閑話 少年の気持ち
今回は別視点からのお届けです
僕は3年前に夢が叶わないことを知った。僕の夢はお父さんみたいな立派な魔術士になること。でも、適性検査の結果僕には魔術の適性が無いことが分かった。その時僕の魔術士になると言う夢は儚くも崩れ去ってしまった。
だけど、それは別に珍しいことじゃない。魔術の適性があるのは多くても10人に1人なのだ。単に、僕はその1人になれなかっただけのこと。
でも、魔術適性が無いって分かった時は絶望した。自分で言うのも恥ずかしいけど、僕は小さいころから勉強熱心だった。お父さんに魔力の操作は危ないからってやらせてもらえなかったけどたくさん魔術について勉強した。
あの時は大きくなったら尊敬される魔術士になるんだってみんなに言ってたっけな。でも、ダメだった。あの時のことは今でもよく覚えている。部屋に籠ってずっと不貞腐れていたんだ。
それを心配してクリスも僕の部屋によく来てくれた。でも、あれは嫉妬だったのかな。僕とは違ってクリスは魔術の適性があったんだ。それもクインティプルだった。あの時は街のみんなが彼女のことを十年に一度の天才って褒めていた。
羨ましいって思ったし、なんで僕じゃないのって思った。だから、素直に彼女にはおめでとうも言えなかった。お父さんとお母さん、それに妹や使用人たちからも元気出してって言われ続けた。
でも、元気なんて出せないよ。ずっと魔術士になるのが僕の夢だったんだから。
だけど、ある日お母さんが僕に言ったんだ。『クリスちゃんがエレメンタ魔術学園から推薦を受けたのよ』って。それを聞いて僕は「ああ、やっぱりか」って思った。
でも、お母さんの話には続きがあった。僕はこれ以上そんな話を聞きたくないと思って耳を塞ごうとしたがお母さんが話す内容に思わず驚愕で身を固めてしまった。
お母さんは続けてこう言ったんだ『でも、その話をクリスちゃんは断ったのよ。彼女はレイ、あなたがいないなら行かないって。あなたは魔術の適性こそはなかったけど守るべき者がいるのよ。あなたは魔術が使えるお父さんを尊敬しているの? それとも命を懸けても何かを守るお父さんを尊敬しているの?』と。
それを聞いた日から僕はみんなを守るために戦うのだと心に決めた。本当のことを言えば魔術を使いたかったけど、それが無くても僕はみんなに愛されているのだと分かったんだ。
すぐに家のみんなには心配をかけてごめんねって言ってからクリスの家に向かった。そこで、クリスにも毎日来てくれてありがとうと、心の底から魔術士になれておめでとうを言えたんだ。
あの日から僕はお父さんに木剣を買ってもらい毎日庭の中を走ったり素振りをして体力をつけるようにした。それに魔術士になるクリスにも僕が今まで学んできた魔術を教えたりして一緒に勉強をしたんだ。
だけど、あれから数年たった今日、僕は無力だと思い知らされた。
僕はお母さんを助けるために魔の森の麓に向かった。あそこにはいっぱい薬草があるって街の人も言ってたからお母さんの病気に効く薬草があると思ったんだ。
それに魔の森の麓には魔物が出るって知ってたけど今の僕なら勝てはしなくても逃げることはできると信じて疑わなかった。
だけど、ダメだった。
気づいたら僕は森の奥まで来ていてそこでエルダートレントンに出会ってしまったんだ。あれが魔物なんだと、こんなに恐ろしいものがこの世界にはたくさんいるんだってこの時初めて知った。
あんなのに勝とうとするなんて無理だと出会った瞬間に理解してしまった。早く逃げないとって思っても足に力が入らなくて、その場から動けなくて、無駄だと分かっていても助けを呼ばないとって泣き叫んだ。
そして、エルダートレントンの攻撃が僕に当たりそうになった瞬間、一人の男の人が僕を助けてくれたんだ。その人は神官のかっこをしていて紫の瞳を持った人だった。
その人が聞いたことのない呪文を唱えると僕の周りにいくつもの魔術陣が展開されて、魔術陣から空に向かって光の柱を放ちエルダートレントンの攻撃を全部防いでしまった。
しかし、それでもエルダートレントンの攻撃は続いていて、いつかはこの光の柱も壊されちゃう。そう思った、だけどすぐに神官様がもう一度詠唱を始めた。それはさっきの詠唱より長く一節ごとに力が入った詠唱で、そして、信じられないことに魔術陣がたくさん現れて術が行使された。
これが、昔僕が憧れた魔術士なのか、そう思った。だけど、それは間違いだってすぐに気づいた。だって神官様も僕と同じ木で出来た剣を手に握っていたから。
それはまさに今僕が目指している姿そのものであった。神官様が使ったパラライズによってエルダートレントンが動けなくなった瞬間、僕たちに迫っていた枝が全て切り落とされ、気づいた時にはもう神官様がエルダートレントンに向かって走り出していた。
神官様は迫りくる枝による攻撃を全て切り落とす。そして、どこからともなくやってくる地面からの攻撃もまるで分かっているかのように躱す。
葉の隙間から差す日差しに照らされたその姿は神への祈りを捧げる演舞を踊っているみたいで、これが僕の目指す姿だと思った。




