パーティ VS アーマーボア その2
戦闘が始まってから10分ほど。これで何十回目か分からないアーマーボアの攻撃を受けた不知火が蹈鞴を踏みながら突撃を防いだ。だが、追撃と言わんばかりにヤツが首を振るうと牙が盾にぶつかり、不知火は完全に体勢を崩して仰向けに倒れ込む。
そこをアーマーボアが踏みつぶそうとするがレオが前に出て大剣を振るうことで対処する。アーツによるエフェクトを出しながら振られた大剣はアーマーボアの前足とぶつかりヤツの足を弾き返した。
「よっしゃ!! 俺はもう慣れたぜ!!」
戦闘が始まった直後は簡単に力負けしていたレオだったが今ではタイミングを掴んだようでヤツが足を下ろすより速く剣を振るいアーマーボアの攻撃を無効化することを覚えたようだ。さらにヤツが纏っている鎧を効率よく破壊して無難にダメージを与えることに成功している。
いつもなら脳筋スタイルでただ単に剣を振るうことしかしないはずなのだが時間も時間だしキャラがぶれ始めたな。まあ、そんなことは置いといて立ち上がった不知火にハイヒールを掛け、ついでにエンチャント・マナスティールをレオに掛けておく。
バフについては切れないように毎回更新しているが困ったことに私のMPは常時半減しており、直ぐにMP不足に陥ってしまう。なので、MP回復ポーション一を飲んで対処しているがそれだとポーション酔いが起こるのでレオや一刀にMP回収をさせてそれをマナコンバージョンで吸収している。
だが、私以外にロードもMPを使うし、聖だってオリジナルスキルを使えばMPを消費する。そのおかげで多忙なMP管理に追われることになってしまった。これが一人ならよかったのだが通常の6倍もの速度でMPを消費するので疲労困憊だ。
「これで残り半分ですぞ。回復役がいなければ流石にきつくなりますな。ここからが適正エリアといったところでしょうかね」
「そうだろうね。ゼロを除けば僕たちの平均レベルは45くらいだし、これからはごり押しは通じなくなってくるだろうね。たまにゼロみたいなおかしい奴がいるけどさ」
「そんな目で見るな。確かにかなりハードな事をしたかもしれないがそれは必要なことだから問題ない。そんなことよりもお前たちはあれに参加しなくていいのか?」
そう言ってアーマーボアの方を見ればレオと不知火がヤツと戦っている最中だった。元からアーマーボアとは戦闘をしているがこの場合の戦いとは、レオは攻撃でヤツのHPを大きく削ること、不知火はヤツの攻撃を完全に防ぎきることだ。
レオは既に目標を達成できたようで軽々と大剣を操りながらアーマーボアの魔導で作られた鎧を砕き肉体に対して直接攻撃することが出来ている。そのおかげもあり、アーマーボアのHPはさきほど5割を切った。
それに対して不知火は未だに攻撃を完全に捌くことには成功していない。普通はフロアボスの攻撃を完璧に捌こうなどと思はないのだが盾職に誇りを持っている不知火は一度でもいいからパリィをどうにか成功させたいようだ。
不知火なら一度感覚を掴んでしまえばその後はダメージ無しで完膚できる実力があるのでパリィに成功した後のアーマーボアには黙祷を送っておこう。
「僕はいいよ。下手に手を出したらタゲがこっちに移りそうで怖いからね」
「吾輩も同じくですな。まあ、吾輩の場合は対人戦が分野なので対魔物は余り興味がないというのが本音ですが」
聖たちはそこまで興味がないようだ。人によってやりたいことが違うので私がとやかく言う必要はないし、私も何か言われたいわけではないのでこれ以上の言及はいいだろう。それよりも徐々に不知火がアーマーボアの攻撃に適応し始めたようだ。
牙による攻撃は正確に弾いているので残るは突進攻撃だな。だが、あれを完璧に防ぐのは難しいのではないだろうか。私も術理という技を使って防いだわけだし、単純な力勝負だったら勝てる見込みは無しに等しい。
それでもゲームである限り攻撃を無効化することは出来る。それはコンマ数秒以下の世界で非常に狭き門だが相手の攻撃に合わせてタイミング良くガードすることで攻撃を完全に無効化するパリィと呼ばれるテクニックを使えば例えフロアボスの攻撃だろうが無効化することが出来るわけだ。
「ッ!! まだまだ。バイタルアップ」
だが、そう簡単には成功しない。アーマーボアの突撃を喰らって不知火が大きく後退した。先ほどまでは蹈鞴を踏む程度で済んでいたが防御のタイミングを変えたのが原因だろう。それにより盾のど真ん中にアーマーボアが衝突した。
吹き飛んだ不知火を回復させながらアーマーボアを見れば不知火を無視して再度エリアの端まで走って行ってしまった。下手したらレオたちに向かって行くかもしれないと危惧していたがそれについては対策済みのようだな。
不知火が常に発動しているハイヘイトアップのおかげでアーマーボアのヘイトは不知火にしか向いていない。これが少しでも他に移ると次にヘイトが高いだろうレオに向かって行き、レオに突撃すればレオに対するヘイト値が下がり、一刀らへんに攻撃対象が移り、と面倒になるのが目に見えている。
ここで手を出せば折角不知火が調整したヘイト管理に穴ができるだろうし、あいつが満足するまでは付き合うか。だが、今のアーマーボアの攻撃に対応できたとしてもHPが減って怒り状態に移行すればモーションが変わるが大丈夫なのだろうか。




