大地の塔 その6
ゴブリンナイトの攻撃を避け、時には往なし攻撃をする。私が拳を突き出すたびに死体が増え、戦闘音がなくなり静まり返ると首が曲がってはいけない方向に曲がってしまったゴブリンナイトを手から離し投げ捨てる。
ドサッと音がして地面に放り投げられたゴブリンナイトはやがて黒い液体を体から染み出し迷宮に溶けていく。今のでゴブリンナイトは最後だ。
瞬く間に行われた虐殺という名の圧倒的な暴力を前に後方で事の成り行きを伺っていたゴブリンアーチャーたちは唖然とこちらを見ているが私がやつらに目を向けると急いで弓を構え始める。
歩之術理 縮地
近くにいたゴブリンナイトが迷宮に呑まれいなくなってしまったので前傾姿勢を取り、地面を踏み抜く勢いでその場から飛び出す。接近を許すまじと火の玉や矢といった遠距離攻撃が飛んでくるがメタモルフォーゼで銀樹刀に切り替え迎撃する。
ゴブリンアーチャーが放つ矢は〈硬魔〉で叩き落とし、ゴブリンウィザードが行使した火の玉や土の礫は〈導魔〉に魔力を纏わせかき消す。
戦っていて気づいたのだがどうやら魔導は同じ魔力を纏ったもので迎撃すると干渉し合い、より強い方の攻撃が通るみたいだ。これは魔術同士でも起こりうる事象だが見過ごしていた。
アルにかけてもらったマナコーティングとミスリル鋼による魔力伝達性のおかげで導魔は常に魔力を帯びているが、これが霊系の魔物以外にも効果があると知れたのはまさに棚から牡丹餅だな。
導魔を使えば相手の魔導も魔術も多少は斬り捨てることができるのは朗報だ。これと言って魔導を多く使う魔物に出会ったことはないが今までは避けるか、わずかに軌道をズラすことでしか対処する術がなかったのでそれ以外の対象法ができたのは〈白黒〉の制約や〈万象夢幻〉の効果が勝手に発動するリスクを押さえてくれる。
ちなみに硬魔でも試してみたが火の玉に触れた瞬間爆発して危うくダメージを食らいそうになった。やはり魔力を纏っていないとダメなようだ。導魔なら火の玉に当たった後、わずかに抵抗を感じ、その後火の玉はまるでそこには何もなかったかのように消失してしまう。
そういえば師匠と戦ったときも執着する光の軌道を素手で逸らしていたな。あれも無意識のうちに勝手に拳に魔力が纏わりついていたのかもしれない。
そんなことを考えながら手当たり次第にゴブリンたちを倒していく。ゴブリンナイトは反撃をしようともがいていたがこいつらは近づかれてしまえば何もできず、なすがままにその身を地に投じるのみであった。
「ゼロさん、第二波がきます」
護の呼びかけから数秒後、ウルフたちの雄たけびが鳴り響く。そして、通路の奥や横穴からまたさっきと同じほどのゴブリンたちがやってきた。
「これでこの先にいるゴブリンたちは最後です。ガルクたちも戦闘に参加させますね」
「了解」っと返答をしてバフをかけ直し、そして再びゴブリンに向かって走り出す。すぐにウルフたちとすれ違い目の前に血走ったゴブリンの大群と対面する。
片手には導魔を握っているのでさらに足に力を込め地面を蹴る。目と鼻の距離で加速した私はすぐさま片手を振り、袈裟斬りにゴブリンを切り裂く。
そして、そのまま横に一閃、近くにいたゴブリン数体を巻き込んで吹き飛ばす。さらに、そこから刀を横に振った反動に逆らわず回転蹴りを加え、また、掌底、手刀で絶え間なく連撃を繰り出す。
ゴブリンからゴブリンナイト、果てはゴブリンウィザードまで攻撃の波は侵食していき、追撃とばかりにこちらに戻って来たウルフたちもゴブリンにかみつきやらひっかきといった攻撃で戦線に加わる。
いくら数十体単位で敵がいようが私たちの敵でなく、それから少し経った後には私たち以外に立っているものは誰一人としていなかった。
〈戦闘が終了しました〉
「終わってしまえばあっけないものですね。てか、ゼロさんのオリジナルスキル、強すぎませんか? 俺たちのステータスが凄いことになってたんですけど」
「そこはオリジナルスキルだからな。まあ、その分制約は重くしているのだ。それでもパーティーを組んでいれば問題ない制約ではあるのだが」
さっきの戦闘では〈白黒〉が最大まで効果を発揮していたので私のオリジナルスキルの異常性を再認識してしまったようだ。
光魔術と闇魔術を交互に発動させる制約はともかく、ダメージを食らわないようにするにはパーティーを組んで後ろに籠っていればいいだけなので満たすのは案外簡単なのだ。もし、私と同じオリジナルスキルを作った神官がいるとすればそのパーティーは間違いなくすぐにでも上位に上がってこれる。
まあ、上位になれたからと言ってトッププレイヤーたちに敵うわけがないのだがな。私たちにとって後衛職から潰すなど当たり前でそこをどうリカバリーするかがタンクや前衛職の役割なのだ。
たまに私みたいな例外がいるが、そういうやつが上位のさらに上、トッププレイヤーと言われるようになる。
そのトッププレイヤーたちも現実では武術を習っていたり、腕利きの職人だったりとその道のプロばかりだ。そこが没入型の利点であり欠点でもあるが。だが、それくらいのことは誰しもが承知の上なので今更騒いだりするやつなどいないのは幸いだろう。




