大地の塔 その27
ダンジョンを潜ること約2時間。攻略は53階層まで進んでいる。だが、そろそろ一刀たちとの約束の時間が近づいてきているのでこの階層が終われば帰還石を使って街まで戻る予定だ。なので、この階層に居られるのも精々1時間程度と言うことになる。いつもは10分ほど森の中を走り、集まった魔物で戦闘を回しているが最後は思いっきり魔物を集めてから戦闘をしていこうかと思う。ちょうど種族レベルもあと一レベルで切りよく上昇するしな。
このダンジョンは街の外に比べて魔物の数が段違いに多いのでこういう金策の際には困らないが、ただダンジョンを攻略するとしたら毎度戦闘を挟まなければいけなくなり時間が掛かることだろう。私一人ならば対処できるだろうがパーティを組むとなると戦場をコントロールしなければ死に戻りが多発するだろうし、私のMPではすぐに枯渇するのが目に見えているので正攻法で攻略することになる。
普通に考えても正攻法で攻略するのが正しい判断だろうが1階層あたりの攻略に掛かる時間を考えてみると51階層以降はどんなに速くても1階層一時間は掛かることになると思われる。なので、休憩を挟んだとしても10階層攻略するのに12時間ほどだろうか。今回の攻略で一刀たちと40階層のアーマーボアを倒せたとしても70階層まで残り30階層。どう考えても転移石は必要になりそうだ。金策に動いて良かった。時間が余れば次の階層を攻略してもいいわけだし、60階層あたりでパーティメンバーのレベリングをしたら70階層のフロアボスに挑戦だな。
ちなみに70階層のフロアボスはトレントンキングと言う名の魔物らしい。是非とも新しい武器作成のために乱獲したいところだがフロアボスなので敷居が高い。こんな時こそ転移石を使って乱獲するべきだが一回100万バースのボスって割に合わないこと間違いなしだ。そんなことを考えながら森の中を走り周って魔物を集めているわけだが私の後ろが大変なことになっている。
早々に〈白黒〉を最大まで高めることに成功したから逃げることなど容易いがバフが無かったら追いつかれてミンチにされること間違いなしだ。それに、これがまだ10分程度しか経っていないというのだから驚きだ。
それにチラっと見えてしまったのだが明らかにファングウルフの上位個体がいた。狼と言えば風属性だよな。自身の周りに風の球体らしきものを付随させている。なかなか中二心を分かっているではないか運営陣。だが、外見なんて今はどうでもいい。ヤツのドロップアイテムが何なのかが気になる。ヤツだけはこの魔物の群れからはぐれないように私がしっかりと見守ってやろうではないか。そして後10分ほどしたら直ぐに私が相手をしてやろう。死に戻るつもりはないが先に倒しておく分には問題にならないからな。
それに今は導魔がないのである意味私がハンデを背負っている状態だ。まあ、硬魔でもやろうと思えば虚刀を発動させることは出来るが元々の性質上、少しばかりMP消費量が増える。さらに導魔とは違い大した距離、刀身を伸ばすことは叶わない。そのおかげで今回の攻略は空中にいるマギオウルに多少苦戦している。早く攻撃魔術が欲しい。これが今の切実な思いだ。こんなことになるのだったら少しは弓術について齧っておくべきだったな。人生とは何が起こるか分からないものだ。
「さてと、そろそろ始めても良さそうだ」
振り返ればそれはもう魔物の大群が私を追っている。まさしく百鬼夜行だ。こいつらに対してバカ正直に真正面から戦いを挑んでは流石の私とて足元を掬われかねないのでこういう場合はやつらの後方を取るのが戦術として有効だ。
そういうわけで前方に見えた樹を蹴り上げ空中に跳び、そこからシールドを使って今までとは逆方向に移動を開始する。眼下を魔物が通過していくのをしり目にやつらの最後尾に向かって移動するもマギオウルによる攻撃が邪魔だ。早速攻撃を仕掛けてきたマギオウルにはリフレクトを展開することで魔導を跳ね返し、その場を脱する。
私が地面に着地すると同時にやつらは私が今までの進行方向にいないと分かったようで最後尾だった魔物から次々とこちらに向かってくる。それに対して私は硬魔を右手、聖書を左手に持つ新スタイルで迎撃態勢を整える。常時風属性の魔導を放ってくるマギオウルに対しては過剰にMPを込めたリフレクトで攻撃を無効化しているが無秩序に放たれる魔導のおかげで私のMPがどんどん減らされている。
「MPが足りなくなるだろうが。少しは自重してもらいたいものだ......ホーリープリズン......ヘルオーラ」
出だしは順調。バフやデバフを除けば一番行使した回数が多いであろうホーリープリズンからのヘルオーラが炸裂する。眼前一帯を死の闇が埋め尽くし、足が遅いせいで最後尾になっていたスパイダー系統の魔物のHPをどんどん削っていく。さらにホーリープリズンで囲まれているおかげでやつらに逃げ道も存在しない。ついでと言わんばかりの聖書の装備スキルで範囲魔術の効果範囲が増加しており、通常よりも多く魔物を範囲内に捕えている。
ここまでハマればやつらが生き残るすべはないので後続の魔物を処理するために続いて魔術を発動させる。と言っても光魔術にはこれと言って必要なバフはないので残り時間が短くなったものを更新するだけに止めて本命のアブソープを行使する。こういった乱戦においてMPポーションを服用している暇はないのでこの魔術が私の命綱だ。MPさえあれば〈白黒〉は途切れることがないので継続戦闘において負けはない。




