東の狩場
轟々と風音を立てながらラピが平原を疾走する。
上に乗っている私に掛かる風圧も速度に比例して大きくなるがそれがまた気持ち良い。
王都を出てから大分走って来たので周囲にはプレイヤーの影が殆ど見当たらない。
一応、近くに街道があり、そこを通る者たちが居るには居るが歩くなら相当距離があるので狩りを邪魔されることはないだろう。
とりあえずは11時を目安に狩りをする予定だがここの狩場は私との相性が悪いので連戦は難しい。
街で新しいスキルを買っておいたのでそのレベル上げをしたかったが果たして二次スキルまで持って行けるかどうか微妙なラインだ。
「分かっている。戦闘準備をしておいてくれ」
敵の接近を察知してラピが嘶くことで注意を促してくる。
強度を上げていた気配察知にもその様子がありありと浮かんでくるのでヤツが行おうとしている奇襲は失敗だ。だが、そのことにヤツはまだ気づいていないようなので油断して近づいて来たところにカウンターを決めさせてもらう。
「そこ!!」
上空から急降下して来た魔物、フォールホークが鉤爪で私のことを切り裂こうとする。
それに合わせるようにラピの手綱を引けば、急に速度が落ちたことでフォールホークは狙いを誤り、私に触れることが出来ずに目の前を通過した。
翼を畳むことで空気抵抗を減らし、重力の力を借りて急速に落下して来たフォールホークだったがここから急上昇することは難しいのだろう。飛び上がるまでに一拍ほど間がある。
その隙を私が見逃すはずがないのは自明であり、馬上槍の要領で導魔を突き出す。
魔刃によって刀身が伸びたことで長槍と言っても良い代物に成り果てた導魔はフォールホークの翼を切り裂いた。
魔物と言えど摩訶不思議な要領で飛んでいるわけではなく、しっかりと翼を使って飛ぶので正しく致命傷の一撃となった。これでもう飛べなくなったので後は煮るなり焼くなり好きなようにできるわけだ。
多少の事前情報は仕入れてここに来たが百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。想像以上の速さで奇襲してきたものだから最初は危うくダメージを受けるところだった。
こう見えても私は神官なのでVITには最低限しかSPを振っていない。
そのため下手をすれば一撃で沈む可能性すらあった。実際はVIT上昇のスキルがあるのでどうにか耐えられただろうが、戦闘が始まれば回復できないのでどちらにせよ奇襲を受けるのは悪手になる。
そうして奇襲に慣れるまでは2、3回ほど肝が冷えるような思いをさせられた。
「どうしてやろうか。......おい、ラピ。目の前にいるのが邪魔だからと言って踏みつけるな」
騎馬戦の感覚を取り戻すためにも導魔を握ったと言うのに、道を塞ぐフォールホークのことが余程邪魔だったのかラピは無情にも厚く硬い蹄を以って踏みつけてしまった。
3メートル超えのラピは踏みつけるだけでも強力な攻撃になり得る。
実際、フォールホークも踏まれ所が悪かったらしく瀕死の状態に陥っていた。
流石に哀れなので導魔を振るって首を落として即死させる。
〈戦闘が終了しました〉
フォールホークが落としたのはヤツの肉だった。
王都近郊の魔物は私と相性が悪いと言ったがその理由は出現する魔物が殆ど鳥系だからだ。
たまに流れのゴブリンやらに出くわすが魔の森でもダンジョンでも嫌と言うほど戦ったので箸休めにもならない。
鳥系の魔物とは今のを合わせれば数十回ほど戦闘を行ってきたがやつらは空中を飛んでいるのでまず私の攻撃が当たることがない。なので、敢えて奇襲を誘い、カウンターで仕留めているのだがこれでは如何せん効率が悪い。
この狩場で相性がそこまで悪くないのは鳥系の魔物でもビッグチキンだけだ。
やつらはただデカいだけの鶏なので飛ぶことは無く、ラピに騎乗していれば速度で負けることもないので10体ほど仕留めている。
そして、それらの魔物が落とすドロップアイテムは羽や卵、後は肉だ。と言うかここにいる鳥系の魔物は大体が肉しか落とさない。
確かに酒のつまみで焼き鳥を食うのは好きだが他にも違ったアイテムを落として欲しいものだ。まあ、他に何を落とせばいいのかと問われれば困るのは私なのだが。
「少し北東に進むとしよう。お前も奇襲にはうんざりしてきたところだろ?」
ここより北に進めば行きつく先は魔の森だ。
師匠から貰った通行許可書があるので魔の森に入ることも出来ると思うが今日はそこまで遠出はしない。それでも魔の森に近づくことは魔物が増えることを意味するのでこの狩場よりは楽しめるだろう。
腹を蹴れば嬉しそうに駆けだすラピの首を撫で奇襲をしてきたキラーイーグルを置き去りにしてグングンと速度を上げて進んで行く。
私も戦闘をして分かったが掲示板でも言われているように未だスタンピードなど起きていない。
さっきの狩場もプレイヤーが少なかったためリソースが十分にあっただけで、常軌を逸した数の魔物がいると言うことは無かった。
分布で言えば、大多数が鳥系の魔物と言うのもなかなかに変だがそれは置いておこう。どうせ考えても分からないのだから。
ラピを走らせて10分もすれば王都からかなり離れ、出現する魔物が変わって来た。
それでも鳥系の魔物は出現範囲が広いのか、ここでも奇襲を警戒しないと不意打ちを受けそうになるほど多くいる。
もう少し先に進むのもいいかもしれないが街道から離れるのはよろしくない。
土地勘が無いのに気の向くまま進めば、下手をすれば帰れなくなるほどにはこの世界は緻密に作られている。
そう言う訳で空を飛んでいる魔物はウザったいがグッと我慢して狩りの続きをする。




