いざ王都へ
ファイヤーブロンズゴーレムは見た目通り生物系の魔物ではないので頭が無くなろうと死にはしない。相手が先ほどまでいた小火山を背負った陸亀もどきなら瞬殺出来たのだろうが非生物系では相性が悪かった。
それはそうと反撃の恐れがあるのでファイヤーブロンズゴーレムに跨り、胸の辺りに拳を添える。早めに止めを刺さないと私のHPがヤバそうだ。
「ッチ。コイツは核まで硬いぞ」
訂正だ。インパクトはこいつに対して相性が悪いのではなく、攻撃箇所が悪かっただけのようだ。
止めを刺そうと震撃を放ったがヤツの核を破壊するに至らなかった。今までのゴーレムは核を破壊できないことなどなかったので震撃が効かない相手は初めてだ。
防御無視の必殺の一撃だったのだがこれからはそうとも限らないのか。きっと私のSTRが足りないのだろう。
「ロード、コイツの胸辺りにもう一度インパクトを使ってくれ」
「ん? ああ、なるほど。そう言うことですか。インパクト」
魔術陣が生み出され、不可視の攻撃がファイヤーブロンズゴーレムの身を襲う。
何かが砕け散る音がヤツから聞こえるのに外見からは何が起こったのか分からない。そして、数秒と待たずしてヤツは黒い靄となって消失した。
〈戦闘が終了しました〉
「今度は一撃かよ。どう言うこった?」
「簡単な話だよ。今の攻撃がこいつの核を砕いたんだろうね。部位欠損程度では死なないゴーレムにも活動に必要不可欠な核があるからそれが無くなれば即死は免れないんだよ」
やはり、威力に関しては震撃よりもインパクトの方が高いようだ。これもロードのINTが異常に高いからだろう。これならこのエリアも危なげなく攻略できそうだ。
「そんじゃあ、俺の出番はねえのかよ!!」
「安心してくだされ、レオ殿。インパクトの攻撃は指定空間のみにしか効果が発揮しませんからな。対象が動いていては碌に使えないのですよ」
「そう言うことか!! なら俺がこいつらを押さえておくわ!!」
それは知らなかった。まあ、あれだけ強力なアーツだ。それくらいの不便さがあっても良い気がする。
しかし、指定空間か。空間と聞くと空間魔術を思い出すがロードが持っているのは虚魔術だ。何かしら関係がありそうだが三次スキルで派生でもするのだろうか。
「戦闘になったらその戦法で良いが極力戦闘を避けてくれ。今も私のHPが異常なほど削れているからな」
「僕たちは問題ないのに不思議だよね」
「このスリップダメージにも絡繰りがあるんだろうな。思うにVITが関係しているんだろ」
「絶対そうだぜ。VITが100以下なのはゼロとロードだけだしな。その二人だけスリップダメージを受けてる。こりゃあ確定だろ」
まさかスリップダメージがVITから算出されるなど思はないだろ。
71階層に転移した瞬間から私は自分のHPバーを確認していたが、その時は予想通りHPが減り始めたので深く考えずにリジェネーションを連発した。しかし、エリア内を進んでいる内にリジェネーションの効果が私とロードにしか発動していないことが発覚したのだ。
「まあ、今は気にしても仕方がない。残り2、3キロと言ったところだ。進もう」
「だな。地味に暑いから俺も早くここから出たいぜ」
無駄にリアルを再現しているだけはあって確かに暑い。きっと溶岩の中に手を入れたら一瞬にして燃え上がることだろう。レオならばやりかねないがどうやら今は案内役に徹しているのか私たちをセーフティーエリアまで先導するために先に進んでいる。
進み始めて数分、後方にいるロードはAGIが低いから辛そうだ。気休め程度にエンチャント・グリーンアップなどのAGI上昇バフを掛けているが攻略速度を速めるために全員に掛けたので相対的な速度は変わっていない。
レオに速度を落とすように言った方が良さそうだな。このままだとロードが一人取り残されてしまう。こういう時こそ馬が欲しい。火山地帯でもバトルホースは大丈夫だろうか?
「到着だぜ!! 休むか? それとも街に戻るか?」
それほど時間が掛からずにセーフティーエリアまで辿り着くことが出来た。途中、ファイヤーブロンズゴーレムとの戦闘が4回ほどあったがインパクトによって全て一撃で撃退出来たので時間的損失は少なく済んだ。
やはり二次スキルの最終アーツは強力だ。見ていた限りインパクトは攻撃範囲がかなり狭いがその分消費MPも少ないようなので案外手軽に行使できるのが強みだ。
まあ、私たちのレベルが適正レベルより上なので手間取ることなくファイヤーブロンズゴーレムの動きを拘束出来たのが大きく関わっているのだろうがな。
「街に戻るとしよう。20時には王都行きの定期馬車が出るようだからな」
「ミサキが予約してくれたんだっけ?」
「そうだ。今から予約すると王都に着くのが遅くなるから感謝だな」
「んじゃあ、行こうぜ。後30分くらいしか残ってねぇじゃんか!!」
いつの間に移動したのか魔法陣の傍で手を振るレオの下へと私たちは向かう。周囲には住民らしき冒険者が数名いたが怪訝そうにレオを見ているのでまあまあ恥ずかしい。
まあ、それはどうでもいいことか。
そんな事よりこれで迷宮の街で私がやることは終わりだ。思えば長いようで短い道のりだった。もうこれで師匠が課した修行は終わり、宗教国に着くまでは手持無沙汰になってしまう。
いや、違うな。次はワールドクエストがある。大型アップデートで魔道艇が解放され、他国に行けるようになるまでは退屈することなどないだろう。
「さて、行くか。次は王都だ」
その言葉に呼応するように魔法陣が輝き出し、私たちは大地の塔を後にした。




