大地の塔 その29
硬魔がヴェントウルフに叩きつけられる直前、空気が爆ぜる音が鳴り私の間合いから一瞬にしてヤツが消える。
それを追うようにして気配察知でヤツを探ればヤツは後方に退避していた。
どうやら圧縮風を使って攻撃を避けたようだ。
あの速さは魔の森でさんざん戦ったウッドアニマルを思い出させられる。だが、ヴェントウルフの方は圧縮風が3つしかないので完全に下位互換だろう。
まあ、ウッドアニマルと違って魔導による攻撃は行われるが。
ヴェントウルフ以外の魔物が私とヤツの戦いを邪魔してくるので軽く往なし、脳を砕きながら蹴散らせばヤツが魔導で魔物たちの援護を開始する。
風の槍に球、そして剣などが飛来して私にダメージを与えようとしてくるが、これらはMPを多めに消費すればリフレクトで無効化できるので無視し、硬魔を外してアブソープを手に纏う。
それから、ファングウルフなどからMPを回収するとともに敵の数を減らしていく。
今回は何時もより魔物の数が多いため一息つく暇もないが毎回100体以上の魔物と戦っていれば、もう100体増えたところで大した脅威ではない。
何せ、一度に攻撃できる魔物の数は大して変わらないからだ。ただ単に全ての魔物を倒すのに時間が掛かると言うだけの話だ。
攻之術理 廻脚
ラッシュボアの突撃を避け、その反動で腰を捻りラッシュボアに対して回転蹴りを喰らわし、そのままヴェントウルフに向かって攻撃を繰り出す。
ヤツは魔導で何とか私を迎撃しようとするが私がそれをリフレクトや回避などで無効化し、震撃を繰り出せばヤツは最後の圧縮風を使って回避した。
「ちょこまか、ちょこまかと面倒くさいな。だが、これでお前にはもう私の攻撃を避ける手段はないだろ?」
攻歩之術理 縮地横断
三つの圧縮風を使い切ったヴェントウルフなど魔導が使えるファングウルフに他ならない。
縮地で空いた距離を詰め、魔力を右手に纏い横一文字に手刀を振るう。
圧縮風を使い切ったヤツは避けるにしても後退などできるはずもなく、確実に間合いに入ったヤツは横に避ける手段を取ったとしても無傷でいられることは出来ない。
予想通りヤツは横に回避する形で私の攻撃を避けようとした。
だが、反応が遅い。私の手刀は避けるために首を曲げたヤツの前足を切断した。
本当は首を落とすつもりだったが狙いが外れた。だが、これでヤツの機動力はなくなったことだろう。ついでにその息の根も止めてもらうのだがな。
攻之術理 震撃
片足を落とされたヴェントウルフは為す術もなく私の拳を胴体に喰らいその命を散らす。
魔導が使えないのなら放置でもよかったのだが、こいつの場合は風属性の魔導を行使できるので流石に放置はできなかった。
「さてと、次だ。」
次の敵を探すまでもなく自ら突っ込んでくる魔物たちを時に叩き潰し、時に魔術の行使で倒していけば次第にその数も減り残りは遂に50体程度になった。
殆どがマギオウルで構成されている残党たちは大半の仲間が死んだと言うのに逃げる様子も見せず私に攻撃しようと向かってくる。
毎度の如く処理できていないマギオウルの魔導が鬱陶しくてしょうがないが、もう少し地上の魔物を処理してから対処したい。下手に手を出すと地上に降り立つ場所がないなんてこともあり得るからだ。
一度その経験があるがあれは酷かった。
私が地上に降りようとする度に魔物たちも移動を始め、降り立つ場所が無くなる程に地上を魔物が覆うのだ。
対処法は今のところ強引に降り立つか、魔物が来ないうちに遠い場所に降り立つかの二択だ。結果として戦闘終了までに掛かる時間が増えてしまうので、マギオウルの処理は後回しになった。
やつらの魔導は完全に見切ったと言うより慣れたのでそうそう当たることはないだろうし、なんだかんだ後回しにしてしまう方が楽なのだ。
マギオウルも既に何百と言う数を倒してきたので慣れるのも当然かもしれない。
まあ、他の魔物もマギオウル同様に軽く400体以上は屠って来たので行動パターンを熟知していると言っても過言ではない。
攻之術理 三日月
戦闘に余裕が出てきたので未完成の術理である三日月を使い術の精度を高めることにした。
硬魔に魔力を纏わせ、それを一閃すると伴に魔力の刃を同時に飛ばすこの術理だが、大した威力を出せないことが問題として挙げられる。
今回も魔刃がマギオウル目掛け飛んで行ったが威力が足りていない。
それでも白黒のおかげかヤツのHPを1割ほど削ることには成功している。
だが、この状態で一割は少なすぎる。射出速度は申し分ないのだがどうしても威力が出ない。この問題さえ解決すれば対空でも有利に立てるのだが。
5度ほど三日月を使っているとかなりMPが減少してきたので近くにいたラッシュボアを捕まえ、アブソープによりMPを奪いながら三日月の調整を行う。すると事前に設定していたアラームが鳴り始めた。
どうやら一刀たちとの集合まで残り20分を切ってしまったようだ。
もう少し調整を行っていたかったが、一刀たちと会う前にやっておきたいことがあるのでここからは殲滅戦だ。
私の鍛錬に付き合ってもらった魔物たちには悪いがここで退場してもらおう。




