魔王に弱点は無い
「ユニークスキルですか。確かβでも持っていたプレイヤー数人ほどだった記憶がありますが」
「そう。習得条件が一切不明のスキル。でもこれで分かった。変異種を倒さないと手に入らないなら少ないのも当たり前」
私が知っているユニークスキル保持者は少ない。しかも、その名称をすら知らない。だが、住民からその存在を知ることが出来た。
プレイヤーでは持っている人数は少ないが住民には生まれながらにして持っている人もいるためだろう。
「本当だったらユニークスキルの存在は隠しても良かったけどゼロさんとの共闘のおかげで倒せたから特別。それにハーピークイーンに似た効果だからその内バレちゃうかも。それで関係が悪化しても困るから」
そんなことで恨んだりしないが、見せてもらえるなら有り難くその好意を受け取っておこう。
〈飛翔の翼〉
MPを消費して飛翔する。飛翔中は継続的にMPを消費する
効果としてはMP消費で飛べるようになると言うことだろうか。私が見れば確かにハーピークイーンを連想させるような効果だが言われなければ気づくことは無さそうだ。それにオリジナルスキルと言えば大多数の者は納得するに違いない。
しかし、これまた変わったスキルだ。ユニークスキルにはレベルが無いと聞くが本当だったのだな。
これ以上強化されることが無い代わりに最初からこれ程の性能を有しているのだろう。
スキルよりは強力でオリジナルスキルには届かない、中間程のスキル。それがユニークスキルの解釈なのかもしれない。
「それって飛べますか?」
「やってみる」
スキルの書を取り出した春ハルさんは直ぐに飛翔の翼を習得したようでスキルの書が崩れていった。それから彼女はMP回復ポーションを3本ほど取り出してMPを回復させる。
「飛翔の翼」
春ハルさんが一言呟くと彼女の周りに風が集まり出し、それは徐々に形作られ、一対の翼に変わった。少し緑色が入った白の翼は広げれば3メートルに届きそうなほど大きい。
「ちょっと飛んでみる」
人の身で空を飛べる事実にはしゃいでいるのだろう。子供っぽい笑顔を私に見せて翼を大きくはためかせる。
バサリと擬音が鳴りそうなほど激しく翼が動かされたのに一切の音を出さず、春ハルさんは空を昇っていく。
「インナーによって彼女の尊厳は守られたか」
装備をローブから皚皚淡青雲に変えたせいで露出度が増えたこともあり、垂直に跳び出した春ハルさんの服が大きく捲れ、胸元がさらけ出される。
システムが狙ってアイテムを出しているのか実に気になるところだ。
きっとβテストのデータや今までの行動ログを参考にして春ハルさんに合う装備を出しているはずだが露出度高めの装備とは......。運営は確信犯だな。
皚皚淡青雲は白を基調に水色が交ざった腰まである布を胸に巻く形の服だが胸元を頂点に二等辺三角形の形で切り取られているためヘソ見せ上等なスタイルだ。
昔から春ハルさんは似たような装備をしていたのでもはや気にすることではなかったのかもしれない。だが、彼女には空中と言う第二の行動範囲が出来たので見ている私からしたら堪ったものでは無い。
ちなみに下は短パンだったのでもろ見せは無かったが彼女には警告しておかないとだ。本当に紳士が来かねない。
「ゼロさん、これは凄い」
「そうですか。ですが飛ぶ時は気をつけてくださいね。胸元が見えてましたよ」
「そう? ありがと。そんなことより、このユニークスキル凄い」
春ハルさんにとっては胸元が見えるのはそんなことだったようだ。
無頓着だが彼女に触れることが出来る者はそう多くないので心配するだけ無駄か。春ハルさんも見るだけなら問題ないと言っていたからな。
「空中なら拘束割しなくても問題なく動ける」
「マジですか! それは反則ですね。誰も春ハルさんに攻撃できなくなるじゃないですか」
「安心して。これはMP消費が激しい。今は良くて8分くらいが限度」
空中では拘束割をしなくても移動できるのは控えめに言って春ハルさんと最凶の組み合わせだ。
春ハルさんの弱点と言えば魔術陣を展開したらそこから一歩も動けないことだったのでその前提条件が覆された。
飛翔の翼の効果が切れるまで耐えれば良いと思うかもしれないがその間、ずっと春ハルさんの攻撃を耐えないといけないのだ。それにオリジナルスキルによって時間経過で魔術の威力が上昇していくことを考えたら勝ち筋を探す方が難しそうだ。
しかも、今は8分程度しか飛べないと言っていたが『今は』だぞ。
飛翔の翼の効果的に発動中に消費されるMPは固定値の可能性が高い。これからも春ハルさんのMPは増加していくはずなので今以上に効果時間が伸びる可能性がある。
運営は何てスキルを春ハルさんに与えているのか。そして何故私には与えないのか。
「それでも十分強力ですけどね。あー、すみません。私はそろそろ王都に戻らないといけないのですが、春ハルさんはどうします? 良かったらラピに乗って行きますか?」
「大丈夫。ラピちゃんに乗ると酔っちゃうから自力で行く」
「ここから王都までかなり離れてますけど大丈夫ですか?」
「問題ない。装備とかスキルの検証をしながら向かうから」
「そうですか。では私はこれで。今日は誘っていただき有り難うございます。楽しかったです」
「うん。私も満足。また、王都で会おう」
時刻が11時に近づいて来たのでこれで解散となった。
春ハルさんはこの後、検証がてら王都に向かうようなのでワールドクエスト中に会う機会がありそうだ。
私は呼び鈴を吹いて遠くで待機しているラピを呼び出す。
「よしよし。頼んだぞ」
数分して私の下に来たラピに乗り、王都へ足を進める。
次はCランク昇格試験だ。ハーピークイーン戦では身体を動かせなかったので模擬戦では良い汗が流れるような戦いをしたいな。




