ウォルター・ジャクソン
「試験の合否ですね。少々お待ちください」
受付嬢にギルドカードを手渡し、昇格試験について聞くと既に結果が出ていると言うことだったので合否を尋ねる。
試験の後、教会に向かいスタンピードについて調べたのだが教会の書庫にあった史実から分かったことは昨日の会合で教授が説明したことが殆どだったので収穫は無かった。
それとスタンピードを経験したことのある人物がいないか聞いてみたところ意外なことに案外多かった。
しかし、今から45年ほど前に起こったスタンピードの際、前線に赴いた神官たちは教会でもそれなりの地位になっている。そのため面会するには時間が必要だと言われた。
そこで私は権力と言う名のリーン=アルテイオの弟子と言う立場を使ったのだがなんと間が悪いことにその神官たちは今朝から王城に呼び出されてしまったらしい。
帰って来るのは明日になるかもしれないと言われれば、どうしようもない。
それに向かった場所が王城なら、それだけ大きな用件だったのだろう。それこそスタンピードについて王国も気を配っているのかもしれない。
「お待たせしました。試験の結果ですがゼロさんは合格です。おめでとうございます。それとこの後のご予定はございますか?」
「特にありませんがどうかしましたか?」
受付嬢が戻って来て試験の合格を私に告げる。
やっとCランクになることが出来た。これでクランを設立できるようになる。ただクラン設立にはCランク冒険者が3人必要なので私一人では何もできない。
ただし、この問題については既に解決しているようなもので私と同様に聖と一刀も昇格試験を受けている。あの二人なら落ちる心配はないので今日中にはクランを設立できるだろう。
それにしてもこの後に何があるのだろうか。
最初に聞いた話ではCランクに昇格した後も講習などは無く、今まで通り受注できる依頼と倉庫の容量が増え、特典として全ての街の入市税が免除されるだけのはずだ。
「ギルドマスターがゼロさんにお会いしたいそうです」
「ギルドマスターですか? 時間はありますし、大丈夫ですよ」
「ではご案内します」
受付嬢の案内に従い、その後ろを付いて行く。ギルドマスターに呼ばれる案件と言えばやはり昇格試験だろう。もしかしてあれなのか? あの有名なテンプレが今起きようとしているのか?
確かに戦闘技術だけならAランクは狙えるだろうと思っていたが本当に飛び級が出来るかもしれない。教養は後付けでもどうにかなるからな。また一つテンプレを体験できるとは最高の世界ではないか。
「マスター。ゼロさんをお連れしました」
受付嬢が扉を叩き、私が来たことギルドマスターに告げると部屋の中から野太い声が返って来た。
なんとなくだがその声に聞き覚えがある。知らない内に会っていたのかもしれない。冒険者ギルドにいればその可能性が無いわけではないからな。
しかし、違った。受付嬢が扉を開け、続くようにして部屋に入ると仕事机に腰を掛けていたのは昇格試験の直前であった隻眼、隻腕の男だ。
騎士団でも、教会でもない。普通にギルドマスター自ら冒険者の視察をしていたようだ。少々勘ぐりすぎたか。
「ご苦労。下がって結構だ」
ギルドマスターである隻眼の男に言われ、受付嬢が部屋から出ていく。
この部屋に残ったのは私とギルドマスター、そしてユーリウスさんだ。どうやら彼もギルドマスターに用があるらしい。
これは試験についての話が上がる可能性が上がった。ギルドマスター自身で私を見定めようと言う魂胆なのだろう。そこで適性があれば冒険者ランクを上げる。物語のテンプレのように手放しで昇格とは行かなさそうだ。
「まずは座ってくれ」
ギルドマスターは私をユーリウスさんがいるソファーの対面に座らせると手ずから飲み物を用意して、上座に腰を下ろした。
「先ほどぶりだな。俺はウォルター・ジャクソンだ。中央王国の冒険者ギルドを預かっている。頭が切れるお前ならここに呼ばれた理由は薄々気づいているだろうが、まずは昇格おめでとう」
ギルドマスターことウォルターさんはそう切り出し、ギルドカードを私に返却して来た。そこにはCランクの証は存在しない。それどころかAでも、Bでもない試験を受ける前と同じDランクの証が刻まれたままだった。
確かに「昇格おめでとう」と彼は言ったのだから、ランクが上がったことは間違いないはず。なのにギルドカードには変化が無い。
「ただ、今はランクが変わっていない。理由については今から説明しよう」
私が怪訝そうに眉を顰めていると、そう言ってウォルターさんが話を切り出した。
「試験の合否で見ればお前はCランクに昇格だ。それと俺もお前とユーリウスの模擬戦を見させてもらった。うちでもSランク昇格間近と言われているユーリウスと接戦、まして一本取るとは驚きだ。そこだけ見ても確実にAランク以上の実力と言える」
ユーリウスさんとの戦闘が見られていた? 幾ら戦闘中と言えど周囲への警戒は怠っていなかったがギルドマスターの地位にいるだけのことはあるのか。
この御仁と戦って一本取れるだろうか? 師匠とまでは行かないまでも底知れぬ何かを感じる。ウォルターさんが五体満足なら確実に負けるな。今はの話だが。
「そしてかの戦鬼、アルテイオ氏の弟子でもある。それを考慮すれば訪問者と言え、信用に置ける。どうだ? 指名依頼、受ける気はないか?」




