呪いの可能性
「そうなのね。あの子がそんなことを」
「彼は心優しく勇気ある子ですよ。人のために行動できる人は少ないですからね」
人のために行動する。言葉で言うのは簡単だが、いざ行動に移そうとしてもできる人は少ない。ほとんどの人間は私情を挟んでしまうものだし、純粋な気持ちで行動できるのは大半が子供だろう。
もちろん私も純粋な気持ちで少年を助けたわけではない。森の中に悲鳴が響いたらそれはもうイベントクエストだろ? イベクエなら積極的に参加するさ。まあ、イベクエじゃなくても、流石にあそこで見捨てることはしないと思うが家まで送り届けたらすぐにログアウトしていた可能性が高い。
「ですが奥様、一人で魔の森に行ったのは流石に見過ごせませんぞ。今回はゼロ様が助けて下さったものの一歩間違えればレイ様は......」
「まあ、その気持ちは十分に分かりますが私の顔に免じて説教は程々にしてあげて下さい」
これでこっぴどく説教されれば少年の心は折れてしまうかもしれない。少年は今、結局役に立てなかったと心の中で思っているだろうからな。
「その話はこの辺にして本題に入ってもよろしいですか?」
「ええ、折角ゼロ様が来てくれたもの。お願いします」
「しかし、結局のところ私ができることはたかが知れていますがね。とにかく微力を尽くしますよ」
私が来たからと言って解決できるような問題ならとっくに解決しているだろう。これが本当に病気の類ならな。まあ、私ができることは原因を考えることぐらいだ。せいぜい私の迷推理を披露するさ。
「少年から聞いたのですが体調が悪くなったのは3日前からですよね」
私の質問に対してアリアさんは目を瞑り何かを思い出すように答える。
「はい、そうです。私の体調が悪くなったのは3日程前でしょうか。最初は体にだるさが出るくらいだったのですが次の日にはさらにだるさが増していました。
それを見かねて夫が教会に連れて行ってくれたのですが教会では原因が分からずじまいでした。ですが昨日は神官様にヒールやキュアコンディション、それと生命の葉を煎じて飲んだおかげか体調が少し回復したました。
しかし、今日起きるとさらに体調が悪くなっており、すでに誰かの手を借りなければ動くのもつらくなってしまいました」
キュアコンディションと言う知らない魔術が出てきたが名前からして調子を整える魔術だろう。そして、生命の葉。これはウッドアニマルのドロップアイテムぽいな。
それにしても一時的には体調が回復していたのか。だが、それから再発したと。
「医療に詳しいわけではありませんが私が知っている限りでは3日でそこまで悪化する病は見当がつきませんね」
「そうですか。やはり私は助からないのでしょうか?」
「何とも言えませんね。体が動かない以外に他に症状はありませんか?」
「それは特にありません。しいて言えば魔力の制御がしづらくなったことでしょうか」
魔力制御に問題がありか。余計に分からなくなったな。この世界のことを詳しく知っているわけではないので魔力が関与すると私が答えられえる範疇を超える。
「今の話を聞いただけだとすみませんが私には見当もつきません。何か体調が悪くなる前に予兆などはありませんでしたか?」
「予兆ですか。それなら、あの日は使用人たちと市場に買い物に出ていて誰かにぶつかってから体調が悪くなった気がします」
誰かにぶつかった、ね。これは単に体調が悪くなったってわけじゃなさそうだ。
もう一度情報を整理してみるか。調子が悪くなったのは3日前。原因は誰かにぶつかったからの可能性があり。症状は体が動かしづらくなり魔力の制御に影響が出ている。そして、今では体を動かすのも難しいっと。
「その症状は呪いの可能性はありませんか? 私が知っている石化の症状によく似ているのですが」
「呪いですと!! ゼロ様、それはどういうことでしょうか」
「どう言うことも何も、そのままの意味ですよ」
魔力に関しては分からないが徐々に体が動かなくなるってのは闇魔術のアーツの一つ、カースの石化に似ている気がする。
あの呪いも徐々に体が硬直していたしな。あれに比べれば随分と効果が発揮するまで遅い気がするが昨日は神官に魔術をかけてもらったのが遅延の原因になったのではないだろうか。
「呪いと言うのは並大抵の神官では扱うことができない術ですぞ。それこそ高位神官でない限りは発動すらもままならない。それが奥様にかけられたと言うのですか!?」
「可能性の一つとして挙げたまでです。しかし、あり得なくはない話だと思いますよ。現に私も呪いを扱うことはできますからね。それに、魔術かアイテムなのかは分かりませんがアリアさんが誰かとぶつかった時に呪われたと考えればつじつまが合う気がします」
しかし、そうするとプレイヤーが怪しい。住民がやったとも考えられるが未だ息を潜めているPKが関係している可能性に一票だ。
「ですが、もし呪いだとしたらどうすれば......。この街に解呪できる神官などいませんぞ」
「ジェスタ、心配しなくても大丈夫よ。私は平気だから」
気づくとアリアさんは死を覚悟した顔つきになっていた。そうか、この街には呪いを治せる神官がいないのか。
だが、それは住民に限ってはの話だろう? 私がいるのを忘れてもらっては困る。




