VS ゴブリンジェネラル その1
〈ボスエリアに侵入しました。戦闘を開始します〉
魔法陣で跳ばされた瞬間、戦闘開始のアナウンスがなり、私たちの目の前約20メートルの所に一体のゴブリンが大剣を杖にし仁王立ちしていた。
それは今までのゴブリンとは姿形が全くと言っていいほどに似つかなかった。ゴブリンと聞いて思いつくのは子供ほどの背丈に醜い顔をした魔物だろう。
だが、このゴブリンジェネラルは背丈は私と同じくらいだろうか。それにまるで筋肉の鎧を纏っているかのように盛り上がった肉体。そして身長と同じくらいの刃幅を持つ大剣をまるで木の枝の如く扱うその腕力。
何もかもが普通のゴブリンとは異なるまさにゴブリンの中の将軍。群れを率い、集団の武の象徴である魔物が今回の対戦相手である。
「うわ、思ってたよりもデカいですね。でも、負ける気は一切ありませんけど。よっし、やりましょうかゼロさん。サポートは俺に任せてください」
本来なら神官職の私がサポートで召喚士の護が攻撃をするのが普通なのだがゴブリンに関しては私の方が戦闘経験があると言うことで今回は私が攻撃メインで動くことになっている。
「そうだな。では始めるとしよう......スタン」
右手を振り下ろしながら魔術陣を構築するとともにその場から動きゴブリンジェネラルに向かって走り出す。アーツの行使と共に動くことで発動待機中の硬直をキャンセルし、続いてシールドを選択し待機時間のカウントダウンを始める。
これはもしもの時の保険だ。未だ護には二つ目のオリジナルスキルを見せていないのでできるだけバレないように努力をしておいて損はないだろう。
シールドの待機時間のカウントが進む中、先ほど行使したアーツ スタンが発動する。この階層に転移してきた場所で行使されたスタンはその場に設置されている魔術陣から一条の電撃となり射出される。
そしてそれは高速で私を飛び越えるとここに転移する前に行使しておいたエクスペンションダブルの効果により二つに分裂し、ゴブリンジェネラルに突き刺さっていく。
フロアボスと言うこともありそれなりに状態異常に対して高い耐性を持っていると思い、数で押せないかと考えたわけだ。万全を期すのならばバルネラブルを使ってゴブリンジェネラルの状態異常への耐性を低下させる方が賢いのだがそこまでしてあいつの行動を制限したいというわけではないのであえて使わなかった。
スタンが決まってくれれば大体十秒ほどはアイツの行動を制限できるのでもはや勝ち確定なのだがどうなるのやら。ゴブリンジェネラルに突き刺さった二本の電撃は息を合わせたかのように同時に放電し始める。
そして一際激しく放電した後ゴブリンジェネラルは気を失ったかのように立ち眩み、立ったまま気絶する。
「マジかよ。本当に成功するとはな。護、一気に攻めるぞ!!......バーサーク!!」
「了解です!! クロウ、アンブはゼロさんと一緒に攻撃に参加!! ハイドはゴブリンジェネラルが気絶状態から回復した時に上空から奇襲できるように待機!! 俺も動きますよ。〈コネクティングセンス〉。ガルク、お前の目を貸してくれ」
期待はしていなかったがまさかスタンがレジストされずに入るとは思わなかった。いつもどちらでも構わない時はレジストされず必要な時にはレジストされるのだ。全くこれも物欲センサーなのかね。
それはさておきゴブリンジェネラルとの距離が残り5メートルを切った時シールドの後に行使したバーサクが発動し、そこから生み出された黒い虫が私の中に入っていく。
他人にかける分には問題ないが自分にかけるのは嫌だな。この虫みたいなのが体内に入ってくると悪感が走るのだ。だが、それ以上にこのアーツが強力なのでやめることなどできないのだがな。VITを半減させてSTRを上昇させるこれほどまでに強力なアーツがあっていいものか。特に私のプレースタイルからすればVIT半減などあってないようなものだしな。
ヤツを鑑定で覗けばスタンの解除まで残り6秒となっている。これだけ時間が残っていれば相当HPは削れることだろう。走りながら精神を統一させる。
残り2メートル。まだだ。まだ、私の間合いではない。前かがみになりながら腰に差してある導魔に手をかざす。
流れる景色と思考の中最善の一手を考える。私の後続に続くクロウたちのことを考えるならゴブリンジェネラルを吹き飛ばすような攻撃は連携が途絶える可能性があるため取れない。すると連携を続けるためにはゴブリンジェネラルをこの場で留めることが最善の手だ。
それなら使う技は決まった。狙うはヤツの足首だ。足首を切断してしまえばヤツはこれ以上動けなくなる。だが、問題もある。それは導魔でヤツの足首を切断しきれるかどうかだ。が、それは私の技量と想像力次第だな。
ゴブリンナイト程度なら切断することはできるがゴブリンジェネラルになると切断できたためしはない。と言うのも幾度となく魔の森でこいつと戦ったが切断できたと思っても半ばで食い止められたりとやけに硬いのだ。これはそんな無念を晴らすチャンスでもあるか。
さらに腰を落としゴブリンジェネラルへ近づき、そしてヤツが私の間合いに入る。思い描くは研ぎ澄まされた名刀の如き刀身。狙うは足首。
今、最速を以て刀が振るわれる。




