た目もそうだが、ふとすれば消えてしまいそうに希薄な気配は調査に打って付けだ。
「ジョンは素っ気なさすぎでしょ。俺はカイル=ウィリアムズ。ジョンと同じ斥候だけど近接戦もまあまあ出来るぜ。何か分かんないことがあれば俺に聞いてくれよな。まあ、俺ってモニカちゃんを除けば一番下っ端なんだけど」
いるだけで周囲のテンションを上げてしまいそうなセリアンス・キャットの男はカイルと言うようだ。
彼の言葉通り、戦闘の心得があるようで腰には二振りの剣が下げられている。ユーリウスさんと同じ双剣使いなのだろう。確かに斥候をこなすような者であれば手数を生かす双剣は相性が良い。
「私はモニカです。見た目通り、神官で教会に所属しています。えっと、怪我をしたら言ってください。治しますから」
最後に自己紹介をしたのは教会でよく見かける神官服を着たセリアンス・シープの女性だ。
背丈はそこまで高くないがセリアンス・シープ特有の羊の耳と尻尾があり、その背丈には相応しくない巨大な二つの果実が実っている。まだ、少し幼さが抜け切れていない表情にその胸のたわわは死者を出しそうなほどだ。
ユーリウスさんたちの自己紹介は終わったので次は私の番だ。モニカさんは私を神官だと認識していないようなのでそのことについても触れなければいけないだろう。
ミサキさんが用意した装備は予算1500万バースだけあり、性能は申し分ないが些か見た目が特殊すぎる。今は支援職用装備だが見た目が僧侶では神官職だとこの世界では認識されないのは考え物だな。
「私の名はゼロと言います。こう見えても教会所属の神官ですので回復も出来ますよ。それと少しなら戦闘の心得もあります」
「ゼロさんは謙遜が過ぎるよ。昇格試験ではあっという間に僕を負かしたじゃないか」
「本当か、ゼロ。ユーリウスに勝ったのか! 凄いな。今度はアタシとやらないか?」
「あのー、ゼロさんは神官なんじゃないんですか?」
「もちろん神官さ。でも、ゼロはアルテイオ氏の弟子でもあるんだよ」
「え!! アルテイオ様の弟子? 確かにアルテイオ様が弟子を取ったって同僚が言っていましたけど本当だったんですか」
そう言えばウォルターさんから指名依頼を持ちかけられた時にもユーリウスさんはいた。あの時は昇格と依頼の話で全ての意識を持って行かれていたので忘れていた。
「ええ、師匠からは弟子を名乗ることを許されています」
「すげぇ、マジもんかよ。てことはよ、ゼロは聖魔典管理神官になるのか?」
「成れるか、成れないかはさて置いて、ゆくゆくはその地位に上れれば良いと考えてます」
「アルテイオと言えば戦鬼のことですよね? 良く弟子になれましたね。噂に聞く話では何十年も弟子を取っていないとのことでしたが」
何十年もだと? てっきり師匠は二十代後半だと思っていたが若く見えていただけなのか。
叡智の探求者で情報を買う時に聖魔典管理神官についても聞いておけばよかった。アップデートが終われば直ぐに向かう予定だったので情報収集を怠ったのはミスだな。
「話の続きは馬車の中でしたらどうだ。検査は終わったみたいだぞ」
「じゃあ、カイル、モニカ、ゼロさんは僕に付いてきて。ジョンたちは後ろの馬車をお願い」
「おいおい、それじゃあ、アタシがゼロと喋れないじゃないかい」
「それなら途中、休憩ついでにメンバーを変えれば良いだけですよ」
ジェシカさんが拗ねるとデヴィッドさんに言いくるめられて後方の馬車に詰められた。それを見送りながら私はユーリウスさんの後を追った。




