大地の塔 その9
「そいつがセイクリッドラビットか?」
「ええ、こいつはセイクリッドラビットのハーゼです。あともう1体セイクリッドラビットはいるんですけどとりあえずは様子見ということでハーゼだけを召喚しました」
召喚されたセイクリッドラビットはハイドと同じ手乗りサイズで普通にペットみたいだ。セイクリッドウルフと比べると攻撃力は期待できなさそうだがその分機動性は高そうだな。
護の考えとしては主戦力のセイクリッドウルフを減らしてでもゴブリンプリーストなどのバフ要員や遠距離要員の妨害を優先することにしたのだろう。
「パーティー変えも終わったことだし探索を始めるか。護、頼めるか?」
「任せてくださいよ。多少は広くなっているようですがハイドには行き先が見えているみたいですね。こっちです」
ハイドは優秀だ。私には光度の違いなどまったくもって分からないので案内してもらえるのは本当に助かる。この階層まで来るまでに大体5時間過ぎなので1階層を攻略するのに約30分ほどかかっている計算になるが、ハイドの案内が無ければあと2、3時間は追加で時間がかかっていたことだろう。
「かなりゴブリンが多いですよ。どの道から行っても確実に戦闘はおきますが大丈夫ですよね?」
出現する魔物が多くなってきているのはさっきの戦闘でも分かっているので問題ないと返答する。まだ、感知スキルの範囲には入っていないのでゴブリンの姿を捉えることはできないが所々にある横穴からはゴブリンの鳴き声のようなものが響いてくる。
今のところこのダンジョンで出会ったゴブリンはソードマン、ファイター、アーチャー、ナイト、ウィザード、プリースト、リーダーだ。
魔の森では他にも色々な種類のゴブリンがいたのでこのダンジョンでもまだまだ多くのゴブリンが出てくるに違いない。それによってゴブリンの群れの編成も変わってくるだろうし、敵に合わせた戦い方を練習するいい機会になる。
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私が行使したパラライズが二つに分裂し、紫電が二体のゴブリンを麻痺させる。そして、その隙を狙ってセイクリッドウルフが攻めに入ることでゴブリンを処理する。
しかし、周囲にはまだ多くのゴブリンがいるため書術のアーツ リリースを使う。すると私の左手にある聖書が独りでにめくられていき魔術陣が描かれたページを開く。その魔術陣に魔力が流れると同時にそれに呼応するように空中にも同じ魔術陣が出現する。
空中に出現した魔術陣は黒色であることから闇系統の魔術だと推測されるがその通り。私がパラライズとアーツ名を宣言すると魔術陣から再度紫電が飛び出す。そして、これまた書術のアーツ エクスペンションダブルにより紫電は二つに分かれ戦闘中のゴブリンに絡みつく。
圧倒的なレベル差の前では抵抗など無意味でありわずかな抵抗も見せる暇なくゴブリンは痙攣する。しかし、パラライズの効果時間は短くすぐに討伐しなければ戦線に復帰されてしまう。
だが、そのわずかな時間があれば十分であった。すぐにクロウとアンブが飛び出し一瞬でゴブリンを処理する。
あれから階層の中央に向かって進んでいるのだが5分歩けばゴブリンと戦闘になるほど奴らはどこにでもおり上手いこと距離を稼げていない。まあ、相手がゴブリンであるおかげで一回の戦闘にはそれほど時間がかかってはいないのが幸いか。
それにゴブリンとの戦闘が何度もあるおかげで私は書術のレベル上げをできているのだし文句はない。今までは常に〈白黒〉を途切れさせないように意識して戦闘を行っていたので書術は全くと言っていいほどレベルが上がっておらず聖魔術や邪魔術と比べたら大体35レベル分も差が開いてしまったのだ。
そういうわけでゴブリンとの戦闘ならば〈白黒〉を使うことはないので書術メインの戦闘を行っている。しかし、書術のアーツはかなり便利だ。流石に初期選択で神官には必須と言われるだけはあるな。
今私が使っているコンボが最初にエクスペンションダブルで次に発動するアーツの選択対象を二つにする。つまり本来一体にしか対象にできないパラライズの対象を二体にできるのだ。
そしてリリースと言うアーツを使いセットされているパラライズの待機時間を無視して発動させる。こうすることで魔力が続く限りかなりの速さで敵を行動不能にすることができる。
しかし、この戦法にも弱点があり、それがMP効率が悪いことだ。これだけ何度も書術のアーツを使っていてはオリジナルスキルによってMPの最大値が半減してる私にとってかなりのハンデとなってしまう。そのため、たまに私も前線に加わりアブソープでMPを回復しに行っている。
もちろん前衛として前で戦った方が早く敵を殲滅できるがそれは書術のレベル上げが目的なのでしない。
私が使ったアーツは〈書術〉のアーツなので〈書術Ⅱ〉で覚えられるアーツはどのようなものがあるのか気になる。〈書術Ⅱ〉には〈書術〉のアーツも内包されているので今のままでも十分戦えるのだがやはり上位のアーツを使ってみたくなるのはゲーマーの性なのだ。




