大地の塔 その17
消防隊とはいつもこのような危険に身を投じているのか。恐ろしくて足がすくみそうになるがどうにか抑える。
やつらが発動した魔導は赤色の魔導陣だったこともあり行使されたのもファイヤーストームである。漢字で書くなら火災旋風だ。
そんなものに今から飛び込もうと言うのだからそれはもう足が笑っている。保険もあるしダメージはないはずだが大丈夫だよな? いや、大丈夫なはずだ。きっと......多分安全だ。
そんなことを考えている間に火災旋風は私との距離をさらに近づけてくる。近づくほどに火の粉が散り、その熱がひしひしと私の肌を焦がす。......これ、本当に大丈夫なのか?
「やばいな。どんどん不安になって来た」
この世界に来てから魔物はもちろん対人戦も行ってきたが流石に自然現象に似た事象を相手取るのは初めてだ。
あー、やばい。火災旋風との距離が10メートルを切ってしまった。
「仕方ない。腹をくくろう」
導魔を腰に差し飛来する攻撃を全て躱す。それから攻撃の密度が下がった時に一気に駆けだす。手に握るのは硬魔。魔力を滾らせ、全身そして硬魔に魔力を纏わせる。
10メートル級の火災旋風に刀一本で挑む私。片や仲間を飲み込みながらもその殲滅力は一切落ちないファイヤーストーム。
ついに両者がぶつかる。火災旋風と言えど自然現象を模した魔導であり、近づいても直撃しない限りダメージはない。ただし熱は伝わるようで装備の上からでもジリジリと肌を焦がす熱波が伝わってくる。
火災旋風に近づいた瞬間に最上段で構えていた硬魔を力の限り振り下ろす。そして複数体で行使されたファイヤーストームに魔力の強度のようなもので勝ち、ファイヤーストームをかき消す。いや、違うな。かき消すと言う言い方は正しくない。大爆発だ。
硬魔により斬り裂かれたファイヤーストームは完全に分裂した後に大爆発を引き起こしたのだ。導魔で斬れば爆発など起こらず斬られて後に消失するのだが硬魔で迎撃すると消失など起こらずその攻撃自体を強引に破壊する結果となる。
これが土の矢とかだった場合粉砕された土が飛び散り、水属性なら水が飛び散る。そしてこの火属性の攻撃こそが今まで待っていた攻撃だ。
火属性の攻撃を硬魔で迎撃した場合に起こるこの爆発は周囲に火をまき散らし、迎撃箇所を起点に火のカーテンのようなものを作り視界を遮断する。
今までは姿を隠そうにもゴブリンに全方位から見られており姿をくらますことなどできなかった。しかし、全てのゴブリンの視界がふさがっている今ならば姿を消すことができる。
やつらがこちらのことを探している最中、私はゴブリンの気配を読み自身の気配を希薄にする。
歩之術理 影潜
火も収まり周囲を見回せるほどにクリアになった時にはそこに私の姿がなくゴブリンたちは自分たちが勝ったと確信し、雄叫びを上げる。そして私はゴブリンたちの視覚から消えるように広間の端まで移動していた。
戦闘終了のアナウンスが流れていないがこのまま50メートルほど離れれば逃げ切れたと判定され戦闘終了になることだろう。
だが、そうと分かっていてこの戦いから逃げるだろうか。否、全くもって否だ。有言実行、男に二言はなし。勝利の美酒に酔いしれているあのゴブリンたちを今度は絶望に貶めてやる。
この戦線からの離脱も正面から挑んではじり貧だと感じたからであり、完全に油断しきっている今、遅延の種となるゴブリンリーダーを全て奇襲で倒してしまえば勝利は揺るぎないものとなる。
まあ、もともと時間をかければ確実に勝てる戦闘だったのだ。今更負ける要素はないので精々全滅するまでの短い時間生を実感して欲しいものだ。ついでにゴブリンリーダーは嘲笑ったことを後悔して逝ってもらいたい。地味に笑われたことを根に持っている私なのであった。
さて、おふざけはこの辺にして広間の端を、音を立てずに移動することでゴブリンリーダーたちの背後を取ることに成功した。この後は連続で8体のゴブリンリーダーを処理していくわけなのだが、もう少し移動してやつらが直線状に並ぶように私の場所を調整する。
調整が終われば後は一直線に駆け出し全てのゴブリンリーダーを討伐するのみだがここは確実性を上げるためにデバフでやつらの身を拘束することにした。
せっかく姿を隠しているので八種連続で魔術を行使する練習をしたいところだがロードのような才能は私にはないことは分りきっているので七種で発動する。
七種連続で行使するのは難易度が高くそうそう真似できないと知っているのだが身近にそれを簡単にやってのける奴がいるとそいつが基準になってしまう。いずれは八種と言わず十種も難なく発動できるようにしておきたいところだ。
「【我 魂を清め穢す者 我が領域を侵す愚者には呪言を囁き我が親睦なる者には祝福を授ける 生死流転の権は我が手にあり〈連続詠唱 七種白黒〉】」
詠唱と共に魔術陣が複数構築され、詠唱が終わると共に全ての魔術が行使される。切れかかっていたパラメータ上昇系のバフを二つかけ、最奥のゴブリンリーダーはホーリープリズンで拘束。それから、奥から順に対象の行動を制限するパラライズなどのデバフを四種かけていく。
しかし、そのうちの一つはレジストされてしまった。その光景を魔術の発動と同時に走り出していた私は捉え、さらに加速するため地面を強く蹴る。




