門番との戦闘
「ゼロ様、ご尽力ありがとうございました」
ジェスタさんはそう言って深く頭を下げる。
「いえ、こちらこそお力になれず、すみません。ところでジェスタさんは戦えますか?」
私の唐突の問いにジェスタさんはまったく意味が分からないと言った顔で首を傾げるが「年のせいで今はもう戦うことはできないと」と答える。かなり高齢だと思うので体を動かすのは無理があったか。
やるなら適当に門番にでも相手をしてもらうとしよう。
「なぜ、今そのような質問をなされたのですか?」
「先ほどはアリアさんの解呪を失敗してしまいましたが、まだアリアさんが助かる可能性があるのですよ」
「それは本当ですか!? では、なぜあの場でそのことを言わなかったのですか!」
「それは私のオリジナルスキルが関係していましてね。それに確実に治せるという保証はありませんでしたので言い方は悪いですが変に希望を持たせてはいけないと思い口をつぐんだまでです」
まだ可能性があるなら諦めないのだろう。ジェスタさんは憤怒の如き形相で私の胸ぐらを掴み問いかけてくる。しかし、オリジナルスキルが関係していると分かるとその手を放し、申し訳なさそうに頭を下げる。
「オリジナルスキルは門外不出なのは百も承知です。ですが、ですがどうか奥様をお救いください。その謝礼はこの老いぼれがなんとしてでも払って見せます故に。ですからこの通り」
ジェスタさんが腰を90度折り私に願い出る。なんか思ってたのと違うんですけど。オリジナルスキルが門外不出ってなんのことだ? 私としては住民との戦闘で〈白黒〉が発動するかが問題であってオリジナルスキルを見せることはなんてことはない。
それに老人に尽くされても困るだけだしな。
「いえ、返礼などはいいのですよ。それに私のオリジナルスキルを使うことも問題はありません。ただ、オリジナルスキルの条件を満たせるかどうかが問題なだけですから」
「それでは条件さえ満たせばオリジナルスキルを使用していただけるのですか?」
「そう言うことです。なので条件を満たすためにも戦闘ができるか聞いたわけですよ。ですがジェスタさんが戦うことができないようなので門番の方にでも協力してもらおうかと思いまして」
そう言うと私は廊下を進み外に出る。私の後ろにはジェスタさんが追随しているが、私が我が物顔で廊下を歩いていても特に何も言われない。彼は今、そんなことを気にしてはいられないのだろう。
「アレックス、こちらに来なさい」
「どうかしましたか、執事長?」
「君にはゼロ様に少し付き合ってもらいたい」
ジェスタさんの言葉に首をかしげながらも門番のアレックスさんは承諾し、私のもとへやってくる。彼は銀甲冑に身を包み顔もバイザーによって守られている。腰には刀身90cm程のバスターソードが下げられておりまさに主人を守る騎士そのものだ。
足取りもしっかりしていて彼が常に気を張っていることが窺える。特に私に対しても未だ警戒しているところが素晴らしい。
「ゼロ様、先ほどは失礼を働いて申し訳ございませんでした。私はノーレクト家で門番をしております、アレックスと申します。それで何に付き合えばいいのでしょうか?」
「ちょっと私に攻撃してもらえますか」
「えっと......どういうことですか?」
全くその通りだ。いきなり攻撃してくれと言われてすぐに斬りかかってくる奴の方が異常だよな。流石に私でも数瞬だけ硬直すると思う。
「いや、オリジナルスキルが発現するかどうか知りたいので攻撃を仕掛けて欲しいのですよ」
「オリジナルスキルですか! そう言うことなら承知しました。ではいきます」
オリジナルスキルってそんなにすごいものなのか。プレイヤーは全員が持っているのであまり貴重な感じがしないが住民ならまた話は別なのかな。それも今度教授たちに教えてもらおう。彼らのことだからすでに調べ始めていることだろう。
アレックスさんが腰を落とし構えをとり、こちらの出かたを伺っている。それから数秒、私が動かないことを確認した後にアレックスさんはしびれを切らし私に殴りかかってくる。
違う。そうじゃない。腰に差している剣は飾りなのか? 私が神官だから剣を抜かないというのならなめられたものだ。
守之術理 廻々
私に向けて伸ばされた腕を掴み振りかぶった時の勢いを乗せてその場で空転させ、そしてそのまま地面に転がす。
こんなのじゃあ、戦闘とは言わない。右手を前に出し強く握る。すると〈メタモルフォーゼⅡ〉の効果により右手には〈導魔〉、腰には〈硬魔〉が差さった状態になる、
「アレックスさん、剣を抜いてください。今のままだと戦闘にもなりません。本気を出してもらって結構ですよ」
傲慢すぎるって? 自分の力量は把握している。それに今の攻防で相手の力量も理解した。単純な実力なら、例えアレックスさんが剣を抜いたとしても一撃も食らうことはないだろう。それこそオリジナルスキルなんかを使われない限りな。
「申し訳ありません。神官だからと剣を抜きませんでしたがゼロ様には剣を抜かねば歯牙にもかけられないと痛感しました。それでは失礼して本気で行かせてもらいます!」
アレックスさんが腰に差してあった剣を引き抜き両手で構える。さっきまでとは気迫が全く違う。魔力視のおかげで見える魔力の揺らぎは徐々に固定化されていき、彼が持つ剣にまとわりついていく。
私も導魔の剣先を相手の足元に向け下段の構えをとる。意識を集中させれば庭からはもちろん屋敷の方からもこちらを見る視線を感じる。
これならいい戦闘ができそうだ。後は〈白黒〉がしっかり発動するかの確認をする。それで、もし発動すればアリアさんの呪いは解呪できるだろう。




