虚魔術
「邪魔くせぇ!!」
レオが両手に持った大剣を振り下ろす。
不知火に攻撃を仕掛け、背中を無防備に晒した金属ボディのゴーレムは回避も防御も出来ずに会心の一撃をその身に受けた。しかし、結果はある意味想定通りで僅かに傷を付けただけで弾かれてしまった。
鉱山の街でも殆どダメージが入っていなかったので今回もそうではないかと考えていたが困ったことだ。しかし、衝撃までは防げないようでヤツは押し倒されてうつ伏せに倒れる。
この階層では白黒が使えない。
ヤツにダメージを与えるにはバフとデバフを掛ける攻略法が最も安定するのだが白黒の効果無しだと今更物足りないだろう。
ただ、全くダメージが無いわけではなく、レオの攻撃を受けて少しはHPが減っているので囲い込んで蛸殴りにすれば負けることは無い。
「鑑定結果が出た。コイツの種族名はファイヤーブロンズゴーレム。ブロンズゴーレムの火属性版だろうな」
「見た目そのまんまだね」
「これは火属性に対して耐性が高いとみていいでしょうな」
「もともとMNDも高そうだから魔術は大して期待できないんじゃね? 囲い込みで潰そうぜ」
「直ぐに答えを出すのは早計ですぞ、不知火殿。吾輩の魔術を以ってすれば金属製のゴーレムなど容易く破壊できるはずですからな」
一刀の鑑定結果を聞いて不知火も私と同じ囲い込み作戦を提案するがロードは納得していない。それどころか魔術を推してくる。
確かに魔術は強力だがMNDが高い相手にはそれほど有効とは言えない。
無駄にMPを消費するくらいなら少し時間が掛かっても物理で殴った方が効率がいいはずだ。
「アイアンゴーレムには殆ど効いてなかったような......」
「否。断じて否。あの時はまだ成長段階でしたからな。今の吾輩はさらに成長を遂げているのですよ」
「つまり、どういうことだ?」
「クックック。こう言うことですぞ」
レオの問いに答えるが如くロードがうつ伏せで地面に突っ伏しているファイヤーブロンズゴーレムに手を翳す。
そこに現れたのは半透明の魔術陣。魔術を行使しようとするのだから魔術陣が出てくるのは当たり前なのだが今回ばかりは何かが違う気がする。
「吾輩が今まで優先的に上げてきた基本属性魔術は無属性。そして、これは無魔術の二次スキル虚魔術で覚える最終アーツ。その名も......インパクト!」
アーツ宣言が為されると同時に魔術陣から......何も出なかった。不発か? と声に出すより早く何かが砕ける音が鳴る。
音の発生源に目を向けるとそこにはファイヤーブロンズゴーレムがおり、その首には無数の罅が入っていた。
不発だと思った攻撃は私たちの誰にも感知されることなくヤツを攻撃した。その意味を理解した瞬間に冷や汗が背中を伝った。
確かにこれは二次スキルで習得する最終アーツだ。
今までの基本属性魔術で習得するアーツとはまるで毛色が違う。その属性固有の技なのだろう。
これと同等の物がロードには残り5つもあると考えると末恐ろしい。まあ、今はまだ無属性だけが二次スキルカンストなのだろうが。
それに比べ光魔術、闇魔術の二次スキルはここまで強力では無かったような気もするが、あれはきっと基本属性のように系統が同じアーツが少ないからなのかもしれない。
「さあ、レオ殿止めを」
「お、おう!!」
ロードに言われるがままにレオがファイヤーブロンズゴーレムの頭を蹴った。インパクトを喰らって出来た罅は内部まで広がっていたようで大した抵抗も無く、ヤツの首が跳んでいく。
そして、そのまま......ドボン。そんな効果音とともに10メートル以上離れたところを流れている小川のような溶岩の中に落ちていった。
あの中に入ってしまえば如何に金属の身体を持つファイヤーブロンズゴーレムと言えど融解は免れないだろう。
「......」
「ん? どうかしましたかな?」
しかし、ロードを除く私たちは何とも言えない気まずい空気を感じていた。
確かにロードが行使したインパクトによってヤツの首は致命傷を受け、さらにはレオによって頭を蹴り跳ばされた。本来ならこれで戦闘は終了だろう。
「言いづらいがまだ死んでないようだぞ」
「っ!!」
一刀の言う通り戦闘終了のアナウンスは聞こえてこない。それが意味することはまだ敵対対象が生存していると言うこと。
他にも目の前にいるファイヤーブロンズゴーレム以外に敵対対象がいる場合にも戦闘は終了しないが今は該当しないので置いておく。
あれだけ啖呵を切っておいて仕留め切れていないと言うのはなかなかに恥ずかしいものがあるのだろう。仮面でその表情を窺うことが出来ないが小学生時代からの長い付き合いだ。それこそ手に取るように分かる。
「ま、まあ、今のでHPの3割は吹き飛んでるし、レオたちが殴るよりは速く倒せるから有効な手段だろうよ」
「あれだけ、自信満々だから、てっきり僕は一発で、倒しちゃうのかと思ったけど、倒せないなら仕方ないよねー」
不知火がその有用性を認めて直ぐにフォローを入れるが慌てているのか早口になっている。聖は敢えて区切りをつけながら喋り、ロードを煽る。レオは何を思ったのかロードの背中をさすっていた。




