パーティ VS トレントンキング その8
このまま行けばトレントンキングとの接触まで数秒だ。しかし......左右に視線を移すと6つの竜巻がトレントンキング目掛けて進行している。
フレンドリーファイアが有効なので下手に近づこうとすればこちらの被害も大きくなる。レオたちの進行方向はハイストームの攻撃範囲にギリギリ入るかもしれない微妙な境界線だ。ただ、ここで躊躇ってもらっても困るので出来る限りの援護をしよう。
「そろそろ10秒経過するよ」
「早いな。ここが勝負時だ。ロードは右前方、聖はトレントンの牽制と左方向への警戒だ」
「承知」
トレントンキングが行使する土の魔導による地震は30秒ほど効果を発揮する。その間、トレントンキングは行動できないが10秒経過で行動可能となる。なので、最初の標的となるのはヤツに攻撃を仕掛けている2人だ。
既に発動しているハイストームは余程のことが無い限り無効化されることは無い。しかし、それだけでHPを削り切れるかと問われれば微妙だ。
「魔術の行使で吾輩に勝てるとでも?」
トレントンキングの周りに石礫が生まれる。大きさは拳一つ程。スキルのおかげで何とか見えているが素の状態なら判断が遅れた可能性が高い。
それをロードは5つの魔術を以って迎え撃った。土属性以外の5属性だ。魔術陣から生み出されたのはバレット系のアーツ。
最初期に覚えるアーツで低威力の代わりに待機時間、リキャストタイムが伴に最速のアーツであり、弾幕と呼ばれる攻撃方法を行う時に使われることが多い。
今回もその例に漏れず、弾丸程度のバレットによる弾幕が張られた。
ただし、少しまばらだ。しかし、これらは一刀たちを追い抜くと次々にトレントンキングが行使した石の礫にぶつかり、砕いていく。
INTが高い分、完全にこちらが押し勝った形だ。本来なら相殺する形で落ち着くはずだが、白黒により強化された状態ではロードが行使したハイバレットの方が強度とでも言うべきものが勝ったのだろう。
「何故、お前のHPが減っている?」
管理画面を見るとロードのHPが減少していたので言及する。ヒールを使うまでもない減りだが先ほどまではロードのHPは満タンだった。
「おや? 何故でしょうかな」
「ほざけ。オリジナルスキルか?」
「楽しみは後にとって置いた方が良いですぞ。正解は夏のイベントで明かしましょう」
オリジナルスキルだったようだ。しかし、効果は分からない。HPの減少具合から見てもそこまで強力な効果と言う訳では無さそうだ。
もしかしたら5種類で攻撃したことに意味があるのか? いや、あれは単に土属性だと飛来速度が遅いから除外しただけだろう。考えても分からないか。それより、今は戦闘中だった。
トレントンキングが枝を持ち上げた。
遂に来たか。シンプルかつ一番強力な攻撃だ。
トレントンもよく行う技だが、トレントンキングがやればその巨躯も相まって破壊力は相当なものだと予想できる。最善手は不知火の絶対防御で防ぐことだが今はリキャストタイム中なので使えない。
そもそも不知火は私の傍でトレントンの攻撃を防いでいるのでレオたちの下にはいない。向こうに居ればその身を呈して守ってくれるのだろうがない物ねだりは良くない。
「上段なら頼んだ。それ以外なら私が対処する」
ロードに指示を出しながらヤツの攻撃に備える。
トレントンは枝を使った技を二通り使用する。一つは上段からの叩き付け、もう一つは横に振る攻撃だ。他にも複数の枝で一気に叩き込む技もあるのだが、今回は1本の枝しか上がっていないので予想される攻撃は二通りだ。ただ、枝と言ってもそこらの巨木よりも太いので少々心配は残る。
「なんか嫌な予感がするぞ」
不知火の嫌な予感は大体当たる。事前対策が出来る分有り難いが想定外は御免だ。
「聖は迎撃態勢に移行してくれ」
MP回復ポーションをがぶ飲みし始めた聖に迎撃係を頼む。
あり得るとすれば攻撃の後に続く、魔導か物理攻撃だ。地中から根が攻撃を仕掛けてくる可能性も捨てきれないがその場合は放置で構わない。
私たちの目的は飽くまでレオたちの攻撃をトレントンキングに届かせることだからだ。それに根っこの攻撃ならレオたちでも避けられる。ちなみに私の足元にはシールドを展開しているので地中から不意打ちを喰らって白黒が解除されることは無い。
「上段だ!!」
トレントンキングが巨大な枝を頭上高く上げた。ここからの横振りはまずありえない。なので、待機させていたホーリープリズンを頭の片隅に追いやって詠唱を始める。今ならデバフを掛けるタイミングがギリギリ間に合うからだ。
「〈セクステットマジック ハイピーラー六属〉」
「【光が我を包み闇が対者を蝕む〈連続詠唱 二種黒〉】」
一刀たちは見上げれば視界を覆うほどの巨木が振り落とされている中、トレントンキングだけを見据えてひたすらに走る。
ヤツの下まで辿り着くのに後数歩と言う距離まで来ている。そして、剣に身体に青い闘気を纏わせている。ここでダメージを喰らえば発動キャンセルを喰らうことになるだろう。
しかし、迷いはない。これも信頼故。そう答えるかのようにレオたちの左右に道を作るように3本ずつ柱が立った。その道は大人3人が余裕をもって通れる広さを持っているが決してトレントンキングの攻撃を通すことは無い。
酷い衝突音が鳴った。攻撃を喰らえばひとたまりもないのは想像に容易いが果たして一刀たちは無事か。
「ライジングスラッシュ。ハイローリングスラッシュ。ハイクロススラッシュ。パワースラッシュ!!」
「ライジングスラッシュ。クリティカルカット......ハイバックステップ......ハイピアーシング。クリティカルカット」
戦場に響くアーツ宣言。青く輝く二人の戦士。怒涛の攻撃を浴びせる一刀たちの姿を見れば吟遊詩人はこぞって詩を作るだろう。ロードが生み出したハイピーラーは破壊されること無くトレントンキングの攻撃を防いだ。




