VS ゴブリンキング その6
タンっと音を鳴らしながら地面より少し高い位置に水平に移動させたシールドを蹴る。この時に角度を調整することでゴブリンジェネラルの上を跳ぶようにするのが大事だ。
シールドを足場にし、空へ跳ぶ。しかし〈白黒〉の強化が私の想像の上を行きゴブリンジェネラルの頭上のかなり上まで跳んでしまった。
だったらこれを利用するまで。
空中で身体を制御し、重力にしたがい頭から落ちるように落下する。高いと言って何十メートルと言う高さを跳んではいないのだから数秒後には地面にぶつかるだろう。
膝を曲げ足の裏にシールドを移動させる。そこからシールドを蹴ることで重力の力に加えてさらに私自身の加速度も付与する。さっきとは比べ物にならない速度と重力加速度が私を襲うがそれに対抗するように身体を反転させながら落下する。
攻之術理 砕骨
落下の勢いを一点に集中させ、地面にうつ伏せになりながら寝ているゴブリンジェネラルの頭目掛けてかかと落としを喰らわせる。ゴブリンジェネラルの頭にかかとが触れた感触がした後すぐにグシャと言う音が鳴り、その後地面が陥没するのでは? と思わせるほどの轟音が鳴り響く。
そっと地面に目を向ければ大きくクモの巣状に罅が入った地面、そこを濡らす黒色の液体とゴブリンジェネラルの肉片。これで本当に永い眠りについたな、と冗談を口に出しながら今の身体能力に軽く恐怖を覚える。
あの速さで、かつかかとだけで地面にぶつかっておきながらよくもまあ、ダメージ一つ負わずにいれたものだと改めてオリジナルスキルの出鱈目さを思い知った。〈白黒〉があれば70階層のフロアボスも意外と簡単に倒せるかもしれない。まあ、そいつの攻撃を全て躱し続けられたらの話だが。
おっと、70階層はまだ先の話だから今は戦闘に集中しなければ。と言ってもこの悲惨な現状を見るにこの戦いもすぐに決着が着くだろう。
歩之術理 縮地
罅割れた地面の中心から抜け出し、ゴブリンクイーンの目の前まで移動するために力強く地面を蹴る。重心の移動と地面を蹴るタイミングを合わせることで普通に走るよりも速く初動を取ることができる。
そして、縮地によりゴブリンクイーンとの距離をたった一歩で詰めてしまった。ゴブリンクイーンは流石に一歩だけで近づいてくるとは思ってもいなかっただろうし、私も一歩で今の距離を詰められるとは思っていなかったが、とりあえず導魔を横一文字に振るう。
最初のゴブリンジェネラルと全く同じ、空気を切るかのような感触を味わいながら地面に落ちて転がるゴブリンクイーンの首を見つめる。
それにしてもさっきよりも攻撃速度が速くなっている。さらに言えば術理を意識していたわけではないのに今回の方が絶対に美しかったぞ。
非常に遺憾だがさっきまでは急激に上昇したステータスを十全に発揮できていなかったと言うことだろう。
バフがかかっていることを認識し、その強化された身体を自由に使いこなせなければ常識の範囲内でしか強化されないと護とパーティーを組んでいるときに実感していたのにこのざまか。
もしかしたら今も〈白黒〉によるパラメータに強化の恩恵を完全に使いこなせていないのではないだろうか。よく考えれば実際に500LVあったとしたらこの戦闘も一歩も動かないで勝負を決めることができそうだ。
まあ、今の感覚からしてそれはできそうにないがな。だが、せっかくの超強化を完全に使いこなせていなのではオリジナルスキルとして創った意味がない気がするし、適応できるように今日からこの状態で戦闘をするとしよう。
絶対にどんな魔物も一撃で沈んで行くだろうがあの忌まわしき25階層の時のような一種のモンスターハウスに入れば質は悪いが量は確保できるからそこで鍛錬だな。
だが、やるならドロップアイテムが大量に出るだろうし、売ることを考えたらもっと上の階で始めた方が金になりそうだ。
これからの予定を決めたところで最後まで残ったゴブリンキングたちを見る。ゴブリンキングは最初の威勢などすでになくなった顔をしているがゴブリンパラディンだけは戦意を失わず、王を守るために盾を構えている。
その様子を見ながらどうやって倒そうか考えるが、ここでヘルオーラを使って倒すのではもったいないと思い、ゴブリンキングたちの行動を拘束しているホーリープリズンを解除する。
光の柱でできた牢獄が消失したことに安堵するゴブリンキングとさらに警戒を強めるゴブリンパラディンが印象的だがそんなことはどうでもいいと頭を振りかぶり、構えを取ると同時に地面を蹴る。
また、一段と速くなったことを感じながら、またも一歩でゴブリンパラディンの目の前まで移動していた。
上手く使いこなせていないと苦虫をかみつぶしたような顔になるが鍛錬は始まったばかりだと考えなおし、盾を構えて攻撃を防ごうとしているゴブリンパラディンの大盾の中点目掛け拳を突き出す。
攻之術理 震撃
勢いよく突き出された拳が大盾に触れる。しかし、音は鳴らず辺りは風音一つならない空間が生まれる。怪訝に思いながらも私の攻撃を防ぎきったとゴブリンパラディンの顔に笑みが浮かぶ。
だが、一拍。拳が大盾に触れてから一拍置いて目の前で地響きを起こしながら目の前のゴブリンパラディンが黒い花火を咲かせた。
盾を伝い、ヤツの内側で小規模な破裂を起こさせる術理が余りにも桁違いの威力を発揮してしまったのだ。流石にこれでは術理の意味をなさなくなると、すぐにでも鍛錬を始めることを心に誓った。
このままいけば脳筋になってしまう恐怖を覚えながらも結局今の光景を見て腰を抜かしてしまったゴブリンキングにも震撃を放ち、同じように汚い花火を咲かせてしまった。
……早く鍛錬始めよ。




