誘い
「色々突っ込みたいところはありますがユニークボスの討伐はご一緒させてもらいます」
「そう。じゃあ、乗せて」
春ハルさんが両手を伸ばして来るが知り合いであってそこまで仲がいいわけではないので手を取って良いか思考を巡らす。
その間僅かコンマ秒。しかし、彼女は直ぐにラピに乗るのを手伝ってくれるものだと思っていたようで「はやく」と私をせかす。彼女が良いと言うのなら良いのだろう。
シールドを展開することで足場とし、春ハルさんの手を取って私の後ろに乗せる。
「ありがとう」
「いえいえ。それでユニークボスは何処に?」
「王都から北に行ったところ」
王都から北に行ったところとはまた抽象的だ。しかし、方角的に魔の森があるのでその付近なのだろう。もしかして春ハルさんは徒歩で向かおうとしていたのか?
「適当に進みますね。近くなったら教えてください。ところで本当にここまで徒歩で?」
迷宮の街から王都までは馬車だと2時間ほどだが徒歩でとなると丸1日掛かる距離だ。それこそ途中で野営をしなければいけない程であり、AGIがそこまで高くない魔術士なら尚更だ。
「そう。乗ろうと思ってた馬車が行っちゃったから。でも、ピクニックみたいで楽しかったよ」
100キロ弱の道のりをピクニックと言える胆力は恐ろしいが本人が楽しんでいるなら良いだろう。それよりも馬車に乗れなかったとはどういうことなのだろうか。
「多分このまま北西に向かってくれれば大丈夫」
春ハルさんの指示の下、ラピを動かして草原を進む。魔物が居たりするが自動車もかくやと言わんばかりのスピードで駆け抜けるため戦闘に入ることは無い。
「......最初から気になっていたのですがもしかして春ハルさんの種族はセリアンス・フォックスですか?」
「ん。正解」
やはりか。冒険者ギルドで住民のセリアンス・フォックスを見かけたことがあったのでもしやと思って聞いてみたのだが間違いはないようだ。だが、プレイヤーにいることは本来ありえないはずだ。
「気になるって顔してる。でも、教えない。情報が欲しかったら大門先生の所に行って」
彼女の言い分からして他種族になる方法があるようだ。それもキャラクタークリエイトの時ではなく、この世界に降り立ってから。所謂、転生と言う物なのだろう。
詳しい話を聞きたいところだが教授たちに情報を売ったのだったら彼女から聞くのはマナー違反に当たる。王都に戻ったら情報を買いに行くとしよう。
予想としてはダンジョンアイテムが怪しいな。掲示板の情報だが春ハルさんはダンジョンに籠っていたらしいのでその時に入手したのではないかと踏んでいる。
ああ、言い忘れていたが春ハルさんは護と同じくソロで行動している人だ。人付き合いは良い方だが彼女自身、魔術を極めると公言している辺り、他人と歩幅を合わせるのが難しいのだろう。
「それでユニークボスは何の変異種ですか?」
「ハーピークイーンの強化種か有知種」
「ハーピークイーンですか? 聞いたことないですね。ハーピーではなく?」
てっきりハーピーの変異種だと思っていたばかりに想定と違う答えが返って来て驚いた。今回も鉱山の街のようにフィールドボスが変異種になっているパターンだと思ったのだが違うのか。
「ハーピーはハーピークイーンの下位個体。今のレベルだとフィールドボスに興味はない」
確かに北に向かうならハーピーではないか。ハーピーは迷宮の街と王都を繋ぐ街道付近に生息するフィールドボスだ。そのため推奨レベルは40ほどだった記憶がある。
レベルだけ見れば鉱山の街で戦ったマーキュリーゴーレム・ホプリゾーンよりも低く、経験値的には旨味が殆どない。
「そう言うことですか。ではハーピークイーンのレベルはどれくらいですか?」
「分からない。でも、ランクAの依頼だから相当強いはず」
「ランクAと言うことは推定90前後ではないですか」
「だから、ゼロさんを誘ってみた。もし断られたら素直に王都でパーティを募集してから向かってる」
それはいいタイミングで春ハルさんに出会えたものだ。
話を聞く限りハーピークイーンはフィールドボスではないようなので初回攻略特典はないだろうがそれを差し置いても討伐に向かう価値がある。
変異種とはそれほどレアな魔物だからだ。しかし、レベル90相当の魔物を相手にするのに二人で足りるのだろうか。しかも、ハーピーの上位個体なら制空権はこちらに無い。
私は遠距離攻撃手段を持っていないので全くのお荷物になるのが目に見えている。白黒を使ったところで攻撃手段が無ければ意味が無いからな。
「攻撃は私がするからゼロさんは支援をくれればいい。噂は聞いてるから多少のステータス差だったら問題ないよね?」
噂とは白黒のことだろう。別に隠しているわけではないので知られていても問題は無い。逆に春ハルさんと共闘すれば彼女のオリジナルスキルを知れるかもしれない。
今回もβの時と同じような効果にしているのだろうか。非常に気になるな。あれこそ、彼女が魔術最強たる所以なのだから。




