レベリング その8
ダメだ。導魔を腰に戻しながらため息をつく。
傍から見れば賞賛されるような一撃だったかもしれないが、自己評価をするなら60点もやることは出来ない。
特に魔刃を使ったことが大きな減点箇所だ。導魔でヤツを両断しようとするのだから魔力を使って鋭利な刃を作るのは悪い手ではない。
しかし、それを導魔の本来の刀身より長くしては技量が高まらないのだ。
「本当にチートだな!」
ラッシュボアを倒したレオが私の方を見て大剣を肩に担ぎながら苦笑した。
確かにチートのように見えなくはないがレオたちが使うアーツみたいなものだ。ただ、ここまで出来るようになるには長い年月が掛かるだろう。
その分、習得出来てしまえばアーツのようにMP消費やリキャストタイムなどを考えないで使えるのでかなり便利ではある。
「何だったら私が剣の扱い方を教えようか?」
「それは大丈夫だ!! 俺はアーツを連打してる方が性に合ってるからな!!」
「そうか。では、不知火たちに合流しよう。最後はクリティカルボアだ」
レオを引き連れて不知火たちの下まで駆ける。
あちらも最後のラッシュボアを倒しており、残りはクリティカルボアだけだ。
クリティカルボアはラッシュボアの上位種で見た目は大して変わらないが大きさが1.5メートルを超えている。さらに、毛も鉄のように硬く、生半可な腕前では攻撃しても弾かれてしまう。
それなのに速さも攻撃力もラッシュボアの倍以上あるのでこいつらが集団で来るとかなり面倒だったりする。
「不知火、スイッチだ!!」
レオが駆けながら不知火とスイッチして手に持った大剣を振り落とす。だが、ガキィィンと金属同士がぶつかった時のような音を立てて弾かれてしまう。
アーツを使わなければレオでも攻撃が弾かれるとは面倒な相手だ。しかし、見ればHPは減少しているので全く効いていないと言う訳ではないのだろう。
ヤツが力尽きるのも時間の問題だな。
「させねえよ。ハイシールドアタック」
攻撃の失敗により体勢が崩れたレオを吹き飛ばそうと牙を振るったクリティカルボアの目の前に不知火が現れてアーツを使用する。
シールドバッシュのように盾で相手を殴りつけるだけのアーツだが盾職が使うだけあり、クリティカルボアの攻撃を見事相殺することで防ぎ切った。
それに続くようにロードの援護が飛び、ヤツの体に雷の剣や槍が突き刺さる。
魔術による攻撃は順調にヤツのHPを削る。これはヤツのステータスがVITとSTR寄りでMNDはそこまで高くないからだ。
その代わりロードもヤツの攻撃を受けたら一溜まりもない。
クリティカルボアは未だに不知火をターゲットにしたままでロードや一刀に攻撃する素振りを見せない。そのため何度も攻撃を喰らい残りHPも3割以下となった。
ここでやっとターゲットをロードに切り替えたクリティカルボアが動き出すが、背を向けた瞬間を狙ってレオがアーツを使い攻撃を仕掛けて背後からバッサリとヤツの背中を切り裂いた。
すると、レオを危険とみなして今度はレオにターゲットを合わせるが、不知火が簡単にヘイトを奪うことでヤツのターゲットを固定してしまう。
後はこのループによってロードとレオがダメージ源を担いながら聖たちが不知火の補助に入る。
私はと言うとMP節約のためにそこら辺に落ちている石を全力投球して微力ながら援護を行った。もちろん、ヤツのHPはミリ単位でしか減少していない。
〈戦闘が終了しました〉
聖の攻撃が止めとなってクリティカルボアのHPバーが砕け散った。
ラッシュボアたちとの戦闘は問題なさそうだ。ただ、奥に進む程にクリティカルボアの出現頻度が高くなるので中央付近は気を引き締めて連戦を行わないといけない。
「次が来る前に移動するぞ」
一刀の号令の下、私たちは移動を再開する。
次にエンカウントするならボア系ではなくウルフ系の魔物だな。やつらはAGIは高いがVITが低いので聖や一刀でもそれなりのダメージを与えられる。
もし、ヴェントウルフだけの群れだった場合は手古摺りそうだが、クリティカルボアの群れよりは難易度が低い。
「ここからは出来るだけ縮まって行動するぞ。ゼロたちは奇襲に気をつけて付いてこい」
「後方の警戒は任せて。それとロードは単体攻撃の火魔術をいつでも撃てるように準備しておいてよ」
攻略を再開してから直ぐにウルフ系の魔物と戦闘になったがその中にはヴェントウルフが1体もいなかったので楽に処理が完了してしまった。
そして、そのまま進んでいると生物区域を抜けて植物区域に到達した。
一刀の言う通り、ここからは奇襲をメインとする魔物が多く出現するので襲われた時に早く対応するために固まって行動する。
トレントン系の魔物などは樹に擬態しているので、気づかないで傍を通過すればそのままペチンだ。
それだけは勘弁してほしいので聖の近くを歩くとしよう。
私も看破のスキルを持っているが目は多い事に越したことは無い。
「あれはトレントンだ。そっちのヤツもそうだな」
早速、一刀が次々とトレントンの居場所を看破する。
言われて私も視線を向けると確かに通常の樹とは違い何か違和感を覚えた。これは一刀と聖に任せるのが吉だな。




