大地の塔 その8
導魔の剣先をゴブリンに向けパラライズを行使する。すると導魔の先端に魔術陣が出現し、ゴブリンに向かって紫電が飛ぶ。紫電はゴブリンに触れると一瞬で全身に広がり、すぐに行動不能になる。
そこに3体のウルフが集まり集中攻撃によりゴブリンのHPが全損する。その後3体のウルフは互いに連携を取りながら残りのゴブリンに向かって行く。
私もそれをサポートするようにバフと行動不能にさせるデバフを使う。銀樹刀は鉄芯の代わりにミスリル鋼を使っているのでそれが魔術媒体になっているらしく魔術の発動が可能になっている。
魔術を行使するのに毎回聖書に装備を変換しなくていいのは楽だ。次に武器を作るとしても戦いながら魔術を使えるようにしないといけないのでどうにかしてまたミスリルを集めたい。
鉱山の街で出会った鉱夫組合長のガロンがミスリルは王都に輸出していると言っていたので王都に行けば買うことはできるだろう。
あの時報酬として貰ったミスリルは希少級だったので王都で売られているミスリルもそれと同等かそれ以上の等級であることは間違いない。よって魔力伝導率が高い鉱石は確保できそうだ。
しかし、ミスリルだけだと硬度に心配が残るのでドガンさんに頼んで合金にしてもらう必要があるのだが、その時に使うアイテムも希少級の鉱石を使うことの方が好ましい。そうすると鉱山の街のゴーレムでは等級が足りないだろうし、王都にいい物が売っていないだろうか?
あわよくばこのダンジョン探索中に見つかってくれればいいのだがそんな簡単に上手くは進むわけがないか。それに今そのことを考えると物欲センサーが仕事をしそうなので今は戦闘に集中するか。
ウッドアニマルはデバフをことごとく避けるため一回も成功しなかったがゴブリンは避けようとしても効果範囲から逃れることができずデバフの判定を受ける。そして、レジストという概念が無いのかというほどに簡単にデバフが決まってしまう。
特にパラライズやスタンなどのデバフが決まった時の快感はなかなかのものだ。相手を為すがままに倒すと言うのは誰しもが一度は憧れることだからな。
奥の方ではハイドがゴブリンウィザードの攻撃を避けながら急降下によるひっかきや低空飛行による攻撃でゴブリンプリーストを翻弄している。しかも、ゴブリンプリーストが魔導を行使しようとした瞬間を狙ってハイドが行動しているのでゴブリンプリーストのHPは減る一方で、あと少しでそのHPも尽きてしまいそうだ。
こう見るとゴブリンプリーストが滑稽でしかない。後衛職が狙われればあれと同じ状況になるのは分かるが碌にゴブリンウィザードとも連携が取れていないし、ゴブリンプリースト自身もその場から全く動こうとしていない。
これを見ていると師匠が言っていることの意味が良く分かるな。いかに神官と言えど多少の戦闘はできなければすぐにやられてしまうと言うことか。
それが住民ならばなおさらだな。プレイヤーのように復活することはできないしすぐにやられる神官など足手まといでしかないのか。
そんなことを考えながらヘルオーラを行使する。ゴブリンプリーストを起点にゴブリンウィザードまでを範囲に含めた魔術陣が出現し、魔術陣から滲み出す黒い靄がゴブリンプリーストたちの足元に絡みつきかなりの速さでHPを削っていく。
ヘルオーラに限らずだが魔術は敵味方関係なしに効果を発揮するので本来なら範囲攻撃のこのアーツを使うのはよろしくないのだが設置型のこのアーツは対象が地面に接触しているものだけなので空を飛ぶことができるハイドには何ら影響を与えることはない。
ゴブリンウィザードは魔術陣が展開された時点でそこから退避しており受けたダメージは軽微であったが、ゴブリンプリーストはハイドにより移動すらもさせてもらえずに靄に呑まれて息絶えた。
そして、最後はゴブリンウィザードだけになったがそこにゴブリンの処理を終えたアンブたちも加わり、魔導を行使する間もなくHPを蒸発させた。
〈戦闘が終了しました〉
「お疲れ様です。ゴブリンプリーストが出現するようになりましたが危なげなく勝てましたね。問題はゴブリンプリーストが複数出現した時ですがその時はどうしますか?」
「そんなことはそうそう起こらないと思うがそうなったら私かクロウたちがゴブリンプリーストの処理を行えばいいだろう」
「了解です。それではそうしましょうか。それにしても11階層になってから急にしっかりとしたパーティー構成になってきましたね。今まではヒーラー役のゴブリンプリーストがいなかったからよかったですけどこれからは普通に出てきそうですし、少し召喚獣を変えた方が良いかもしれませんね」
召喚士の強みは敵に合わせてパーティーの構成を変えられるというところだな。護がセイクリッドウルフの内1体に手をかざすと地面に魔術陣が描かれ光となって徐々に体が薄れていくエフェクトと共に送還されていき魔術陣も消滅する。
それからすぐに魔術陣が再構築されて周囲の魔力を巻き込みながら1体の白い毛に覆われたふさふさの兎が魔術陣から現れる。




