オークナイト戦
振り下ろされた棍棒による攻撃を展開していたシールドで防ぎ、右手に握っていた導魔を突き出す。しかし、顔面を狙ったが顔を覆っている錆びた兜に弾かれて脳天を貫くことは出来なかった。
仕切り直しだ。手綱を握り、ラピを促すと一気に加速して戦線を離脱する。
「馬上槍が欲しいところだな」
今は導魔に魔力を流し、魔刃によって刀身を伸ばしているが魔力には重さが無いのだろう。導魔本来の重みしか右手には感じられない。
そのせいで軽い一撃しか放つことが出来ていないので硬い相手には弾かれることが多い。
今、相対しているオークたちは格下でもあるためそこまでVITは高くない。だが、どこかで拾ったのか鎧を纏った個体がいる。鑑定で視る限りだとオークナイトと表示されていたのでオークの上位種だろう。
ここの狩場に移動してから何度か戦っているので攻略法は既に把握しているが騎乗戦を楽しんでいるのでラピから降りて戦うことはしない。
それに迷宮の街ではダンジョン攻略に励んでいたのでラピと共に戦う機会は少なかった。そのせいかラピも私を乗せて戦うことにいつも以上の気迫が窺える。もしここで降りると言えば拗ねてしまいそうだ。
多少、距離を取った所で転回し、オークナイトたちの方を向く。かれこれ数合ほど交わっているので向こうも迎撃の準備を整えていた。
次はオークを狙うとしよう。
オークは身を守る物は布以外なにも着けていないのでこちらの攻撃はよく通る。それこそ頭に導魔を突き刺してしまえば即死するほどだ。
今回のような馬上戦は魔刃による刀身を薄く延ばすのではなく、分厚くしているので突きによる攻撃でも簡単に折れることはない。
初戦で折れた時は驚いたがモブ狩りで知れたのは良かった。ボス戦なら隙を突かれていた可能性もあるからな。
ラピの腹を叩いて加速させれば、奴らは狙いがオークナイトでないと気づき陣形を変えてくる。
果たしてそれは仲間意識があるからなのか。オークナイトが先頭に立ち、オークたちを背後に移動させた。
今までもこれの繰り返しで碌にオークの数を減らせていない。最初の3体を倒すまでは良かったのだがどうやらオークナイトは学習してしまったらしい。
こうなってしまえばオークを狙うのは難しい。下手に突っ込もうとすれば横からオークナイトの攻撃が飛んで来るからだ。
ただ、それは向こうも同じであり、最大ではないが白黒で強化されたシールドを割れないでいる。しかし、どちらかと言えば私が優勢だ。何せシールドが割られてもまた出せばいいだけなのだから。
加速したラピの速さは相当なものでオークナイトとの距離を一瞬にして詰める。
最初に私が導魔を眼球に狙いを付けて突き出すがヤツは首を傾けることで刃先を兜に当てさせ防いだ。
次いでヤツがスイングするように棍棒を振るってラピを潰そうとする。しかし、それはシールドに防がれ、鈍い音を立てて弾かれた。
今度はラピを倒すことにしたようだ。
足が無くなれば勝てると思ったのだろう。だが、地上戦の方が導魔は力を発揮するので失策だ。それでも、ラピが攻撃を喰らうと冗談抜きでラピが死ぬので確実に防ぐ。
このまま後方のオークに追撃をかけるか少しの間思案するが深追いすることの被害を考え、一旦引くことにする。
導魔は右手で握っているので攻撃をする時はオークナイトを正面に左側から攻撃しなければ力が乗らない。そのことをオークナイトも分かっているのでヤツの後方に位置する2体のオークは右奥にいる。
このままオークを狙おうと進めば挟み撃ちにされてしまう。そうすると相手の手数が増えてしまいシールド一枚では防ぎきれなくなる。やはり、オークが攻めて来る分にはやりようがあるが私から攻めるのは無しだな。
ラピに合図を出し、一度距離を取ってもらう。
「ボチボチ、レベル上げに移るか。合図で突撃だ」
常に開いていたメニュー画面が目に入り、今の時間を知らせてくる。時刻は9時を過ぎており、王都に戻るまでの時間を考慮すれば馬上戦ごっこは終わりにして目的の一つだったスキルのレベル上げに移った方が良い頃合いだ。
メタモルフォーゼにより、導魔を送還させて聖書を呼び出す。
私が攻撃しないことを怪訝そうに見ていたオークナイトだったが聖書を取り出したことで魔術を使うと判断し、こちらに走って駆け寄って来る。
後方で守られたオークのことを考えないで移動しているところを見るにかなり焦っているのだろう。
どうやら戦闘序盤で行使したデスが効いているようだ。
まさか思考放棄で発動させたデスが成功するとは夢にも思わなかった。実は私もデスが成功したのを見るのは初めてだったがあれは本当に恐ろしいアーツだ。
デスが発動した相手はオークナイトだったのだが今苦戦しているのが嘘のようにあっさりと死んだ。
仲間を一瞬で殺した魔術が発動するかもしれないと考えればあの焦りようも納得だ。




