パーティ VS トレントンキング その2
詠唱が始まってから20秒程。遂に全ての魔術が同時に発動した。
ログを見ればどの魔術が発動したのか判断がつくが視界に入る情報からではその全てを判断することは出来ない。何故なら視界を埋め尽くす程の爆発が目の前で起こっているからだ。
ロードの詠唱の一文にあった『空は黒に支配される』と表現された通り、爆心地の上空には真っ黒なキノコ雲が出来上がっている。
それは炎魔術がLV45になった時に習得するファイヤーエクスプロージョンと言うアーツの効果だ。
このアーツは15メートル程の範囲で大爆発を起こし、さらに範囲内を炎上させて範囲外にも熱波を放つ広範囲魔術であり、100体以上の魔物の群れと戦闘した際にも絶大な効果を発揮した。
しかし、発動されたアーツはそれだけではない。
爆心地では地面は燃え盛る劫火に包まれているし、今もなお前進するのは火炎が渦巻いた2つの火災旋風。他には炎で模られた剣や槍、玉などがトレントンキング目掛けて飛来したはずだ。
そして、これらのアーツの殆どが炎魔術であり、ハイと名の付く火魔術で習得するアーツの上位互換だ。
これは基本的に待機時間とリキャストタイムが長くなる代わりにアーツの効果が上昇する。
そう言う事実もあり、トレントンキングにはすまないことをした、と心の中で思っていたのだが......何というか予想とは裏切られるものだったな。
「威力やべぇ!!」
「まだ死んでないぞ! 注意しろ!!」
「ロードは二撃目の準備を不知火は反撃の警戒だ」
「なんか嫌な気配がするよ。危機感知が警鐘を鳴らしてる」
どこかの戦争に紛れ込んだのかと勘違いする程の爆発を身に受けてなおトレントンキングは息絶えることは無かった。
それどころか弱点だと予想した火属性の攻撃は超強化されているにも関わらずヤツのHPを5割しか削ることが出来ていない。
ヤツが炎上していない所を見れば火に対する耐性があったのかもしれない。
初手で決めることは出来なかったがフロアボスともなれば弱点を克服する可能性があると分かったのは悪くはない。
しかし、弱点を予想するのは困難だ。火を克服して逆に弱点になる属性など思いつかないからな。それか弱点属性など無いのかもしれない。
オオオォォォオォォォオォォ!!
突如として空気が震えた。
樹の幹に亀裂のようなものが入り、それが不気味な顔を生み出す。
ヤツが放った咆哮のようなものは私たちに一瞬の硬直を齎した。そして、それが私たちにとっての最大の隙となってしまった。
誰もが咆哮によって身動きが取れない中、辺り一帯に魔力の波が迸った。
そして、それから1秒も経たないうちに地面が揺れ始めた。しかし、それは地震であって地震ではない。魔力が視えたことが何よりの証拠だ。
「ッチ!!」
私はその場から後退することで来るだろう攻撃を躱そうとした。だが、余りにも範囲が広い地揺れの前ではそれは叶わず、地面が次々と沈降隆起する攻撃に飲まれてしまう。そして、万象夢幻が発動してしまった。
最大まで成長させた白黒は周囲に白の十字架と黒の十字架を19個ずつ展開させている。それがヤツの攻撃を受けたことで黒の十字架が9個になった。
発動したのは万象夢幻の黒失であり、魔導や魔術の効果を無効化する。代償として白黒で召喚された黒の十字架が10個消滅するが、ヤツの攻撃が魔導だったことに安堵を覚える。
もしこの地震が物理攻撃に分類されていたらと思うとゾッとする。下手をすればそのまま全滅に繋がり兼ねなかったからだ。
「困った事になったね。トレントンに囲まれたよ。それにキングの方は......自動回復してない?」
「回復してるな。それも尋常じゃない速度だ」
私の傍に聖がやって来る。
周囲は未だ沈降隆起を繰り広げているが、私の周囲1メートルは魔導の影響を一切受けていないからだろう。
これは性能向上によって強化された万象夢幻の効果のはずだ。このオリジナルスキルはおいそれと検証できるものでは無かったのでまだ未判明な効果があるが、ワールドクエストが始まった事だし、徹底的に検証を始めた方が良さそうだ。
それと聖はスルーしたがこれが私の2つ目のオリジナルスキルだとバレた。
最悪な展開だが万象夢幻が無ければ全滅していたかもしれないので不幸中の幸いか。悔いていても仕方がないので今できる最善を尽くすことにする。
行うべきはパーティメンバーの回復と援護だ。
「聖はトレントンの牽制を頼む。私は戦況を立て直す」
「分かったよ。MP管理お願いね」
「仕方ない。1割は残しとけ」
体感では10秒ほど経過しているが魔導による地震はまだ終わりを見せていない。
その間にも私と聖以外の面子はヤツの攻撃を喰らっている状況だ。ただ、白黒による強化のおかげもあり、HPの減り自体は少ない。
それでも足下が常に上下するため感覚が狂わされ、思うように行動を起こすことが出来ていない。
特にロードは魔術を行使しようとしても攻撃による発動キャンセルが起こり、何もできずに魔術のリキャストタイムだけが伸びることになるので動けずにいる。
例えフロアボスであろうとこの地震を永遠に起こし続けるのは無理があると踏んで不知火たちに回復を飛ばす。
ヤツの攻撃が終わってから反撃と行きたいが最初の一撃で決められなかったのは大きな痛手だ。
周囲を確認しながら出そうになった溜息を飲み込む。
地震が起きるのと同時に地中からはトレントンが出現した。それも数体ではない。数百体規模だ。
トレントンキングの裏側がどうなっているかは確認できないが、状況から見て全方位にトレントンが出現していると考えて良いだろう。
70階層だからと多少の侮りはあったがこうも面倒くさい相手だとは思わなかった。トレントンを生み出すにも限度と言うものがあるだろうが。
それに自動回復はやめていただきたい。ロードが与えたダメージも既に殆どが回復されてしまった。
これでは仕切り直しだ。いや、展開された相手の盤面が有利な分こちらが不利な状況からのスタートになる。
唯一の救いは生み出されたトレントンが大して強くないことだな。




