レベリング その3
遂に一刀が戻って来た。
時間的に最初に掛けたバフは生きているので魔物の大群とは適切な距離を保っているが、後数十秒遅ければ引かれていただろう。
バフが掛かっていないパラメータには白黒の効果が掛からないのが難点だな。
「スイッチだ!」
「ま、任せな!」
ぱっと見では優に100を超えている魔物の集団を見て不知火は声を震わせている。
VIT的には巻き込まれても直ぐには死ぬことは無いと思うが、あの数を相手にするとなれば精神的にきついのだろう。
それにあれだけ魔物がいても引き付けられるのは多くても数十体で、その殆どが不知火を抜けて私たちに攻撃を仕掛けてくるのは間違いない。
まあ、それをさせないためにもロードがいる。
「【五芒星に描かれし紋様は酷く華やかなれどその身を蝕むは自然の摂理 舞い、踊り、歌い、鳴き散らせ ならば我は汝らに慈悲を与えん 序として禍の種が蒔かれ 破として転じて芽を生やす 急として芽は蕾に変わり 終ぞ花は咲き誇る しかして時刻みて花は枯れ落ち 終焉への道を開くだろう〈クインテットテットダブルマジック サークル・ストーム五属〉】」
一刀の声が聞こえてから直ぐに詠唱を開始していたロードの周囲には色とりどりの魔力が渦巻いて見える。それから詠唱が中盤に差し掛かった所で私たちの前方に10の魔術陣が構築された。
そして、一刀が戻り、魔物たちが五芒星を描くように展開された魔術陣の範囲内に侵入した時、魔術が行使される。
それは目の前の景色を一瞬にして塗り替える程強力な魔術であり、雷に風、水に土に無属性の領域を侵した魔物たちのHPを瞬く間に削り出した。
だが、それだけでは終わらない。魔物たちがサークルの魔術を身に受けている間に5属性の竜巻が生まれ、正面への道を開けるように側方を囲ってしまう。
ストームはその性質上、行使すれば行使された箇所から前方に真っ直ぐ進む。
これにより魔物たちはサークル内にいるだけでHPを削られ、後方に撤退しようとしても後続の魔物に押され、側方に逃げようとしても各属性のストームがその道を塞ぐ。
故に誘導された魔物たちは屍を築きながらただただ正面の出口を目指す。
それが例え罠だと分かっていようが、それしか道が残っていないのだから。
先頭の魔物がサークルの魔術範囲内から抜け出した。
そいつはウルフ系統の魔物であり、他にも移動速度が速い魔物たちが後に続いている。中にはヴェントウルフのような魔導を行使する魔物の姿も多く見受けられる。
しかし、どれも例外無くHPが削られていて後一度でも攻撃を受ければ死んでしまうような魔物がいた。
そう、いたのだ。いるではなく、いた。つまり、今この瞬間を以ってHP残量が僅かだった魔物たちは、一瞬にして黒い靄を撒き散らして消えていった。たった今、不知火の真横を通った一条の矢によって。
前に披露した雷属性付与の風属性版と言った所か。
聖が射った矢は鎌鼬を纏っていた。それも触れたものを細切れにしてしまうような鎌鼬だ。
そんな矢が触れるものを切り刻んで進むのだから瀕死だった魔物はひとたまりもなかったはずだ。と言うか矢の攻撃を喰らった殆どの魔物が死んだ。その中にはまだHPは目に見えて残っているやつもいた。
ただ、それも仕方ない事なのかも知れない。何せ、今の攻撃で聖のMPが半分以上減っているのだから。
オリジナルスキル特性上MP消費が多いほど効果は強大になるのは周知の事実だが、いきなりMPを半分も消費するバカがいるとは思わなかった。
ここは一つ文句でも言ってやりたいところだが一応は戦闘中なので説教は後にしよう。ただ、この現状を見て聖は満足気と言うのがたちが悪い。
「【残響する言霊 不動の如き古塔 刹那に過ぎ去る雷光 永劫に凍える樹氷 虚空に写る屍 聳える壁は高く厳かで地へ誘う鉄槌は狂気を顕現する 愚者よ 今 己が運命を怨むがいい〈クインテットダブルマジック ウォール・ピーラー五属〉】」
サークルとストームの魔術を行使した直ぐ後から始めていたロードの詠唱が、聖により多数の魔物を屠った瞬間を見計らうかのように終わる。
そして、5属性の壁が聳えるように生まれ、柱が上空から地上の魔物を圧死させるように落下した。
「戦争だぜ!!」
「俺は不知火と組む」
「それでは吾輩はレオ殿と」
「了解。聖は対空で頼む」
今までの攻撃でざっと5、60体は倒せたと思われる。だが、最初にいたのが100体程だとすれば残りは40体程度となる。
ロードと聖のおかげで大半の魔物を倒すことが出来たが、残りが40体以上ともなれば不知火が全てのヘイトを取るなどほぼ不可能だ。なので、今からの戦闘は乱戦になるだろう。
だから、ロードも障害物となる壁と柱を生み出したのだ。
今からが本当の戦闘と言うことになる。
しかし、全員のステータスが白黒によって上昇されている状態では、戦闘ではなく殲滅と言った方がしっくりくる。
本当に可哀そうなことにステータスだけ見れば適正レベルを圧倒的に超えているのだ。
「雑魚すぎるぜ!!」
ああ、ほら。アーツを使っていないレオの攻撃で一撃だ。
本来だったら首を落としての即死判定はSTRが足りていないだろうに強引に上昇させたこともあり、触れるだけでポンポン魔物たちの首が跳んでいる。
このまま行けば私の下まで魔物が来ること無く終わりそうだ。
例え、空を飛ぶマギオウルなどが私を攻撃対象にしようとしても、その前に聖とロードによって撃ち落とされて私に触れることすらままならないのだから。




