パーティ VS トレントンキング その6
「行けるか?」
「行けそうだな。攻めよう」
ビッグトレントンを20体ほど倒したところでトレントンキングの回復力にダメージ量が勝った。
周辺にはビッグトレントンがいないわけではないが、目につくもの数体倒した程度では今の回復力と大して変わらないはずなので標的をトレントンキングに変更する。
「道を開きますぞ」
ロードが杖を掲げて魔術を行使する。
6色の魔術陣が構築されてから合間を置いて6つの旋風が生まれた。ログを見ると使用されたアーツの名称が各属性のストーム系になっている。
6色の竜巻は前進して目の前のトレントンを薙ぎ払い、燃やし、凍てつかせと様々な属性攻撃を浴びせながらトレントンキングに迫る。
上位のハイストームを使わないのかと疑問に思っていたが、今のロードの火力を以ってすればトレントンには一次スキルでも対処可能なようだ。
トレントンたちも迫りくる竜巻に対してどうにか侵攻を止めようと藻掻く。
あるトレントンは己の枝を振るって渦巻く風を断ち切ろうと、またあるトレントンは風の魔導を行使して幾つもの鎌鼬を生み出して砂を運ぶ旋風を切り裂こうとする。
されど、パラメータと言う絶対的な壁を前にしてその全てが無に帰す。
基本、魔術士が行使する属性魔術は自身のINTと対象のMNDの値を参照してダメージ量が決定される。そのため、白黒によって強化された状態ではINTだけ見ても圧倒的にトレントンのMNDを凌駕する。
これがバフ無しならばロードとて二次スキルを使用していただろう。
トレントンキングとの距離は約70メートル。竜巻の群れによって壊滅したトレントンたちを尻目に私たちは歩みを進める。
トレントンキングの攻撃範囲が広いことは想定内だが、魔術の射程を考えると最低50メートルまでは近づきたいところだ。
範囲攻撃の魔術を使用する分には距離を縮める必要は無いが位置固定で発動する魔術は発動場所が遠いほど精度が落ちてしまう。これが設定上の問題か、はたまたPSで解決できる問題かはさて置いて今この瞬間を考えるなら攻撃の成功率は上げておいた方が良い。
歩きながら詠唱を開始したロードに対して攻撃は飛んでこない。周囲のトレントンは先ほど壊滅し、再生中なので分かっていたがトレントンキングまでもが攻撃してこないとは思わなかった。
ヤツとの直接的な交戦をしたのが10分以上と時間が経ったからかもしれないし、私たちとの距離が問題なのかもしれないが理由はともあれ攻撃してこないなら有り難く準備をさせてもらうだけだ。
「不知火、周囲の警護を頼んだ。私も少し集中する」
「任しときな。どんな攻撃がこようと今度は防いで見せるぜ」
「作戦の再確認だ。ロードの攻撃が始まったら直ぐに俺とレオはトレントンキングに突撃、不知火はゼロとロードの護衛、聖は遠方から援護と状況把握だ。この戦いが終われば十分に休息が取れるからMPの心配はしなくて良い。何か質問は?」
「獣化は使っていいか?」
「それはお前に任せるが71階層も攻略していくことになるかもしれないのを頭に入れておけ」
一刀たちが作戦の最終確認を始めている間に私も準備を始める。
トレントンキングが攻撃してこないと言う良い意味での想定外が起こったので、これを機に私も魔術の連続発動を画策している。
パラメータ上昇のバフは先ほど更新したので余裕がある。なので、今回行使するのは闇魔術だけの豪華なセットだ。
白黒の効果が上限に達し、光魔術を挟まなくて良いので使えるアーツは選り取り見取り。しかし、ロードの発動と同じタイミングで発動させないといけないので時間を掛けて選んでいる状況ではない。ただ、闇魔術は発動までの待機時間が短いから焦らずに慎重に選ぶ。
私が連続で行使できる魔術の数は8種類が限界だ。それに完璧なタイミングでの発動もまだできておらず、その道のプロに見せれば粗削りと称されてもいいようなもの。
練習をすればもっと上手くできるのだろうが私の場合は時間調整のために連続詠唱のテクニックを使っているので気にしない。例え、MPの消費量が僅かに多くなろうと後でMPを回収すればいいだけの話だからだ。
ついでに言えば8種類の連続行使を1回ではなく、数を絞って4種の連続行使を3回行えば8種よりも少し早く終わる。
ただ、それだと今回はロードに合わせることが出来ないので私が今できる最大量となる8種で行使することにした。理由はデバフの発動によってトレントンキングが攻撃を始めるとロードに当たり、魔術の発動キャンセルが起こる可能性があるからだ。
時間にして数秒だが思考の末に今回行使する魔術を決めた。ただ、6種類は既に確定しているので実質、相性を考慮して選んだのは2種類だけだ。その内の一つもバルネラブルなので悩んだのは一つと言ってもいい。
ロードが詠唱を開始してから構築された六つ目の魔術陣が目安となり、その魔術陣が構築されてから20秒とコンマ数秒で開戦となる。
我らが奇術師ロードでも12個の魔術を同時に行使するのは至難の技で待機時間を完全に合わせることは出来ないと詠唱を始める前に言われた。
「【刻々と刻まれる時 朱き陽は沈みて蒼き陰が姿を見せる 漆黒が世界を飲み込もうと星の輝きが世界を照らすーー】」
タイミングを見計らい詠唱を始める。
連続詠唱なのでどの魔術から選択しようと発動は同時なのだが魔術の待機時間を考慮して待機時間が長いバルネラブルを選択する。
次にロードの攻撃が終わった後にトレントンキングを討伐できていない可能性を鑑みてバーサーク、最後に各属性への抵抗力を下げるハイディルシャン系のアーツ、6つを選ぶ。6種類のハイディルシャンは効果がどれも同じなのでイメージしやすく、連続詠唱で行使するのは簡単な部類だ。
遂に魔術が行使される。
「【不浄を嘆き純白に笑う 強きを砕き弱きに祝福し対極は終ぞ絡み合う〈連続詠唱 八種黒〉】」
「【終ぞ花は咲き誇る しかして時刻みて花は枯れ落ち 終焉への道を開くだろう〈セクスタプルダブルマジック エクスプロージョン・ハイストーム六属〉】」
ロードの行使する魔術の内、6つがトレントンキングの頭上、残りがヤツの周囲を取り囲むように展開された。そして、私の周囲に展開されたロードの魔術陣よりも明らかに小さい魔術陣からはロードのアーツが発動するよりも少し早く、煌めいた。
【trivia】一部の連続詠唱において複数の魔術を行使する際、行使する魔術の総量が多いほど詠唱時間が伸びる傾向にある。これは脳内での演算処理が本来のキャパを超えるためだと言われている。よって10の魔術を同時に行使するよりも5の魔術を数回行使した方が速く処理が行われることが殆どだ。しかし、多量の魔術を同時に行使することは盤面制圧力が高く、術式処理がローコストに収まるため連続詠唱においても短文型、長文型と状況によって分けて用いられることが一般的である。




