大地の塔 その4
「中央はこの通路の先にあるみたいですね。何回か横穴に入れば見えてくるはずです」
「了解だ。この上は10階層だからついにフロアボス戦か」
「初のボス戦ですよね。まあ、まだ10階層なので相手もそんなに強くないと思いますけど」
護の言う通り10階層のフロアボスはゴブリンリーダーと言う魔物で、取り巻きに10体ほどのゴブリンを引き連れているらしい。指揮能力は多少あるらしいがゴブリンリーダー自体の戦闘能力は上位種のゴブリンたちと大して変わらないとのことだ。
フロアボスと言うことで多少のボス補正がつくのだろうが今の私たちからしたら大した違いはないな。
「うへ、この先にはかなりのゴブリンが溜まっていますよ。ハズレの道を引いちゃったみたいですね。どうします? 迂回して他の道を探しますか?」
「いや、このまま進めば階層の中央に着くのだろ? だったら迂回せずにこのまま進めばいいのではないか?」
「それが、6体ほどの群れが何十グループとあるみたいですね。どこかの群れと戦闘になったら確実にリンクしてきますよ」
「だったら、ボス戦前の前哨戦と行こうじゃないか。それに継続戦闘だったら大した手間もかからずに終わるだろう。長期戦なら私の〈白黒〉の効果が最大限に発揮できるからな」
たとえゴブリンが何十体といようが私ならバフを使わなくても一撃で倒せるし、ウルフたちもバフなしの状態で少しの間攻撃を加えていれば一体でもゴブリンを問題なく処理できるくらいは余裕があるのだ。それに〈白黒〉が加わればウルフたちでもゴブリンなど一撃で仕留めることができるようになる。
もちろんそれは護にも当てはまるのだが、あいつはもとより直接戦闘には向いてないから後ろで召喚獣の指揮を執ることに専念するのだろうが。
「私もそろそろ動きたい気分だったのでちょうどいい。それでは始めるとするか」
周囲の警戒に当たっていたウルフの横につき、メタモルフォーゼを使い聖書から銀樹刀へと武器を変換する。
「神官が木刀を持っているとか違和感しかないんですけど......」
「私のプレイスタイルを見慣れれば逆に後方支援しかしない神官に違和感を抱くことになると思うぞ」
確かに後方支援特化が神官の正しいプレイスタイルだと思うが私には関係のないことだ。
「私は適当に敵陣に突っ込むのでウルフたちには周囲のゴブリンを引き連れてきてもらえないか?」
「分かりましたけどゼロさんは大丈夫なんですか? いや、余計な心配ですね。ガルクたちは先行して通路の奥にいるゴブリンたちをここまで誘導してきてもらえるか? ハイドはいつも通り周囲の警戒を頼む」
護が召喚獣に命令を出すとガルクたちはそれぞれ横穴に入っていき、ハイドは空中を飛んで周囲の警戒を始めた。少し経ってからゴブリンたちの鳴き声があちらこちらから聞こえてきたのでガルクたちはゴブリンの誘導に成功したようだ。
「ゼロさん、来ますよ」
私は無言で頷き、私と護それとハイドにバフをかけ始める。私たちの周りには色とりどりの淡く光るオーラが纏わりつき、二振りの銀樹刀も黒く染まっていく。
ウルフの吠える声が聞こえると同時に通路の奥から一体のウルフがゴブリンを引き連れて戻ってくる。それに続いて他方二か所からも鳴き声の合図が出てぞろぞろとゴブリンがやってくる。
ざっと見た感じは30体くらいはいそうだな。
ガルクたちは私の近くまで戻ってくると、また引き返し通路の奥に向かって行った。遠くに行ってしまうとバフをかけれる範囲から出てしまうのでついでに近くに来たガルクたちにSTR上昇とAGI上昇のバフをかける。
「奥にはまだこの倍くらいのゴブリンがいますね。釣っても大丈夫ですか?」
「問題ないぞ。どんどん頼む......シールド」
やはり、この程度ではなかったようだ。数が多いに越したことはないので私としてはありがたいが万が一処理できなかった場合のことを考えて護にはシールドを張っておく。あれがあればゴブリン程度の攻撃なら何十回と攻撃を加えられても破壊されることはないだろ。
ついでに私にもシールドを使い、魔術や魔導を跳ね返すリフレクトを待機状態にしておく。階層が上がるにつれてゴブリンのレベルも上がっているがそれ以外にも出現するゴブリンの種類も増えている。その中の一体に杖を持ったゴブリンウィザードがおり、そいつが魔導攻撃を仕掛けてくるのだ。
流石にこの程度の攻撃など食らうことはないが流れ弾の警戒はしておいて損はない。こんなとこで攻撃をくらい〈万象夢幻〉を護に見られるわけにはいかないからな。
私がオリジナルスキルを二つ持っていることは護も知っているが〈白黒〉しか教えていないので〈万象夢幻〉は見せられない。切り札は切り札でなければならず、ここでバカみたいなミスをして切るわけにはいかないのだ。
ゴブリンたちが大群で迫ってくる。最初にここまで到着するのはこん棒や剣を持ったゴブリンたちだ。こいつらは何も語ることはないただのゴブリンである。
そして、少し遅れてこちらに向かってきているのがゴブリンナイトだ。コイツは鎧を着て、多少の刃こぼれはしているがちょっとやそっとの衝撃で壊れるほど柔ではない剣を握っている。
どちらにせよ問題ない相手だ。
腰を落とし居合の構えを取って奴らが近づくのを待つ。最初に使うのは最速の切り上げを放つ〈閃撃〉だな。別に居合の構えを取る必要はないだがこちらの方が力を乗せやすいから大体はこの構えを取っている。
それにしても、最近はこればっかり使っている気がするが初手で決めるならこの術理が一番使いやすい。それに次手への派生も容易な術理だと言うのもあるが。




