VS アーマーボア その2
アーマーボアの攻撃を紙一重で躱し、すれ違いざまにバルネラブルを行使する。これで何回目だろうかと〈白黒〉の状況を見ると黒色の十字架が15個以上展開されていた。
そして、展開された魔術陣の上にいるアーマーボアを囲うように双角錐の膜が出現し、パリンとガラスが割れるのに似た音が鳴り双角錐が砕け散る。
「やっと入ったか。だが、今じゃない感が凄い。もっと早くバルネラブルが決まっていたらいろいろとやりようがあったがもう終盤なのだが」
バルネラブルが決まったのは良い乱数を引いたからと言うのもあるだろうが、ここでやっと私のINTがヤツのボス仕様のMNDを貫いたからだろう。本当だったら喜んでデバフをかけまくるのだが〈白黒〉もあと数回で最大になるし全部のデバフをかけるわけにはいかない。
だが、連続詠唱するならその問題も解決するかもしれない。アーマーボアが再度方向転換する前に〈白黒〉の状態を詳しくみる。すると今のバルネラブルで白の十字架、黒の十字架がそれぞれ17個であった。
「これならいけるか? 今のINTならアーマーボアの攻撃も6,7回は防げるはずだし......やるか。
【光が我を包み闇が対者を蝕む〈連続詠唱 光牢闇霧〉】」
アーマーボアが走り出す前に連続詠唱でホーリープリズンとヘルオーラを行使する。この二つのアーツは相性が良くホーリープリズンで拘束したところをヘルオーラでダメージを与えるコンボが使える。
そして、今の状態でもその例に漏れず光の牢獄に捕らわれ、漆黒の闇がアーマーボアのHPを蝕んでいく。ヤツも早く檻から抜け出そうともがいているがINTが上昇した状態で行使されたホーリープリズンは強固で一撃、二撃と攻撃を繰り返すもビクともしていない。
「さてと、これで終わりだ。
【聖光が我らを照らし冥府が仇を呼びつける 極楽浄土 魑魅魍魎 天門に上りて獄門を睥睨す〈連続詠唱 六種白黒〉】」
光魔術にはエンチャント・レッドアップ、ハイエンチャント・レッドアップ、エンチャント・ブラウンアップをかけバフの効果を更新する。そして闇魔術はエンチャント・ブラウンダウン、ハイエンチャント・ブラウンダウン、エンチャント・レッドダウンの3種類を行使する。
しかし、行使した闇魔術の内2つがレジストされ最終的にVITを減少させるエンチャント・ブラウンダウンだけしか効果を発揮しなかった。バルネラブルによって状態異常の耐性が低下しているのにこれなのだ。元の耐性の高さが窺える。
だが、効果を発揮したのがエンチャント・ブラウンダウンでよかった。物理攻撃が効きづらいと一刀からの情報に書いてあったから素の防御力も高いことが想定できる。対抗策として震撃を使って攻撃する予定なのでVITはできるだけ削いでおくに越したことはないからな。
だが、震撃を使うにもヤツの動きを止めないといけない。これも多分問題ないができるならエンチャント・レッドダウンでSTRを下げておきたかった。デバフが入らなかったから言ってもしょうがないが。
〈白黒〉の効果が最大限まで上昇したところでアーマーボアを拘束していたホーリープリズンが破壊された。それと同時にヘルオーラの効果時間も終了したようで魔術陣が消滅していた。だが、ヘルオーラは十分なダメージを与えてくれたようだ。見ればアーマーボアのHPを2割削っている。
もしかしなくてもヘルオーラだけでヤツを倒せてしまうがそれでは鍛錬にならないのでもちろん近接戦で仕留めるつもりだ。
気を引き締めて構えればアーマーボアがまた突撃してきた。この攻撃も何十回と毎度毎度考えなしに突進してくるものだから今では完全に回避するタイミングを掴んでしまった。なので、この攻撃を躱すことも容易い。だが、今回は避けるのではなく完全に突進を受け止めるつもりだ。
20メートル......10メートル......5メートル......3メートルと私との距離がどんどん詰められる。距離が近くなるにつれアーマーボアの突進速度も上昇し、その勢いは衰えることはない。
そして、アーマーボアとの距離が1メートルを切り、ついにヤツと私が衝突する。
守之術理 流衝
突進してくるアーマーボアの鼻に両手をつけ、その攻撃を一身に受ける。突撃しながらも上から圧し潰す攻撃を受け止めれば地面に叩きつけられるのが当たり前だ。だが、流衝は身体制御により衝撃を往なし、地面に衝撃を逃がす守之術理であり、上段からの攻撃にはめっぽう強いと言うまさにこのシチュエーションに合致した術理だ。
故にアーマーボアの攻撃による衝撃もすべて地面に逃がし私へのダメージは一切ない。もちろん〈万象夢幻〉も発動していなかったから完全にアーマーボアの攻撃を無効化したと言うことだ。だが、往なされた衝撃は私の身体を伝い全て地面に流れたため、私が立っている地面は陥没し罅割れている。
そして、アーマーボアはと言えば私を吹き飛ばすつもりが完全に足を止められてしまい何が何だか分かっていない状況に陥っている。それもそうだろう。何度も何度も避けられた攻撃がついに命中したと思ったら相手は全くの無傷である。唖然としても仕方がない。
しかし、私が止まっていては折角作った隙が無駄になるのですぐさま行動に移す。移動する先はスキル〈鎧砕きⅡ〉によって弱点とだと表示されているアーマーボアの腹の下だ。




